表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/40

公爵夫人は未来まで黒字にする

結婚式から数日後。


グレイフォード公爵邸の会計室には、また新しい帳簿が増えていた。


青銀街道共同管理帳。慈恵修道院再建費帳。港湾到着照合簿。どれも面倒で、どれも未来につながる数字だ。


私は窓を開け、朝の風を入れた。外では市場が動き、修道院の鐘が鳴り、街道には新しい荷駄が走っている。


「今月も忙しそうだな」


背後からルシアンが近づく。


「ええ。幸せな黒字ほど手がかかるので」


「名言みたいに言うな」


彼は私の肩越しに帳簿を覗き込む。右腕の紋様はほとんど見えない。完全に消えたわけではないが、もう以前のような痛々しさはない。


私は新しい計画書を彼へ差し出した。


「次は王都の聖域炉の正常化です」


「やはりそこへ行くか」


「行きます。でも今回は、辺境の数字を整えてからです。足元が黒字でなければ、王都の大掃除に耐えられません」


ルシアンは苦笑し、それから私の額に軽く口づけた。


「君はどこまでも君だな」


「旦那様こそ。甘いことを言って私の集中を削ぐの、そろそろ加減してください」


「無理だ」


即答だった。


私はため息をつきながらも、結局笑ってしまう。


王子に捨てられた日、私は自分の人生が赤字に転落したと思った。けれど違った。あれはただ、間違った取引を打ち切った日だったのだ。


本当に必要なものは、ここにあった。


信じられる人。

守るべき土地。

整えるべき数字。

そして、隣で未来を笑ってくれる旦那様。


私は羽根ペンを取り、新しい帳簿の一頁目へ書き込む。


公爵夫人エレノア・グレイフォード。


これから先の未来も、黒字で参ります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ