表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/25

公爵夫人は二度と奪われない

創国祭から一月後、グレイフォード公爵領の会計室は以前よりずっと明るくなっていた。


新しい帳簿棚、統一された受領印、週次報告の壁板。前世の職場よりよほど健全だ、と密かに思う。


私は正式な公爵夫人として、月次会議の最後の印を押した。


「今月も黒字です」


その報告に、ハロルドとミリア、行政官たちが拍手する。辺境の大人たちの顔に、もう前みたいな諦めは少ない。


井戸は清み、工房は回り、黒霧の広がりも抑えられていた。ルシアンの右腕の紋様も、以前よりはっきり薄い。


「奥様、王都から書状が」


持ってこられた封筒の紋を見て、私は眉を上げた。アルベルト殿下からだ。


「暖炉へ」


即答すると、執務室が笑いに包まれた。


そこへルシアンが入ってくる。最近は“公爵様”より名前で呼ぶ時間の方が少し増えた。


「何かいいことがあったのか」


「ええ。不要な負債を処分しました」


彼は手紙の残骸を見てすべてを察したらしい。満足そうにうなずいてから、私の机へ新しい書類を置く。


「隣国との交易改善案だ。君の意見が欲しい」


次の仕事。次の利益。次の未来。


私はその書類を開き、笑った。


「もちろんです、旦那様」


彼が私の椅子の背へ手を置く。


「今夜はあまり遅くなるな」


「努力します」


「努力では困る」


耳元で低く言われて、頬が熱くなった。


王子に捨てられたあの日、私は全部失ったと思った。けれど本当に失ったのは、間違った居場所だけだったのだ。


数字を整え、嘘を暴き、領地を立て直した先で、私はようやく自分の人生を取り戻した。


もう誰にも奪わせない。


公爵夫人としても、一人の女としても。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ