偽聖女の奇跡が崩れる
公開監査の場は、創国祭の余興みたいに扱われていた。
王は高座に座り、重臣たちは半分面倒そうな顔をしている。貴族たちは“また公爵が騒ぐのか”くらいの視線だ。そこへアンリ監査官が前へ進み、きっぱりと言った。
「北方救済金横領疑惑について、監査結果を報告します」
空気が変わった。
私は証拠の簿冊を順に机へ置く。原簿、受領簿、再綴じ頁、支出照合表。前世でもここまで綺麗に証拠が揃った案件は少なかった。
アルベルト殿下は薄く笑った。
「数字の見間違いでは?」
「では、こちらをご覧ください」
私はセシルの宝石箱を開けさせた。中に入っていた祝福石には、辺境支援物資の刻印が残っている。
セシルが顔を強張らせる。
「そんなはずありませんわ」
「あります。支援物資を加工し、“聖女の奇跡”として演出していましたね」
彼女は慌てて祈りの形を取った。会場に金色の光が舞う。だが私は一歩前へ出て、その光へ手を伸ばした。
「帳尻を合わせましょう」
金色の表面に絡む黒い線を、一本ずつ切る。
次の瞬間、会場を満たしていた“奇跡”が霧みたいに消えた。残ったのは、仕掛けの祝福石と、青ざめたセシルだけ。
ざわめきが悲鳴に変わる。
アンリ監査官が追撃した。
「さらに、王子殿下承認の振替指示書が確認されました」
原簿の再綴じ頁が、王の前へ差し出される。
王は長く沈黙したあと、低く問うた。
「アルベルト。これは何だ」
王子は初めて言葉を失った。
その顔を見た時、胸がすっと軽くなる。ようやく、あの日の私の悔しさに数字が追いついた。




