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救済印つきの密輸箱

見つかった隠し部屋を封じたその晩、港の宿で私は箱の中身を一つずつ改めた。


支援油の底板。薬布の巻芯。香油瓶の木箱。どれにも同じ焼印があり、慈恵修道院を経由したことになっている。だが、肝心の修道院側受領印が微妙に新しい。木目の削れ具合まで不自然だ。


「偽造ですね」


「断言できるか」


ルシアンが隣から書類を覗き込む。宿の机は狭く、自然と距離が近くなる。夫婦なのだから自然なのだろうが、私の心臓はまだ毎回きちんと慌てる。


「できます。この印章、押された日付が先です。受領簿の日付より、印が新しい」


前世の私は、請求書の紙質とホチキス穴だけで嘘を見つけたことがある。大人の不正は、必ず“面倒だから省いた痕跡”を残す。


私はさらに木箱の縁へ触れた。黒い糸が一本、窓の外へ伸びている。港のさらに奥、水路沿いの古い礼拝堂へ。


「残り一箱はまだ近くにあります」


「礼拝堂か」


「ええ。たぶん保管場所というより、受け渡し場所です」


その時、宿の扉が叩かれた。入ってきたのは、ハロルドが手配してくれた領兵ではなく、見知らぬ修道服の女だった。


二十九歳前後。落ち着いた茶髪に薄青の目。名をクララ修道女と名乗り、慈恵修道院から来たと言う。


「奥様。修道院の名を使った不正が起きていると聞きました」


彼女は深く頭を下げた。


「本来、慈恵修道院は孤児院と施療院を兼ねています。支援物資が届かなければ、冬を越せない者が出ます」


私は彼女の差し出した名簿へ目を落とした。二十七名の孤児、十一名の病人、老修道女四名。大人も子どももいる。帳簿にすると残酷なくらい小さな数字だが、その一つ一つに生活がある。


「修道院の会計簿はありますか」


「ええ。ですが、昨月から一部の箱だけ“王都側代理受領済み”と記され、こちらへ来なくなりました」


やはりだ。


私はクララへ席を勧め、修道院側簿冊と港湾側の受領簿を照合した。完全に同じ品目、同じ数量、違う行き先。代理受領者名だけが空欄のままになっている。


「空欄は、後から差し込むための場所です」


「つまり?」


クララが不安げに問う。


「まだ上流に、本命の管理者がいます」


そして私は直感した。この不正は単なる転売ではない。支援物資の移し替え先に、祝福石の粉と香油が絡んでいるなら、黒霧の浄化そのものを私物化している。


ルシアンが低く言う。


「王都の残り火だな」


私は静かにうなずいた。


「ええ。今度は港と修道院を使って燃やし直そうとしている」


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