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辺境を狙う刺客

証拠を抱えたまま辺境へ戻る道中で、私たちは襲撃を受けた。


場所は峡谷手前の細道。荷馬車の車輪が止まった次の瞬間、左右の岩場から矢が降ってきた。


「伏せろ!」


ルシアン公爵が私を抱き寄せ、馬車の陰へ転がり込む。衝撃で息が詰まるが、すぐに彼は剣を抜いていた。


襲ってきたのは王都の正規兵ではない。雇われた私兵だ。顔を隠していても、狙いが荷ではなく書類だと分かる。


私は馬車の床板を外し、あらかじめ用意しておいた偽の帳簿束を取り出した。


「本物は私が持ちます」


「何をする気だ」


「囮です」


答える前に、公爵が険しい顔で私を見た。


「危険だ」


「書類が奪われたらもっと危険です」


前世でも、監査対象が証拠を潰しに来ることはあった。もちろん剣までは出てこなかったけれど。


私は偽帳簿を目立つ袋へ入れ、わざと見える位置へ投げた。刺客の一人がそれに飛びつく。


「今です!」


公爵側の護衛たちが一斉に動き、袋を奪った男を囲んだ。だが別の一人が回り込み、私へ短剣を向ける。


咄嗟に後退したその瞬間、ルシアン公爵が間に入った。


刃が彼の肩を浅く裂く。


「旦那様!」


怒りより先に、体が動いた。私は彼の腕へ触れ、傷口を中心に暴れようとした黒霧を押し返す。金色の光が走り、相手の短剣が弾け飛んだ。


刺客たちはそのまま拘束された。


戦いが終わった後も、私の手は震えていた。書類より、人より、何より、この人が傷ついたことが怖かった。


ルシアン公爵は傷を押さえながら苦笑する。


「泣きそうな顔をするな」


「します。しました」


「死んでいない」


「だから良かったんです」


その言葉に、彼はしばらく黙った。


やがて静かに言う。


「……君を守ると決めたのは私だ」


その“決めた”が、契約書のどこに書いてあっただろう。


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