第二十四話 地対空ミサイル破壊作戦3
時刻は午前十一時。生存者たちが出発してから三時間が経っていた。
空は相変わらず雲に覆われており、灰色のままだ。
その空の下を生存者たちは歩いている。一番道が分かりやすいルートである車道を通り、最後の目的地に向かっているのだ。
周りの木々にある葉が風でざわつく。まるでなにかの前触れを暗示しているようにも見える。
「少し風出てきたね」
「お、丁度良いじゃん。身体が少し熱くなってきたところだし」
レイテットとアイーラは吹く風に自ら当たりに行って、その身体を冷やした。二人の元気な様子を見ていた美保は微笑む。
彼女らが楽しみながら進んでいるのを余所に、ゼラは警戒を解かずに無口なまま道を進んでいる。
「ゼラ君」
美保の艶やかな声がゼラの耳元で囁いた。
ゼラは無表情なまま美保の方に向いた。視界に入ってくるのは美保の意地悪く笑う顔だ。
「からかいか?」
「うん、ゼラ君がどんな反応するかなってね」
「俺は期待通りの反応を出来たか?」
「全然。ゼラ君は一番年下なんだからもっと可愛い反応してくれても構わないのよ? ちなみにレイテットちゃんとアイーラちゃんの方はメチャクチャ可愛い反応してくれたわよ」
ゼラはピクリとも表情を動かさず、美保の話を聞いている。
「そうか」
ゼラは美保の期待に答えられなかったことを少し気にしてしまい、顔を俯ける。そしてすぐにミサイル車の破壊を頭に入れ直し、顔を上げた。
生存者たちは雰囲気を明るく保ちながら目的地にまでの距離を確実に縮めていく。
「目的地まで後400m。ここからは先ほどと同じく木々の間に入って行くぞ」
ゼラは指示を出し、先に木々の間へと入って行った。指示を受け取った彼女たちもゼラ同様に木々の間に入って行く。
生存者たちは落ち葉を踏んで木々の間を進んでいく。
「そろそろ目的地に到着する。周りに対して警戒を強めろ、ここで発見されて敵に先手を許すと死ぬ可能性があるからな」
ゼラの冷静で真剣な声は彼女たちに指示を下す。
「はいよぉ!」
「見つかっても私の狙撃で返り討ちにしてやるよ」
レイテットとアイーラは気を楽にして答える。そしてゼラの指示通り、周りに対して警戒を強めた。
美保も周りに警戒を強める。しかしその姿はどこか頼りなく「来るなら近くにいてよ」と言っていた。それもそのはず彼女はブラックバスターと呼称する軍用スコップしかないのだから。
生存者たちは周りの警戒を強めたまま目的地に向けて移動を続ける。
そして進み続けて数分のこと。生存者たちは目的地を目前にしていた。
「待機」
ゼラの手の合図と同時に指示が飛ぶ。
生存者たちは一斉に足を止め、目的地の方向に目を向ける。木々の陰から向こう側の様子を見る生存者たち。
向こう側には敵がいた。
数は先ほどの地対空ミサイル破壊作戦より多く、ミサイル車をコピーした個体を含めて全部で九体いる。しかも今度のロシア兵をコピーした『PODE』は警戒を強めている。
「敵は警戒態勢に入っている。先ほどの攻撃は上手く行ったが、今度は難しいだろう。とにかく慎重に攻撃するぞ」
一層の緊張感を持つゼラの声。その声に彼女たちはコクリと頷く。
流れる緊張感の中、レイテットが「配置はどうする?」とゼラに訊いた。
「今度はレイテットの突撃作戦は通用しないだろう。よって、陣地変換を駆使した攻撃を敢行する」
「陣地変換?」
レイテットにとって聞いたこともない言葉であり、首を傾げた。
レイテットが首を傾げているのに対して、ゼラは軽く説明するために口を開いた。
「陣地変換は簡単に言うと、自分のいる位置を変えることだ」
「なるほど、そういうことね!」
レイテットは意味を理解出来たように相づちを打つ。そしてそのまま作戦も理解したように、自分なりにまとめて口にした。
「つまり作戦は自分が撃たれないように、攻撃しては逃げて、攻撃しては逃げてを繰り返すんだよね!」
「そういうことだ」
ようやく理解出来たことが嬉しいのか、レイテットはニコニコとしている。その笑顔に釣られてゼラも不意に笑顔を見せた。
ゼラはアイーラと美保の方に向いて「作戦は理解出来たか? 分からなかったら遠慮せずに聞いてくれ」と尋ねた。
アイーラと美保はレイテットの簡単なまとめで作戦を理解しており、二人揃って「大丈夫」と答える。
「作戦は大丈夫だな。まず攻撃する前に弾の補給だ。今の内に弾を満タンにしておけば攻撃の際に困らない」
ゼラは自らそれを実践するようにリュックサックから二発の9mm弾を取り出し、レッグホルスターから9mm拳銃を抜き取った。
9mm拳銃のカートリッジを外し、二発の9mm弾をカートリッジに入れる。これで9mm拳銃の弾数は最大の八発だ。そしてカートリッジを元に戻し、9mm拳銃を撃てる状態に戻す。
ゼラのその様子を見ていたレイテットもアイーラも同じように、それぞれ持ってきた弾薬をカートリッジの中に入れていく。そして弾数が最大となり、それぞれカートリッジを元に戻した。
「うん、これでOK!」
「私も準備おっけぃ」
元気の良いレイテットと気だるい雰囲気のアイーラ。その二人は準備が完了したことを告げる。
「では、作戦開始。攻撃を始める!」
二人の準備完了を聞き取ったゼラは作戦を開始させた。
ゼラ、レイテット、アイーラはその手に持つ銃で敵に狙いを定めて引き金を引く。それぞれから放たれた弾丸は同時に三体の『PODE』の『シールド細胞』に命中、命中させた三体全部を蒸発させる。
残りはミサイル車をコピーした個体を含めて六体。
「陣地変換!」
ゼラの指示に合わせて全員一斉に動き出す。木々の陰に隠れながら次の場所に入り込む。
そして生存者たちがいた場所は『PODE』による集中砲火に晒された。コピーされた弾丸――AK74のポイズンバレットが殺到する。まさにそこは弾丸が無数に飛ぶ死地だ。そこにいれば無数の弾丸によって穴だらけにされることは間違いない。
しかしそこに生存者はもういない。
「攻撃!」
別の場所にいた生存者たちはゼラの指示の下、一斉に攻撃を再開する。
一斉に響く発砲音。生存者たちの銃から放たれた弾丸が木々の間を駆け抜け、敵を射抜いた。ゼラとアイーラの放つ弾丸は確実に『シールド細胞』を射抜き、蒸発させる。しかしレイテットの放った弾丸は『シールド細胞』を外れて、ロシア兵をコピーした『PODE』の腕を射抜いていた。
「陣地変換!」
レイテットが攻撃を外したこともあって、残りは四体。
ゼラはこれ以上の攻撃は危険と判断し、大声で指示を下した。
生存者たちは敵からの攻撃を避けるため、一斉に動き出す。
生存者たちが動いている間、ロシア兵をコピーした三体の『PODE』は一気に決着を付けようと木々の間に入って行った。
ここから近接戦闘になることは間違いない。
「敵がこちらに近付いて来る、ここで戦うには視界が悪い。接近戦になる可能性もある。よって警戒しながら陣地変換、敵を発見次第攻撃しろ」
敵が近付いてくるのを見ていたゼラは咄嗟に指示を出した。
「全く面倒な奴ら……」
「ど突き合いなら任せてよ!」
「私のブラックバスターも忘れないでね」
ここの視界の悪さでは簡単に狙撃出来ないことから、アイーラはぼやく。そして突撃が得意なレイテットと近接戦闘しか出来ない美保はやる気のある顔をしていた。
生存者たちは陣地変換を開始する。木々の陰から陰に移動し、周りを確認する。
「いたねー、不用意に出てきちゃってさ」
一番目の良いアイーラが近付きつつある『PODE』を発見。スコープを覗き込み、敵の心臓部を見つめる。
ニッと笑い、引き金を引く。放たれた弾丸が木々の間を駆け抜け、普通は見つからないであろう場所にいる『PODE』の『シールド細胞』を射抜いた。
「一匹仕留めたよ」
アイーラは敵を倒したことを報告する。ゼラとレイテット、美保はその報告を聞き取った。
「後二匹! んでもって一匹発見したよ!!」
レイテットは張り切るように言う。視界の先には『PODE』がおり、既にレイテットに向けてAK74の引き金に指を掛けられている。
そして引き金を引かれる。ポイズンバレットが放たれ、レイテットに真っ直ぐ飛んだ。もはや弾丸からは逃げ切れない。負傷は免れないだろう。
「どおりゃぁぁぁー!!」
しかしレイテットはやってみせた。
その足の速さで突撃を開始したのだ。しかも最小限の動きで迫ってくる弾丸をギリギリで回避している。
レイテットの突撃は速い。まるで槍を付けた馬が突っ込んで来るが如く。そしてドラグノフの銃剣があっという間に『PODE』の『シールド細胞』に突き刺さる。その速さは『PODE』に次弾を撃たせないほどだ。
「討ち取ったぁぁぁー!!!」
気合の入った声が響くと同時にドラグノフから弾丸が発射される。弾丸は『シールド細胞』を破壊し、そのまま貫通していく。
『PODE』が蒸発。レイテットが二体目を仕留める。
残りは一体。その一体は今、美保に狙われていた。
「そのまま動かないでよ……」
美保は小声で敵が動かないことを祈り、軍用スコップを握る手を強くした。
『PODE』は美保に気付いておらず、銃声のした方へ慎重に移動していた。その『PODE』の後ろに美保が近付いている。
「行くわよ」
覚悟を決めた美保は一気に近付く。軍用スコップを振り上げ、なにも気付いていない『PODE』の『シールド細胞』目掛けて叩きつける。
ベチャリとスライム状のものが飛び散り、美保の身体にスライム状のものが付く。汚いには汚いが、美保はそんなものなど気にせず、軍用スコップを突き刺す。
軍用スコップは『シールド細胞』に刺さり、確実に敵の心臓部を損傷させた。
「やった!」
美保は三体目を倒したことを告げる。
『PODE』はその形を崩壊させて、その身体を蒸発させた。
「後はミサイル車だけ……仕留める」
ゼラがいち早くミサイル車に向かう。今一番ミサイル車に近いのはゼラであり、ミサイル車の『シールド細胞』の破壊は車両という大きさ故に至近距離であれば9mm拳銃でも十分だった。
ゼラは木々の間を駆け抜け、ミサイル車がいるポイントに到着。
「どういうことだ」
ミサイル車がいなかった。
ゼラはあちこちに目を向けてミサイル車を探す。しかしどこを向いてもミサイル車はいない。
そう、突然消えたのだ。
「まさか交戦中に逃げたのか? だが、そうであれば……タイヤの跡があるはずだ。一体どこへ」
どれだけ探しても、どれだけ推理しても分からない。
ゼラはその場に立ち尽くし、考える。だが、どれだけ考えても分からない。
それもそのはずである。ミサイル車は最初から逃げてはいない。別のものに姿を変えていたのだ。
そして今、ゼラの前にその姿を現す。
「なるほど、その赤い核細胞はそういうことも出来るのか」
ゼラはミサイル車から別のものに姿を変えた個体を見て、悟った。
『PODE』は複数コピー出来ることを。そして『PODE』の『ハルバード細胞』には複数のコピーを保存する機能があること、保存されたコピーを使い分ける機能があることを。
なんか段々更新が遅れてきてる……疲れてるからかな?




