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税倉に潜む黒霧の種

青銀街道の再編が動き始めた直後、旧税倉で異変が起きた。


保管していた穀袋の底が一夜で黒ずみ、銀貨箱の鍵が錆びつき、帳簿に黒い粉が降っていたのだ。


現場へ着いた瞬間、私は眉をひそめた。


「黒霧の“種”ですね」


床板の継ぎ目に、小指の爪ほどの黒い結晶が埋め込まれている。浄化網の節に置けば、少しずつ周囲の物資を腐らせ、損耗を増やす種類だ。


「こんなものまであるのか」


ルシアンが険しい声を出す。


「ええ。前世で言うなら、永遠に在庫差異を生む呪いです」


ひどい例えだが正しい。


私は種を取り出す前に倉庫全体の帳簿を確認した。被害が出ているのは、慈恵修道院再建に回す予定の建材と香油だけ。つまり犯人は、私たちの修道院改革を明確に止めに来ている。


「置かれた時期は?」


「三日前。青銀街道の公開説明会のあとです」


内部情報が漏れている。しかも領内の税倉へ無理なく入れる人間だ。


私はハロルドへ視線を向けた。


「出入り帳を。あと鍵管理者の直近五日の行動も」


彼は即座にうなずいた。


結局、鍵を持つ番頭は潔白だった。代わりに出てきたのは、巡回司祭の臨時立入記録。慈恵修道院再建への“祝福”名目で入ったらしい。


「司祭の名は?」


「アウグスタ・フェルト」


クララが息を呑む。


「王都本院から最近派遣された司祭です。四十二歳で、聖務会計にも口を出せる立場だとか……」


四十二歳。教会側の実務と金の流れを知る年齢だ。


私は黒い結晶へ手を伸ばした。熱い。悪意が固まったような熱だ。けれど今の私は、もうそれを恐れるだけでは終わらない。


「旦那様、浄化します」


ルシアンは私の背へ手を添えた。


「一人で背負うな」


その一言とともに、指輪が青く光る。私は金色の魔力を流し、彼は黒霧を押さえ込む。二つの力が噛み合った瞬間、種は音もなく砕けた。


浄化後の床には、薄い青銀の粉だけが残る。


私はそれを見て確信した。


「もう一つの修道院跡地。あそこが本命です」


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