第三十話 暗い空
感想二つもらってテンションが高くなっている私である。
時刻は午後十時。太陽は地平線の向こうに落ち、暗くなっていた。その暗い中、太陽に代わって月の光が下を照らしていた。
家の中では晩ご飯を食べ、休んでいる各々の姿があった。
「私、自分の部屋に戻っているね」
いつもの気だるい様子のアイーラが告げ、自身の部屋へと戻っていく。
今リビングにいるのはイスに座っている雛、雛の隣で本を読んでいる美保、雛を一日中抱きしめているレイテットだ。
「ゼラ――じゃない、雛君。いじめられた記憶はもう忘れた?」
「ごめん、流石にそう簡単には忘れられないよ」
「じゃあもっと抱きしめて忘れさせてあげる!」
レイテットはニッコリとして雛を抱きしめ続ける。
雛はレイテットの温もりと優しさがこれまで感じたことのないほど心地良かった。もうずっとこのままでいたいという気持ちまで生まれてきている。それでも雛の父親が教えた「強く在れ」という言葉は忘れないが、彼女たちの「頼ってほしい」という言葉を新たに覚えた雛は「強く在れ」という言葉だけに囚われず、柔軟さを増していた。
「レイテット、本当にありがとう」
「いーえ、どういたしまして!」
レイテットは底抜けに明るい声で告げる。
すると雛が小さく笑った。
「このこの!」
雛の笑顔を見つめ、レイテットは嬉しくなった様子で雛の頭を少し激しめに撫でる。
撫でてくれることも、抱きしめてくれることも、優しさと温もりをまともに感じられる故にひたすら雛は嬉しかった。
「そろそろ大丈夫だよ、レイテット。次のことに集中したい」
「はーい!」
雛の要望に応えて、抱きしめることを止めたレイテットは雛の隣の席に座った。
「さて、武器の手入れだ」
雛は幼い一面を内に隠し、いつもの鋭い目付きとなる。鋭い目は真剣そのものと言える。
ポケットから布きれを出し、テーブルの上に置かれた9mm拳銃を分解する。手入れの準備を完了した雛は手入れを始める。
細かい部品の細部から細部まで布きれで拭き取り、綺麗にしていく。
手入れを始めてから数分が経つ。
9mm拳銃の部品たちは雛の手によって綺麗になった。ピカピカとまではいかないが、汚れは全て取れている。
「これでよし」
組み立て直した9mm拳銃を見て、綺麗になったことを確認。納得したように手入れを終える。そのまま9mm拳銃をレッグホルスターに戻す。
「次なにする?」
隣で頬杖をしていたレイテットが雛に向けて訊く。
雛は思考する。この後になにかすることを頭の中から引っ張りだし、そして口に出した。
「もう特にすることはないだろう。後は救出部隊を待つ。三日して救出部隊が来ないのであれば行動を起こそう」
「ふーん」
「それまではここでゆっくりするなり、食糧確保なりしなければ」
「食糧は大丈夫。缶詰めならまだ四十個ほどあるし」
レイテットが言った缶詰めの個数を頭の中に置く雛は、救出部隊が来ない場合を思考する。もしも来ない場合が現実となればここでの生活をしばらく強いられる。そうなれば食糧の確保や武器弾薬の調達が必要になる。
「食糧はまだ大丈夫として、まずは武器弾薬の調達だな。武器弾薬はもう残り少ない。この先も『PODE』と戦うことはある。そのためにも武器弾薬が必要になる。しかしあくまで救出部隊が来なかったらの場合だが」
雛はレイテットにそう説明し終える。その説明は美保の耳にも届いており、困ったような表情で「来ないなんてことはなしにしてよね」と告げた。
雛は美保の不安を無くすために「救出部隊が絶対に来る」とは言えなかった。もしも来なければ嘘を吐いたことになり、美保を余計に絶望へと落としてしまうからだ。
「…………」
それ故、雛はなにも言わず、美保の不安にはスルーした。
雛は次の行動に移り、リュックサックに入れていた地図をテーブルの上に広げた。広げられた地図上から武器を調達出来そうな場所を探していく。あくまでこれは前準備である。今の内に武器を調達出来る場所をマークし、三日過ぎれば行動に移す。
しかし行動に移すとなればリスクも当然出てくる。そのリスクを避けるためにどのルートを通るかも雛は考える。
「すまない、ペンはあるか?」
「ペン? あるわよ」
雛の頼みに応える美保。美保は棚から目立つ赤ペンを取り出し、そのまま「はい」と言いながら雛に渡した。
雛は一言「ありがとう」と述べて、赤ペンのペン先を地図に向ける。そして武器の調達出来そうな場所を赤ペンでマークしていった。
一つ目のマークした場所は民家が並んでいる場所だ。
ロシアは民間向けに銃を売っている。運が良ければ並ぶ民家のいずれかに銃器があるだろう。それを狙って雛は赤ペンでマークしたのだ。
「レイテット、この街に軍が駐留していたところは分かるか?」
「駐留していたところ? うーん、学校に軍が入って行くのは何回か見たことあるけど駐留かは分からないなぁ」
「なるほど、行ってみる価値はありそうだ」
雛はレイテットの情報を聞き、学校にマークを付ける。もしも軍が学校に駐留していたのならば軍用の銃や装備がある。もしも軍用の銃や装備を手に入れることが出来れば戦力増強はまず間違いない。
それもそのはず、民間向けの銃は性能を抑えられており、殺傷能力は軍用と比べて低い。民間向けの銃はあくまで狩猟用や護身用という立ち位置なのだ。それと比べて軍用の銃は殺傷能力が高く、性能は十分に発揮出来るようになっている。あくまで対人用であり、戦争に入った時のことを考えて軍用の銃は性能が高いのだ。
「よし、これぐらいか」
雛は赤ペンでのマークを付け終える。
地図上の学校と立ち並ぶ民家に赤ペンのマークが付いており、そこまでに行く安全と思われるルートも赤ペンでなぞられていた。
これで前準備を終えることが出来た。
雛は「終わった」と言って、美保に赤ペンを返そうとした。
「あ、そこの棚にいつも戻してるから適当に戻しておいて」
「了解」
美保は本を読みながら棚に指差し、言う。雛は美保の言うことに従い、一度席を立って棚の中に赤ペンを戻した。
雛はレイテットの方へ向き、口を開く。
「これで前準備は終わりだ。後は救出部隊が来るまでゆっくり待とう」
「いぇーい! じゃあ雛君、私の部屋においでよ!」
「良いが、一体なにをするんだ?」
「ゲームとか撫でたりとか、色々!」
「わか――」
最後まで言わせず、レイテットは雛の手を引っ張り自室に連れて行った。そして部屋での雛はレイテットに大人しく撫でられている。
「ふふ」
雛とレイテットが仲良くやっている様子を見て、美保は微笑む。その微笑みはまるで自分の子を見守る母親のようである。
※
「…………」
雛とレイテットが仲良くし、美保が微笑みを浮かべている中、一人部屋に引きこもっているアイーラ。
みんなの笑い声を聞く。その度に内にある苦いものが込み上げてくる。
苦しんでいた雛になにもしてやれなかった。してあげようとしてもなにをすれば良いか分からない。なにも出来ない。
レイテットや美保は雛をちゃんと支えていた。
「私、またなにも出来なかった」
度重なる劣等感に苛まれ、アイーラはベッドの中でうずくまった。
その目は劣等感に慣れているが、心は違う。劣等感を感じる度に心は苦しくなっていく。
暗い部屋の中。暗い外。暗い目の前。
苦い過去がアイーラの頭の中を過っていく。
そして夜は過ぎていく。自分に諦めた怠け癖と自分は凄いという見栄が劣等感など最初からなかったことにして。
さて、どんな銃登場させようかな~




