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最後の横領台帳

押収品の中で最も厄介だったのは、三冊目の横領台帳だった。


わざとページ順を崩し、祝祭費と施療費を交互に混ぜ、さらに各所へ暗号のような略号を振ってある。普通に読ませる気がない帳簿ほど、私の闘志は燃える。


「楽しそうですね、奥様」


ハロルドに言われ、私は否定しきれなかった。


「嫌いではありません」


前世でも、最悪の伝票の山を前にした時ほど、逆に落ち着いたものだ。


私は三冊の台帳をばらし、日付順と物資種別で並べ替えた。すると、隠れていた最後の流れが見えてくる。


港から抜いた支援物資は、修道院を経て王都の祭礼品へ。

祭礼で余った祝福石は、再加工して黒霧対策用品として辺境へ売り戻す。

そして差額は、“聖域炉維持費”の名目で秘書官口座へ流れる。


「……ひどい」


クララが呟いた。


「辺境から奪って、演出して、また売りつけていたんですね」


「ええ。しかも浄化量を落としながら」


最後のページには、アウグスタ司祭とジェラルドの連名で、王都本院側の承認欄までついていた。ここまで来れば、もはや地方の不正ではない。聖域炉そのものを私益に変えた、構造的横領だ。


アンリ監査官へ写しを送ると、珍しく即日で返信が来た。


『王都側の特別監査を開始する。貴夫人の整理能力に敬意を表する』


褒められているのに、内容が堅すぎて笑ってしまう。


その日の夕方、私は整理し終えた台帳を抱えて執務室へ向かった。ルシアンが窓辺で待っていた。


「終わったか」


「ええ。最後の流れまで出ました」


私は台帳を差し出す。


彼は受け取り、最初の頁だけ見てから閉じた。


「君を信じているから、全部は読まなくていい気がしてきた」


「それはそれで仕事が減って助かります」


「だが、抱え込みすぎるな」


私は少しだけ考えてから、正直に言った。


「旦那様がそう言ってくれるから、最後まで掘れたんです」


その言葉に、彼の灰色の目がやわらかく揺れた。


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