愛で祓う夜明けの大浄化
公開精算の翌朝、慈恵修道院と廃修道院跡地をつなぐ浄化網の再起動を行った。
先代公爵夫人の設計図をもとに、クララたちが香油を整え、ベアトリス側が青銀石粉を運び、リディアが港の物資を回す。大人たちがそれぞれの持ち場で働く光景は、それだけで少し泣きそうになるほど頼もしかった。
核心は、ルシアンの呪いへ不当に戻されていた回帰量を、本来の炉へ戻すこと。
夜明け前、私は中央浄化炉の前に立った。
「旦那様、いけますか」
「君と一緒なら」
そういう言い方を、こういう場でもする。
私は彼の手を取り、指輪同士を合わせた。青銀石と浄化印が共鳴し、金と青の光がゆっくり重なる。
黒霧が巻き上がった。以前なら恐ろしかったそれが、今は“整えるべき歪み”として見える。
私は流れを数えた。香油の配分、炉の熱、回帰量、押し返す力。前世の私なら絶対に信じなかっただろうけれど、浄化にもちゃんと勘定がある。
「いまです」
ルシアンが呪紋の力を解放し、私はその流れを炉へ誘導する。噛み合った瞬間、夜明けの空へ金色の柱が立った。
黒霧が裂け、修道院の壁に染みついていた闇がはがれていく。
ルシアンの右腕に目を向けると、長く残っていた黒い紋様が、とうとう肘下から消えた。
「……消えた」
彼が自分でも信じられないように呟く。
私は泣きそうになりながら笑った。
「ええ。今度こそ、本当に」
その時、彼が私を抱きしめた。人が見ているのも忘れるくらい強く、でも大切に。
「ありがとう、エレノア」
夜明けの光の中でそう言われて、もう涙を止める理由はなかった。




