第五十三話 アイーラの過酷?な特訓1
時刻は午前八時。昨日の忙しい一日は終わり、朝がやってくる。
生存者たちは目を覚まし、リビングに出てきた。
「おはよう!」
レイテットの元気な挨拶を一番にして、起きてきた生存者たちは「おはよう」と挨拶を交わす。
挨拶が交わされたところで生存者たちはとりあえずイスに座り、少し思考する。
雛はこれから先のことを考え、美保は今日の献立を考える。そしてアイーラが何も考えずにボーとしている間、レイテットはそんなアイーラを見てふと思ったことを口に出す。
「アイーラの体力不足どうにかしなくちゃね」
「んーむ。大丈夫大丈夫、私にはレイテットがいるから」
「はぁ、もしも私が昨日みたいに怪我して動けなくなったらどうするの?」
「じゃあ美保さんに抱っこしてもらう」
アイーラは美保の方を向くが、すかさず美保は「私はレイテットちゃんみたいに体力お化けじゃないから無理よ」と自信なさげにアイーラに告げる。
流石にアイーラでも無理に抱っこしてもらおうとは思わず、次は雛の方に向いた。
「じゃあ雛君におんぶしてもらう」
「すまない、俺は武器の管理や荷物の整理があるためリュックサックを背負わなければならない。だからおんぶは無理だ」
「あ、うん、分かった。やめとく」
武器の管理や荷物の重要性はアイーラでも十分分かる。だから自分のワガママで重要性の高いものを疎かにするのは気が引けた。
そういうこともあり、アイーラは素直におんぶしてもらうことを諦める。
「ね、緊急時のことを考えてやっぱりその体力不足をどうにかしなくちゃ」
「でもどうやって?」
「お外で特訓ってのはどう?」
レイテットから飛び出た提案。それが今日から始まるアイーラにとって過酷な特訓の発端となる。
「特訓か、なにすれば良いの?」
アイーラは早速訊くが、レイテットはまだ特訓内容をなにも考えていない。
「んー……」とレイテットはどういう特訓内容にして良いか悩み始める。
「なにも考えてないなら、今日は特訓なしで良いんじゃない?」
アイーラの怠け癖がふと現れる。
レイテットはそんな怠け癖を出すアイーラに「今考えるからちょっと待ってて!」と告げる。レイテットとしてはもしもの時のために、なんとしてもアイーラに体力を付けて欲しいのである。
「よし!」
そしてレイテットは閃いた。
「私含めた三人とアイーラで一対一の鬼ごっこ特訓! で、アイーラがつかまったらなにかしらの罰ゲームでどう?」
「えぇ……やだ、私に勝ち目ないよね?」
レイテットの閃きを即答でアイーラは拒否する。それもそのはず、アイーラは体力がまるでない。対してレイテットは体力お化け、雛は身体能力が人間の枠を超えつつあり、唯一化け物クラスでない美保でさえ身体は農家の仕事上十分鍛え上げられている。アイーラにはまともに勝ち目がなかった。
そこで美保が閃いた。
「ねぇ、一対一の勝負にアイーラが勝ったら一日だけ負けた鬼がなんでも言う事聞くっていうのはどうかしら」
「待って、なんでもって本当になんでも?」
アイーラが慎重に確認すると、美保は確かに「なんでもよ」と返した。
なんでも、つまり一対一で負けた相手を自分の好きに出来るということ。今まさにアイーラの頭の中で欲望が渦巻く。
「えへへ……なんでもねぇ、良いねぇ! みんなにやりたい放題!」
頭の中で渦巻く欲望がアイーラの顔に出てくる。その顔にはとてもドス黒い笑みが浮かべられている。アイーラの頭の中で鬼の三人が辱めを受けているのは想像に難くない。もはやアイーラに、いやらしい欲望を隠すつもりはなかった。
「レイテットちゃん、アイーラちゃんのモチベ上げるためにも今ので大丈夫かしら?」
「はい! アイーラのモチベを上げるためですから大丈夫です!」
「じゃあ、アイーラちゃんが勝ったら負けた鬼がなんでも言うことを聞く。アイーラちゃんが負けたら首に甘噛み。これで良いわね」
負けたら甘噛みということを聞いて「え?」と焦る声を漏らすアイーラを余所に、レイテットと美保によって特訓のルールが決められる。
「場所はどうする?」
雛がふと尋ねる。
レイテットはすぐさま「この家の近辺にするよ」と答えた。後はなにも言わず、ひたすらに雛は特訓での立ち回りを考え始める。
「じゃあ早速着替えて特訓しよっか!」
「お、おー」
レイテットの元気な掛け声に乗せられ、アイーラは特訓をすることになった。
それから少しして、時刻は午前九時。
生存者たちはそれぞれ着替えを終えて、外へと出ていた。
レイテットとアイーラはいつものようにTシャツ、短パンと身軽な格好をしている。雛は衣服が一つしかないため、スーツの上着とベストを脱いだ格好になっていた。
そして美保は短パンのメイド服。動きやすさを重視していた。
「さーてと、誰から行く?」
「順番は任せる」
「私も順番は任せるわ」
鬼の三人は順番を決め合うが、結局順番はレイテット任せとなった。
そうしてレイテットは適当に順番を決め始める。
「それじゃあ私が最初、雛君がその次で、美保さんが最後でどうです?」
「分かった」
「うん、大丈夫よ」
順番が決まった。
レイテットは「アイーラ、順番決まった! 私が最初ね!」と距離が離れているアイーラに告げた。
「あー、やっべ、やっべ……!」
首に甘噛みされることを想像するアイーラ。もしもされたら、とアイーラの頭の中で想像が膨らんでいく。
「はぁ……ちゃんと逃げないと!」
頬を軽く叩く。そうやって膨らむ想像を吹き飛ばす。アイーラは頭の中を逃げることだけに集中させ、鬼から逃げる姿勢になった。
鬼ごっこより厳しい鬼ごっこ――過酷な特訓が始まる。




