第四十五話 いない人 灰色の世界
ブクマ数が増えているのが嬉しい私であった。
いやぁ、読んでくれて本当にありがとうございます!
雷鳴が轟き、雨は豪雨となって大地に降り注ぐ。まるでなにかの舞台が整いつつあるのかのようである。
そんな中、生存者たちは悲鳴を辿って二階に到着。悲鳴を上げたであろう他の生存者の探索に入った。
「誰かいる?」
美保が懐中電灯で前方の廊下を照らして訊く。
「生存者は発見出来ないです」
「こっちもダメです、美保さん」
雛、レイテットと続いて、薄暗い廊下で生存者を発見出来ないことを美保に伝える。しかしアイーラは何者かが出す微かな音を逃さずに「いるよ」と伝えた。
すかさず美保が「どこ?」とアイーラに場所を訊く。
「たぶんあそこの部屋」
アイーラは音を頼りにして、一番奥にある教室に指差した。
「急ぐよ、みんな!」
助けたいという気持ちの強いレイテットを先頭にして、生存者たちは一番奥にある教室に走った。
そして一番奥にある教室の扉を前にした生存者たちは急いで扉を開ける。
教室内は薄暗い。
「俺が先に行きます。美保さんは前を照らしてください」
「わ、分かったわ」
SAIGA20を構えた雛が先に薄暗い教室に入り、その次に入った美保が教室内を照らす。レイテットとアイーラは後方を警戒しながら教室に入りこむ。
視界は十分に確保され、全員が無事に教室に入り込めた今、生存者たちは他の生存者を探し始める。
「いない?」
他の生存者を探して十分。
隅から隅まで探し、机の下から教卓の下まで探した。しかし雛は誰も発見出来なかった。
「誰か発見出来たか?」
誰も発見出来なかった雛は念のために彼女たちに確認する。
「ダメ、こっちは見当たらない!」
「レイテットちゃんと同じく、私も発見出来てないわ」
「私も発見出来なかった」
レイテット、美保、アイーラと続いて他の生存者を発見出来なかったことを告げた。しかも生存者たちは人影や痕跡さえも発見出来ていなかった。
「なんでだろう……確かに音と気配はあったのに」
「勘違いとかは?」
「かもしれない。隣の教室に行こう」
微かな音と何者かの気配はあったのに、入ってみれば誰もいない。
アイーラの頭の中に〝なぜいないのか?〟という疑問が浮かび上がるが、レイテットの発言でその疑問を一旦振り払う。
「よし、そうとなれば隣の教室に行くぞ」
今度は雛を先頭にして、生存者たちは隣の教室に移動する。そうして隣の教室の扉を開いた。
「誰かいませんか!!」
レイテットが思い切り大きな声で呼びかける。この声量であれば近くの教室にも聞こえる。運が良ければ、レイテットの声を聞いた他の生存者がこちらにやってくる。それか声を返してくれる。
生存者たちはしばらく他の生存者から反応が来るのを待った。
「嘘、どういうこと?」
しばらく待った。数分経っているのにも関わらず、返事が来るどころか物音一つない。
レイテットは〝なぜ誰も返事を返してくれないのか?〟という疑問を抱くしなかった。
「まさか、悲鳴を上げたのは幽霊だったり……?」
美保は震えて言うしなかった。明らかに不気味過ぎるのである。
アイーラは確かに音と気配を感じ取って言っている。嘘も勘違いもない。そう、一番奥の教室には何者かがいたのだ。
「ひょっとしたら、こちらが怖くて出て来ないのかもしれない。とりあえず探すぞ」
雛は幽霊かもしれないと怖がるよりも前に、他の生存者を探すことにした。そして彼女たちはというと、幽霊を怖がっていた。
レイテットとアイーラは幽霊に対してビクビクし、美保は雛がどこかに連れ去られないように懐中電灯で雛を照らし続ける。
「雛君、あんまり一人で動くとヤバいんじゃない!?」
美保の心配に対し、雛は「大丈夫です。敵が出てきたらすぐ撃ちます」と冷静に返した。雛の表情には恐怖というものはない。至って冷静である。
そうして雛は懐中電灯に照らされながら教室に誰かいないか探し始める。
この教室も同じく隅から隅まで探し、机と教卓の下から掃除用具を入れているところまで探していく。
「ここもいないか」
他の生存者を探して数分。結果は先ほどの部屋と同じ、誰もいないである。
「雛君、早く出ない?」
幽霊に怯え、手をガクガクと震わしている美保が言う。
この教室には誰もいないことが分かった雛は「はい」と一言言って、美保のところへと戻った。
「?」
美保の側に来て、雛は違和感を感じ取る。
「声が足りない……レイテットとアイーラは?」
「え? 私の後ろにいない?」
雛と美保は教室内を見回すが、レイテットとアイーラはいない。そう、忽然と消えてしまったのだ。
「もしかしたら廊下で待っているのかも」
「かもしれませんね」
雛と美保の二人は教室を出て、廊下を見回す。しかしいない。
廊下に隠れられるような場所はなく、隠れることも出来ない。
「どこ行ったの?」
忽然と姿を消すレイテットとアイーラ、いない人間の悲鳴。不安と恐怖が美保の身体を駆け上がる。もはや美保はパニック状態だ。手足は震え、心音はバクバクと早くなっていく。
「レイテットちゃんとアイーラちゃんが消えて……次は誰が消えるの?」
美保は声を震わせて、こんなの現実じゃないと強張った笑いを声に出す。パニック状態から発狂にまで行く寸前だ。
「美保さん!!」
雛の大きな声を聞き取り、美保は雛に肩を力強く掴まれる。その力強さは発狂寸前の美保の心に届き、正気を保たせた。
気付けば相手の息遣いが分かるほど距離が近い。唇もすぐ近く。雛の鍛えられた胸板と美保の豊満な胸がくっ付き合っている。このまま美保が襲われてもおかしくない。
「ひ、雛君!!」
美保は咄嗟のことに顔を赤く染め、リュックサックが飛んでいきそうな勢いで驚いていた。
雛には「?」しか浮かばず、ただただ美保を正気に戻すことを考えていた。
「わ、わわわ……!」
「美保さん?」
「え、えー……どうもしてないわよ!」
「そうですか」
美保は自らの恥ずかしい一面を隠すためにひたすらに誤魔化す。そして雛は「とりあえずレイテットとアイーラを探しに行きましょう」と言い、美保の誤魔化しは上手く成功した。
雛と美保の二人は教室を出て、レイテットとアイーラを探し始める。
まずは廊下。二人は廊下で徹底的に探すものの、レイテットとアイーラは見当たらない。
「廊下にいないのなら、後は教室だけか……」
「そうね、行きましょう」
今度は教室に入り込む。が、レイテットとアイーラの姿はどこにもない。
そうして探していく内に二人は最後の教室に行き着く。
「ここが最後ね」
ここが最後。ここで見つからなければ一階か、はたまた何者かに連れ去られたか。どの道ここを開けば分かる。
二人はもしもの事態を覚悟し、レイテットとアイーラが最後の教室にいることを祈った。
教室の扉が開かれる。
「照らすね」
美保が懐中電灯で教室内を照らす。
照らされて見えてくるのは黒板と教卓、並べられた机とイス、そして気絶したレイテットとアイーラだ。
「レイテット、アイーラ!」
ようやくレイテットとアイーラを発見出来た雛と美保は駆け寄る。しかし駆け寄る途中、雛の視界にそれは入った。
全体が黒く、白と黒がある鍵盤、雛の記憶に焼き付いたシルエット。思わぬ場所で不意に現れたそれは、まさしくピアノだ。
「雛君! レイテットちゃんとアイーラちゃん、生きてるわよ!」
レイテットとアイーラの無事を確認し、不安と恐怖のなくなった美保は雛に呼びかける。だが、言葉は届かない。
雛の全身は再び悪夢に支配されているのだ。聞こえてくるのは雛にトラウマを植え付けたいじめっ子たちの嬉々とした声、何度も叩きつけられて悲鳴のような雑音を出すピアノ。見えてくるのは笑みを浮かべているいじめっ子たちの姿、かつての音楽教室、自らの血で染まるピアノの鍵盤。感じ取れるのは左手に穴が空くほどの痛み、全身を押さえ込まれる感覚。
「うあああああ!!!」
悪夢が訪れる。だが、訪れるのは悪夢だけじゃない。
『PODE』も訪れたのだ。
「雛君、後ろ――あっ……」
美保は雛を救おうとするが、パルクールを得意とする人型の『PODE』が窓から入ってきて、背後から気絶させられる。
後は雛一人だけ。
学校に潜んでいた十体全部の『PODE』が姿を現し、悪夢に苦しむ雛を囲んだ。
囲んで始まるのは、悪夢の続きである。
悪夢再び




