元婚約者の土下座
裁きは早かった。
アルベルト第二王子は財務関与権を剥奪され、謹慎。セシルは聖女候補の資格を停止され、宝物庫不正使用の調査対象となった。
公開の場でそこまで処分が下った時点で、もう勝負はついている。
なのに当の本人たちは、最後まで見苦しかった。
監査終了後の控え室へ、アルベルト殿下が一人で現れたのだ。近衛もつけず、顔色を悪くして。
「エレノア、頼む」
私は書類を閉じたまま彼を見る。
「何をですか」
「王に取りなしてくれ。私は君を手放すべきじゃなかった。セシルに惑わされただけなんだ」
その言葉で全部済むと思っているところが、最後まで彼らしかった。
「殿下」
私は静かに告げる。
「あなたが私を捨てたのではありません。都合の悪い数字と責任から逃げただけです」
彼は唇を震わせた。
「戻ってくれれば、まだ……」
「戻りません」
即答できた。
「私は辺境で、必要とされる場所を見つけました。あなたの隣ではありません」
アルベルト殿下はついに膝をついた。王子が床へ手をつく光景に、同席していた貴族たちがざわつく。
それでも私の心は、もう揺れなかった。
扉が開き、ルシアン公爵が入ってくる。
状況を一目で理解したらしく、彼は冷えた声で言った。
「私の妻を困らせるのはやめていただきたい」
“妻”。
さっきからその呼び方だけで心が忙しい。
アルベルト殿下は何か言い返そうとしたが、結局何も言えずに下がった。
扉が閉まったあと、私はようやく大きく息を吐く。
「終わりましたね」
「ああ」
ルシアン公爵が私の肩へ外套をかけた。
「よく耐えた」
その一言で、ぎりぎり保っていた力が抜けそうになった。
勝ったのに、泣きそうだった。




