隣国伯爵夫人と共同監査
ベアトリス伯爵夫人は、有能な同盟者であると同時に実に容赦がなかった。
「甘いわね、エレノア。税倉へ手を出した時点で、相手はもう修道院だけで済ませる気がない」
彼女は自国側から集めた交易帳と、港の荷駄記録を机へ叩きつけた。そこには、廃修道院跡地へ向かう夜間輸送の記録が細かく残っている。
「うちの御者たちは酒癖は悪いけど、荷の重さには正直なのよ」
素晴らしい証言だ。
私は伯爵夫人と並んで帳簿を照合した。夜間便で運ばれたのは香油、祝福塩、灯料、それに鉄箱。数は多くないが、月ごとにぴたりと同じ。これは市場取引ではなく、定期的な儀式運用の流れだ。
「王都側の秘書官が港を使い、教会側の司祭が倉と修道院を押さえる」
「そこへ辺境の浄化網が利用される、と」
ベアトリスが頷く。
「大人って本当に、儲け話になると見苦しいわね」
まったく同感だ。
その時、ルシアンが窓際から振り返った。
「王都の監査官アンリから返答が来た。アウグスタ司祭は、資格停止中のセシルと資金授受の接点がある」
やはり繋がった。
私は机の上の帳簿を閉じる。
「なら、港、税倉、修道院跡地。全部同じ線上です」
「今夜動く?」
ベアトリスが当然のように訊く。
「できれば明朝に正規手順で」
「あなた、本当に真面目ね」
「不正を潰す時ほど、手順が必要なんです」
その答えに、ルシアンが少しだけ誇らしそうな顔をした。やめてほしい。仕事中にそんな顔をされると、私は一瞬だけ計算速度が落ちる。
共同監査の名目はすぐ整えた。隣国との交易物資が絡む以上、ベアトリスも正式に立ち会える。正面から開けてしまえば、あとで“盗み見した”とは言わせない。
夜、私は監査書類の最後の頁へ署名した。
もうすぐだ。
帳簿の黒い線の先へ、ようやく手が届く。




