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呪われ公爵の過去勘定

廃修道院跡地の一件が落ち着いた夜、ルシアンは珍しく自分から書庫へ私を呼んだ。


机の上には、先代公爵夫人の遺した手紙が並んでいる。今日押収したものではなく、彼がこれまで開けられなかったぶんだという。


「読むのが怖かった」


その告白は、小さくて重かった。


「母は病で死んだと聞かされていた。私はそう信じていた方が楽だった」


私は黙って隣へ座る。こういう時、慰めの上手い言葉は持っていない。だから、できるのは一緒に読むことくらいだ。


手紙には、先代公爵夫人が王都の聖域炉の異常に気づき、浄化網を守ろうとしていたことが書かれていた。けれど力及ばず、回帰量を一時的に自分と息子へ分散した結果、病と呪いが深まったのだと。


「……私の呪いは、母の失敗ではなく、守ろうとした結果だったのね」


私は首を振る。


「失敗でもありません。悪いのは仕組みを盗んだ側です」


ルシアンはしばらく目を閉じ、それから静かに息を吐いた。


「君がいてくれてよかった」


その一言に、私は胸の奥があたたかくなるのを感じた。


「私もです」


私は彼の右腕へそっと触れた。黒い紋様はまだ残っているが、以前のような棘立った痛みは伝わらない。代わりに、長く耐えてきた疲労のようなものがある。


「旦那様。呪いそのものを消すには、王都の聖域炉も正さなければなりません」


「分かっている」


「でも、まずは辺境側の帳尻を全部戻しましょう」


ルシアンは私を見る。


「数字の言葉で未来を語るな、いつも少し格好いい」


そんなことを真顔で言わないでほしい。


私は照れを隠すため、手紙束の最後の一枚を開いた。


そこには先代公爵夫人の細い字で、こう結ばれていた。


『いつか正しい隣人と出会えたなら、あなたは一人で背負わなくていい』


私は黙ってその文章を指でなぞる。


どうやら先代は、私たちがここまで来ることを少しだけ信じてくれていたらしい。


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