第十七話 お休みの日
雨が降りしきり、空は未だ薄暗い灰色になっている。
時刻は午前十一時だ。とっくに起きる時間は過ぎているが、レイテットは先日の疲れでまだ寝ていた。添い寝していたアイーラはレイテットの寝相の悪さに目を覚ましていた。
目を覚ましたアイーラはレイテットの部屋を出て、Tシャツと下着姿を外に現した。そのまま気だるい様子でゼラの様子を見に、美保の部屋に向かった。
「美保さん、おはよー」
ゆるりとした挨拶をすると共に美保の部屋の扉を開いた。応えるように部屋の方から「アイーラちゃん、おはよう」と、美保の丁寧に言葉が返ってきた。しかしその挨拶からは想像出来ないとんでもない光景がアイーラの目に飛び込んできた。
下着姿ではあるが、裸同然のゼラと美保がベッドの中で肌と肌が合わせられるほど身体を密着していたのだ。
「な、なにやってるの!?」
初めて見るとんでもない光景にアイーラは目を丸くして、驚いていた。
美保はくすりと笑い、眠ったままのゼラを豊満な胸へと抱き寄せた。マシュマロかと思うほどの柔らかさがあるその胸がゼラの顔を覆う。そして美保はアイーラの驚いたような質問に答えた。
「見れば分かるでしょう? これは触診よ」
「しょ、触診!?」
しかしこれは触診とは程遠い。美保は触診という名目で、身体を密着させていたのだ。
アイーラは驚きのあまりにその場に立ち尽くしており、今にも濡れ場に発展しそうな光景を前にしてアイーラは話すことを忘れていた。
「アイーラも触診する?」
妙に艶のある声を出した美保から誘いが飛んできた。咄嗟にアイーラは顔を赤くさせ、首をぶんぶんと振った。そのままアイーラは回れ右して、美保の部屋から出て行った。
アイーラが出て行ったことに美保は少し残念そうにしていた。なぜなら興味本位でゼラの逞しい身体と肌を合わせるだけが目的ではないからだ。
美保が目を覚ました時、自らは知らぬ間にベッドで寝ており、ゼラがイスに座っているという状況であった。先日の大怪我を伴った危険な単独行動といい、その状況といい、ゼラが無茶をし過ぎていると感じた美保は無茶をさせないように肌と肌を合わせる形で拘束していたのだ。
「んふふ、温かい。やっぱり若者の肌は良いわね」
ゼラを無茶させないついでに美保は肌と肌を合わせることを堪能していた。美保としては無茶させないように拘束するよりも楽しむことが本命だった。
一人はしゃぐ美保。そのはしゃぎようにゼラはスッと目を覚ました。
「美保さん、おはようございます」
「あ、おはよう」
ゼラの真面目な挨拶に対して美保は笑顔で挨拶を返す。
起きて早々妙な温もりを感じたゼラは視線を自らの身体へと向けた。自分のものではない身体が絡みついている。その身体をようやく美保の身体と認識したゼラは身体を無理に動かそうとした。
「ダメダメ、患者は安静にしていなさい」
美保がゼラの身体を押さえた。豊満な胸の谷間をゼラの胸板に押しつけて、動けないようにさせる。
「だが、ミサイル車の破壊をしなくてはならない。ここで無理をしてでも破壊出来れば、美保さんたちの救助が来て助かる可能性がある。だから俺は――」
「それでもダメ。患者は寝てなきゃ、ね?」
無表情のゼラは説得するように言うが、美保が被せるように答えた。ゼラに無茶して欲しくない美保はその逞しい身体を抱きしめた。美人な美保の顔がゼラの顔に迫る。今にも唇と唇が接触するぐらいに迫っていく。
「しかし美保さん、俺は――」
「だから患者は寝てろって言ってるでしょう!?」
雰囲気をぶち壊すようにゼラは説得を再開した。しつこく、あんまりな態度に対して美保は怒りを露わにする。怒りのままに豊満な胸を暴力的にゼラの顔面に押し当て、身動きできないようにゼラを柔らかく拘束した。
抜け出そうと思えばゼラは抜け出せるが、無駄に怒らせたくないという考えの下、無抵抗なまま暴力的に押し付けられる柔らかい豊満な胸を甘んじて受けていた。
「…………」
「はぁ、それでよろしい」
大人しくなったゼラに、美保は溜め息一つして怒りを静めながら抱きしめる。抱きしめられるゼラは無口無表情無抵抗でいた。
豊満な胸がゼラの胸板に当たるほど接触し、美保はゼラの頭を静かに撫でた。まるで我が子を愛する母親のような姿だ。
美保に頭を撫でられる感覚を味わうゼラは、感じたことのない感情が湧き上がっていた。
甘えてみたい、という初めての感情。その初めての感情にゼラは戸惑いを見せながら美保の顔を見る。
「どうしたの?」
美保の優しげな表情が返ってきた。
ゼラはなにも答えず、その表情を緩めた。固い無表情は少し崩れる。幼さの残る美青年の顔が美保を見つめていた。
「ふふ、よしよし」
美保の繊細で優しい手がゼラの頭を撫でた。ふわりと優しい撫でが髪を触っていく。ゼラは顔に出さないものの、心の中では少し嬉しくなっていた。
より甘えてみたくなったゼラは美保の肉付きの良い身体を抱きしめる。
お互いの腕は相手の身体を触れる。胸同士は擦り付け合い、お互いの温もりを感じて行く。
ここまで肌を密着させ、お互いの温もりを確かめることは美保も初めてであった。ドキドキと心音が早くなっていくと同時に頬はほんのり赤く染まって行く。
「あの、ゼラ君……?」
急に恥ずかしくなってきた美保が少し身体の距離を離そうとしても、ゼラは初めて感じた母親のような温もりを求め続けて離れない。
「ス、ストップ! そろそろ私、居間の方へ行くから」
「あ、あぁ、了解した」
美保の言葉にゼラは制され、身体の距離を離した。
身体が離れると、美保はベッドから抜け出した。そのままいつもとは違う私服に着替えた。
ゼラは美保を怒らせないようにベッドで大人しく横になり続ける。
「それじゃあ私、居間の方でお昼ごはんの準備をしてくるわ。ゼラ君の分が出来上がったらこっちの方に持ってくるから、待っていてね」
「了解」
着替えを終えた美保はほんのり赤くさせ、笑みをゼラに見せた。ゼラは相変わらず無表情のままだが、その口角は少し上がっていた。
美保はゼラの微かな笑みに気付き、少し気分を良くして部屋から出て行った。
ゼラはベッドに横になり続け、お昼ご飯が来るのを待った。
殺伐としたものがない緩やかなお休みの日。ゼラは「今日はそういう日だな」と呟いた。
時間は過ぎて行く。ゼラは不思議な気持ちでおり、いつもはそうでないのに今日はなぜかお昼ご飯が待ち遠しくしていた。




