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【完結】POD Enemy  作者: D-delta
エピソード1 強く生きる雛

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第四十六話 雄叫び

ネット環境が急に使えなくなったり、ハプニングがあって更新遅れました(´・ω・`)

後、キャラそれぞれにエピソードがあることから今回から章で区切ることにしました。

 時刻は午後二時。

 薄暗い雲は全ての教室を更に暗くさせ、悪夢の再来を思わせる。


「うあぁぁぁっ!!」


 雛の苦しむ声。再び訪れた悪夢に苦しみ続ける。

 その様子を人型『PODE』たちは嬉々として見ており、もっと刺激を加えてやろうと雛をピアノに押さえ付けた。そして雛が必死に押さえている左手を強制的にピアノの鍵盤の上に置く。

 まさにその行いは雛の悪夢と同じ。

 一体の人型『PODE』が手からコピーした包丁を生み出す。透明感のある緑色の刃が雛の左手に近付いていく。


「ヒヒヒ、アハハハ」


 人型『PODE』たちの好奇心が生む不気味な笑い声。その声が雛の悪夢と同じく教室中をいっぱいにした。盛り上がりを見せてきた今、人の思考や感情を持つ人型『PODE』は手に入れた獲物を食うことよりもいたぶって楽しむことを優先していた。

 そうして、もっと刺激の欲しい人型『PODE』たちは包丁の刃を雛の左手目掛けて振り下ろした。


「うぐっ! うぐぁ!!」


 傷痕のある左手に包丁の刃が深々と刺さる。刃はタクティカルグローブを貫通し、肌を突き破り、肉を裂き、骨を通り抜ける。そうして刃は左手の甲から手の平に抜ける。左手からドクドクと血が漏れ始め、ピアノの鍵盤が血に染まっていく。


「うっ……くっ!!」


 左手の凄まじい痛みが悪夢に苦しむ雛を襲い、今まで幻覚だった悪夢は現実となっていく。

 いないはずのいじめっ子たちの姿は人型の『PODE』たちと重なり、あの時の鍵盤が血に染まるピアノは今まさに鍵盤が雛の血で染まるピアノと重なり、聞こえるはずのない笑い声は人型の『PODE』たちの笑い声と重なり、自らの血の臭いが重なる。

 そして感じるはずのない左手の凄まじい痛みは現実のものとなる。


「ハハハハハハハ!」


 悪夢という名のトラウマは雛の記憶から完全に呼び起こされ、見えるもの、聞こえるもの、感じるもの全てが二重に重なる。

 彼女たちのおかげで色付いていた世界は悪夢が生み出す灰色に塗りつぶされていく。ようやく出会えた色なのに、全部消えていこうとしている。

 麻痺した人生が戻ってくる。ようやく心から好きな人と出会えたのに、存在が消えていこうとしている。

 虚しい気持ちが溢れかえる。ようやく楽しい気持ちを取り戻せたのに、その気持ちが消えていく。

 死が迫ってくる。ようやくみんなと生きたいと思えたのに、その生きたい気持ちすら消えていく。


「うぁぁっ……ぐぅっ!!」


 雛はなにも出来ない。あの小学生の頃と同じ。

 悪夢は忠実に再現される。

 そうしてやって来るのは虚しい死、空っぽの死、意味のない死。

 雛の心が死に、雛の人生が死に、雛自身が死ぬ。どの死も雛本人にとって無価値であり、空虚。しかし抵抗は出来ない。


「ぐぁぁぁ!!」


 左手に際限なく包丁が振り下ろされる。

 何度も、何度も、何度も突き刺し、人型の『PODE』たちは喜ぶ。それと同時に叩きつけるような突き刺し方によってピアノが悲鳴のような雑音を上げていた。


「雛君……」


 薄い意識の中、レイテットの目が開いた。視界に入るのはいじめを通り越して雛が蹂躙される姿。

 レイテットがどうにか助けたいと思っても、身体は言うことを聞かない。どうすることも出来ない。

 雛は左手を何度も刺され続け、人型の『PODE』は笑い続ける。

 残酷な好奇心と雛の悪夢が教室を包み込む。


「悪夢なんかに負けるな!」


 レイテットは叫んだ。なにも出来ない状態の今では自らの想いしか送れない。だけど、せめて雛に届けと、レイテットは自らの想いを言い続ける。


「生きて! 負けないで!」

「うぐぅ……!!」


 悪夢に支配される雛に、レイテットの全力な想いが届き始めた。段々と雛の見る世界が色を取り戻していく。


「雛君のこと、大好きなの! だから絶対に死なないで!!」


 レイテットの声が人型の『PODE』たちの笑い声を、ピアノの悲鳴のような雑音を、雛の悲鳴を掻き消す。

 たちまち人型の『PODE』たちの目は大声を出すレイテットの方に向いた。今度はレイテットが蹂躙される。それは間違いないことだ。


「雛君!!」


 レイテットの想いを乗せた大声によって静寂に包まれた教室。人型『PODE』たちは雛からレイテットにターゲットを変え、近付いていく。これでレイテットの蹂躙が確定された。

しかし雛は動けない。悪夢がそうはさせない。

 悪夢が雛の身体を押さえ付け、左手を何度も刺していく。そうして雛の左手に凄まじい痛みが走り続ける。


「うぐっ! くそっ!!」


 あの頃からなにも変わっていない。身体が大きくなっても心はトラウマを植え付けられた小学六年生のまま。抵抗出来ない。

 ただ見ているだけ。自分の蹂躙される姿を、レイテットが蹂躙されようとしている姿を。


――このままで良いのか?


 自分が問いかけてくる。

 小学六年生のままの雛は「嫌だ」と小声で答えた。

 やっと世界が色付いてきたのだ。やっとまともな人生になってきたのだ。やっと大切な人が出来たのだ。


「誰が離すものか……!」


 雛は強く拳を握る。


――だったらやることは分かっているよな?


「みんなと生きる」


 そこで問いかけてくる自分は消えた。

 雛は静かに強い決意を抱き、悪夢に抵抗し始める。


「うるせぇ……!」


 雛は悪夢を否定し、なんとか立ち上がる。まだトラウマは雛の身体に染みついており、声は強張っていた。

 だが、悪夢に抵抗する最初の一歩だ。


「俺はもう離さない、なにもかも!」


 雛の大きい声に反応した人型の『PODE』たちが足を止め、振り返る。そうしてまた雛を蹂躙しようと近付いていく。

 一体の人型『PODE』が雛を刺し殺そうと包丁を振り回す。今の雛は武器を取られて素手の状態、不利なのは確実。しかしそんな不利など物ともせず雛は右腕で攻撃を止め、人型『PODE』の身体に左手を入れた。


「アハハハ」


 このまま食ってやろうと人型『PODE』は雛を取り込み始めるが、死ぬのは人型『PODE』の方だった。

 雛は『シールド細胞』を鷲掴みにして、そのまま握力だけで潰した。まさに力技、並々ならぬ強い決意によってみなぎる力があるからこそ出来ることだ。

 それまで包丁を振り回し、一方的に蹂躙するつもりだった人型『PODE』は蒸発した。


「!?」


 素手で殺してくる人間が目の前にいる。しかも身体の中に手を入れて心臓部を潰してくる。

 人間の感情を持つ人型『PODE』たちは戦慄するしかなかった。


「うおぁぁぁ!!」


 雛の雄叫びが轟く。呼応するかのように雷鳴が轟き、雷が悪夢を打ち砕こうとする雛を照らす。

 雛の雄叫びで怖じ気づいた人型『PODE』たちは錯乱し、雛に向かって突撃し始める。


「うおああぁぁぁぁ!!」


 先ほどよりも凄まじい雛の雄叫び。

 更に力をみなぎらせた雛は向ってくる人型『PODE』の身体に一瞬で手を入れ、心臓部である『シールド細胞』を潰していく。

 攻撃される前に一瞬で手を敵の身体の中に入れる業。それはナイフの達人――スペツナズ隊員の業を見て盗み、アレンジしたものだ。


「最後ぉ!」


 最後の一体。その心臓部を潰す。そして蒸発。

 雛の手は人型『PODE』たちの血に濡れ、全ての人型『PODE』は蒸発した。


「はぁ……はぁ……今度は、守れた」


 雄叫びと共に悪夢を打ち砕いた。

 いじめっ子の姿は見えず、笑い声はない。そして左手からの痛みは一切ない。幻覚や幻聴の類はなくなっている。それは悪夢が打ち砕かれた証拠となっていた。


「レイテット!」

「雛君……!」


 雛とレイテットはもう離さないと言わんばかりに強く抱き合い、温もりを感じ合う。


「あらあらー」

「おー……」


 アイーラと美保も意識を取り戻し、抱き合う雛とレイテットを微笑ましく見ていた。


「ありがとう、レイテット。ずっと好きだよ」

「私もだよ、雛君! ずっと一緒だからね!」

「あぁ、ずっと一緒だからな」


 雛は悪夢を打ち砕いた。これで人生から麻痺は消えた。

 雛は大切な人たちと共に前へと進む。

いよいよ雛のエピソードは終盤です。

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