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横領帳簿の隠し頁

王立会計監察室の保管庫は、王城の地下にあった。


アンリ監査官の案内で重い扉が開く。紙と蝋と古い木の匂いが混ざった空間に、私は前世の資料室を少しだけ思い出した。


「こちらです」


積み上げられた簿冊の中から、監査官が北方救済金原簿を取り出す。私は手袋を外し、直接その表紙に触れた。


ぞわり、と黒い糸が指先へ絡む。


「ある」


頁をめくると、途中で不自然に綴じ直された箇所があった。紙質が微妙に違う。前世の監査でもよく見たごまかしだ。


私は薄刃を借り、糊を傷めないよう綴じを外した。中から一枚、別の頁が現れる。


そこには本来辺境へ送られるはずだった金額と、振替先の略号が記されていた。


“聖務特別費”


セシル側の費目だ。


さらに下には、第二王子アルベルトの承認印。見間違えようがない。


アンリ監査官が息を止める。


「ここまで露骨とは……」


ルシアン公爵の目が、冬の鋼みたいに冷えた。


「まだ終わりじゃない」


私はページの端を指した。黒い糸の先に、もう一つ別の印影が見える。


「この再綴じを命じた人間がいます」


印の欠片は王家付き秘書官のものだった。つまり王子ひとりの独断ではない。王都の財務側にも手が伸びている。


「証拠は十分か」


公爵に問われ、私は首を振る。


「十分ですが、逃げ道は残ります。セシルは“奇跡のために必要だった”と言い、殿下は“国益だった”と言うでしょう」


「なら」


「奇跡そのものが盗品だと示します」


祝福石。聖務特別費。辺境支援刻印。全部つながる。


アンリ監査官が低く唸った。


「公の場でやるのですか」


「ええ。向こうが社交界を舞台にしたなら、こちらも同じ場所で終わらせます」


そう決めた私を見て、ルシアン公爵がふっと息を漏らした。


「本当に怖い妻だ」


「何度目でしょう、その感想」


「だが、誇らしい」


不意打ちだった。


この人は本当に、どうしてこう、仕事中にだけ甘いことを言うのだろう。


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