修道院の隠し金庫
翌朝、私たちは廃修道院跡地へ踏み込んだ。
慈恵修道院より古く、半ば崩れた石塔が残るだけの場所。だが、床下の気配は異様に濃い。浄化のためではなく、穢れを溜めるために使われた空気だった。
正門を開けた瞬間、アウグスタ司祭が出迎えた。
四十二歳。整いすぎた微笑みと、真白な司祭服。彼女は私たちを見るなり、少しも驚かなかった。
「ようこそ、公爵夫妻。辺境の施療へ理解を示してくださるのは結構ですが、ここは王都本院の管理下です」
「共同監査の対象です」
私は書状を見せる。
彼女はそれを一瞥し、微笑んだまま言った。
「では、どうぞ。見てお分かりになることなど何もありません」
そう言う人間ほど、だいたい何か隠している。
礼拝堂は空だった。倉も空。帳簿も表向きは整っている。だが、私が祭壇の縁へ触れた瞬間、指輪が強く熱を持った。
「この下です」
祭壇裏の石を押すと、隠し階段が現れた。アウグスタの微笑みがそこで初めて歪む。
地下には、鉄箱がずらりと並んでいた。
香油、祝福石、支援銀貨、そして浄化炉から抜いた黒い灰。まるで祈りではなく収支のために神を扱う、醜い会計室だ。
私は中央の大きな金庫へ近づいた。帳簿の黒線がそこへ集中している。
ルシアンが剣で鍵を断ち切る。
中に入っていたのは、最後の横領台帳ではなかった。
先代公爵夫人の手紙だった。
『もしこの記録を読む者がいるなら、私は守りきれなかったのだろう』
息が止まる。
手紙には、浄化網の本来の設計が書かれていた。黒霧の穢れは一箇所へ集めて“王都の聖域炉”で処理するはずだったこと。だが王都が炉を私的利用に切り替え、辺境へ回帰させる量だけを増やしたこと。そして、それを止めようとして先代公爵夫人が病死したこと。
病死ではない。実質的には殺されたのだ。
ルシアンの指がわずかに震えた。
私は手紙を閉じ、彼の手を握る。
「ここで終わらせましょう」
彼は短くうなずいた。
「ああ」




