本当の結婚式は領民とともに
呪いが薄れ、浄化網が正しい形に戻った日から一週間後。
私はようやく、まともに結婚式の話をする時間を与えられた。
「式は小さくていいです」
そう言ったのに、気づけば公爵邸の中庭と市場広場が一続きで飾られていた。花はミリアの工房が用意し、孤児院の子どもたちが青銀の小旗を振り、港の商人たちまで樽酒を抱えている。
「これのどこが小さいんですか」
私が呆れると、ハロルドが澄ました顔で答えた。
「領民が勝手に大きくしました」
なるほど。責任の所在が広すぎて追及できない。
ルシアンは正装の黒礼服で現れた。いつもよりずっと穏やかな顔をしていて、思わず見とれてしまう。
「旦那様、今日は呪いより私の心臓の方が危ないです」
「奇遇だな。私もだ」
そんなことを言いながら手を差し出すのは反則だと思う。
式そのものは、厳かなのにあたたかかった。
王城の婚約破棄で浴びた拍手は、他人の見世物を面白がる音だった。でも今日ここにある拍手は、間違いなく祝福だ。
誓いの言葉のあと、クララが新しい修道院印を捧げ、ベアトリスが共同交易協定書を贈り、リディアが港の黒字報告を大声で読み上げた。
「結婚祝いが月次利益って、奥様らしいでしょう?」
それには否定しづらい。
私はルシアンと顔を見合わせ、小さく笑った。
「前世でも今世でも、こんな結婚式は初めてです」
「比較対象がないから安心しろ」
そのまま、彼は皆の前で私へ口づけた。
わっと歓声が上がる。私は真っ赤になったが、逃げなかった。もう逃げる必要もない。
辺境の人々とつくるこの結婚式こそ、たぶん私たちに一番ふさわしい形だ。




