偽りの慈善司祭
地下金庫の奥で、ついにアウグスタ司祭は仮面を外した。
「終わらせる? 何をですか」
彼女は白手袋を外し、細い指で黒い灰へ触れる。
「辺境の浄化は金になります。王都の祭礼も、奇跡も、慈善も、全部です。あなた方はそれを“正す”と言うけれど、正したところで誰が得をするのです?」
「少なくとも、助かるべき人が助かります」
私が答えると、アウグスタは本気で不思議そうな顔をした。
「それで満足できるから、あなたは怖いのです」
たぶん褒め言葉ではない。
彼女の合図と同時に、地下室の灯が青黒く染まった。隠れていた私兵と教会兵が現れ、出口を塞ぐ。数は多くないが、ここは狭い。厄介だ。
「証拠もあなた方も、ここで灰になります」
アウグスタが黒灰を浄化炉へ投げ込む。炉が唸り、地下全体に黒霧が広がった。しかも王都式の祝福石を逆さに組んでいるため、普通の浄化では散るだけで戻ってくる。
「旦那様、炉の底を!」
私は叫ぶ。
ルシアンが即座に前へ出る。私は手紙と台帳をクララへ渡し、金庫の陰へ避難させた。
ベアトリス側の護衛が左右を抑え、リディアの部下が出口を確保する。共同監査にして正解だった。味方が多いほど、こういう場では強い。
アウグスタはなおも微笑む。
「公爵様。あなたの呪いは、ここで一番よく燃える」
最低の挑発だった。
ルシアンの紋様が濃くなる。私は一瞬だけ恐ろしくなったが、彼は振り返りもせず言った。
「エレノア」
「はい」
「私を勘定に入れろ」
その言葉で、逆に頭が冴えた。
私は金庫横の補助帳を拾い上げる。浄化炉への投入量、回帰量、祝福石の配置。相手が儀式を金勘定で回した以上、必ず抜け道がある。
「見つけました」
炉の燃料配分。支援香油が足りず、代わりに黒灰でかさ増ししている。だから逆流が起きるのだ。
私は炉へ飛び込みたい衝動を抑え、代わりに補助管の弁を開けた。
「いま、帳尻を崩します!」




