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5.刺サル


「あ……ぁ……」

「……え、えっ……?」


なぜ、なんで、どうして……?


――見ィっけたァ~……アなタが持ってたノぉ……?


腕からは助かったんだ。教室を出て……

死徒会の人に救助して貰うって決めたばっかりだったんだ。


なのに、なんで……!


「グロー……ブぅ……なぁにぃ……コレぇ……?」


さっきの化け物の肥大化した舌に……

健太くんが……背中から……。


「リボン……をぉっ!返してヨぉぉおッ!」


――胸を、貫かれていた。


「い……のせ……」


化け物はブリッジで四つん這いになり……

焼け爛れた顔で、野球のグローブを咥えて……


「コれじゃなイ!こレジャナいのォッ!」


泣き叫んでいる……。


「取られ……なよ……お前は……」

「取られるって……何を!」


胸から背中にかけてぽっかりと風穴の開いた健太くんは

もう……言葉を発することは無かった。


『ふざけるな……っ!よくも健太くんを……!』


そんな強気な言葉、僕の口からは出なかった。

糸の切れた操り人形の様に力なく垂れ下がる健太くんを抑えるので精一杯で……。


「どこ……どこ……どこなのぉ……!」


巻き取ったグローブを犬のように貪り食う化け物を引き攣った顔で見つめるのが、精一杯だった。


頭が完全に思考を放棄していた。

けど本能だけがまだ正常に作用していて


「行こう、健太くん……」


化け物の注意がこっちに向く前に、少しでも遠くへ行くんだ。


――ギィエアァァアァアァアア!!!!


背後から聞こえてくる悲鳴はもはや人の物を成していなかった。けど、知ったことじゃない。


振り返る時間も惜しい。今は、一歩、一歩でも、前に。


「盗塁する時って……こんな気分?」


僕の口から不意に出た声は奇妙なくらいに穏やかだった。野球のことなんて微塵も知らないけれど。


転げ落ちないようにゆっくりと階段を降りる。

上に行く階段とは違い、当たり前のように降りれる。


降りている、はずだったけれど……。


――コロロロロロロ……


出た。こいつが、健太くんも言っていた『細かいの』なのだろう。極限状態だと人は、驚くことも出来ないらしい。 


筆舌に尽くし難い呻き声を上げて階段を這うように登って来た、虚ろな目をした、ネズミのように小さい手の生えた生首。


健太くんの脚に噛みつこうとしたところへ僕は……


「や、やめろ……っ!」


健太くんの剣を突き立てた。

グチュリという感覚が柄から手に手から腕に……


「なんで、なんでこんな……」


腕から首筋に伝わって来て、身の毛がよだつ様な感覚に襲われる。嫌だ……もう嫌だ……。


「健太くん、こっちであってるよね……」


――グルルルルル…


今度は後頭部に悪魔の様な尖った羽を生やした生首が

踊り場の窓を割って飛び込んでくる。


子供がカラスを木の棒で払うかのようにブンブンと剣を振り回す。健太くんには……指一本、触れさせたくない。


切れ味が鋭いのか、こいつらが脆いのか。その両方か。

頭が真っ二つになって消えたり、羽が裂かれて落ちたり。


無我夢中でやってるつもりだけど。

不快感はどんどん募っていく。


群がってくる気持ちの悪い化け物たちをやけくそで追い払うことにばかり気を取られていると。


――ドォォォオォォーン!

すごく、すごく豪快な破壊音と共に建物が震動する。


あまりに唐突な出来事に、心臓が跳ねる。咄嗟に健太くんを庇ったけれど、あまり意味のあるものじゃない気がした。それくらいに大きな揺れだった。

 

――グラグラ……

震動の余波でみしみしと、壁や天井に亀裂が入る。 

その揺れは僕の心に「進んでいいものか?」という揺さぶりをかけてるようでもある。


それでも階段を降りきった。

戻ったところできっと、さっきみたいな奴らは居る。


――キュィィィエエェエエエーーーー!!


耳をつんざくような甲高い咆哮が外から排気窓を叩く。

聞こえて来たのは……中庭と思われる場所の方から。


周りに化け物の姿が無くなって安堵したのか

呑気なことに僕はここ数十分の記憶を整理し始めた。


『ごめんね。どうしても「外せない用事」ができてしまって』

『……お前、丸腰?!忌具(ぶき)と触媒は!?』


健太くんの腕に巻き付いている触媒(リング)を見る。既に光もオーラも失われていて、力は感じられない。


……この世界では武器と魔法みたいなものを放つ触媒を持って歩くのが普通みたいだ。


「とうばつ……ようじ……」


つまり。

あの人も……戦ってるの……?


――ァタシノォォオオォォオオ……ッ!


「アレ、と……?」


換気窓の外からの校舎に張り付く巨大な化け物。


さっきの僕たちを追い回していた女の子の化け物の頭部だけを残し

身体は恐竜の化石のような骨の姿になっていた。


あまりの異形さに僕は思わず一歩前へ下がった。


化け物はなにか蒼白い光が向かってくるのを視認すると何処かへ飛び退る。校舎の壁には化け物が立てていた足の爪痕と……光が爆発して出来た巨大な穴。


光が霧散した場所に残留する粒子がきらきらとチラつく様に根拠はない。何故か、僕は強く心を惹かれていた。


死徒会を探せ、と健太くんは言った。

もし、あそこで戦っているのがその人たちだったら。


そんなもっともらしい思考回路で僕は私欲を正当化して足を動かし始めた『あの人』かも知れない。と。


「もう少し……だからね」


健太くんを支える腕に思わず力が籠もった。

一歩、二歩、三歩、と重い歩みを進める。


――おばあちゃ……どこ……?

――しょ……にんきゅうで……。


進んだところで『()()()()()()()』、を見た。


1人は突き当りの角から現れた幼い女の子。

大の字に手を広げカクカクと近寄ってくる。


もう1人は頭の凹んだサラリーマン。

天井からどろっと降って来て、むくりと立ち上がる。


「あなた達も……さっきのと同じ……なんだよね」


復讐心でも、嫌悪感でもない。

純粋な疑問。けど、一番は……。


「そこ、通して……?」


さっきと同じなら間違いなく襲ってくるだろう。

……勝てる?いいや、そもそも、戦えるの?


震える手で強く握っていた剣を突き出し現れた2人を睨む。勝たなくてもいいんだ。進め……。


一歩、二歩……さん……。


――コロロロロロロ……

――グルルルルル……


女の子とサラリーマンの化け物の背後から……

『細かいの』の群れが現れた。


お前の覚悟なんて、そんなものと言わんばかりに

そいつらは『僕たち』の行く先を阻んでいた。


退く……?ここに来て……?


「ォマエカ……!おマぇかァァア……ッ!」


サラリーマンの方の化け物が……息を荒くして切実に叫ぶ。

こいつも……何かを探してる……?


「……カァァァエセェェエエエっっ!!!」

「っ……!」

 

『うっっっざ……』


健太くんを貫いたのと同じ肥大化した舌は、僕の顔面に風穴を穿つはずだった。けれど……


「大人しくしてろって……言いつけも守れないわけ?アンタ」


振り向いた先に居たのは……気怠げな雰囲気をまとったロングコートの女性、『亞守科 唏依(あすか けい)』だった。

 

――ギィィエエァァァァア!!!


化け物の長い舌は輪切りにされ、切断面からバチバチと薄いピンク色のスパークを放っていた。


唏依さんが左腕に纏う螺旋状の稲妻も、それと同じ色。


僕『たち』は……助けられたのだ。


「捨てないの?ソイツ」


ポケットに手を突っ込みながら歩いてくる唏依さん。

捨てる……?どうして、そんな……。


僕は言葉を発せなかった。ただ、首を横に振るだけ。


「そ。お友達想い、結構じゃない」


僕の隣を通り抜ける瞬間、鋭いけれど冷たくはない視線が健太くんを覗き込んでいた。


「だる……続かないよ。()()

()()って……?」


返答は……無かった。

ただ、華奢で寡黙な背中が壁の様に大きく見える。


本当は分かってるんだ……。

健太くんはもう助からない。


唏依さんの視線と言葉は

僕の心の奥深いところに棘のように……刺さる。


首にかけた懐中時計を大事そうに掌で覆い、鼻でキスをする。いったい、何を……?


……瞬き1つ、吸って吐くのいち往復。

それだけ、たったそれだけで……


――ジリ……ジリリ……バチバチ……!

 

……世界が、弾けた……。


襟を薄いピンクに染めた髪を揺らす背中は

瞬間移動でもしたかのように……遠くを歩く。


そして、僕たちの前を塞いでいた化け物はというと。


サラリーマンは腹を蹴り飛ばされ……

女の子は頭頂部から包むように電撃で灼かれ……

空を飛ぶ化け物はレーザーの様な物で貫かれ……


――パチン。


フィンガースナップが響くと床を張っていた小さな化け物達も滝のように吹き出すピンクの電撃で消し飛んだ。


「社会科見学、続行よ」


いつ取り出したのか、バチバチと電気を纏う銀色のオートマチック銃をクルクルとスピンさせポケットへしまうと、唏依さんはズカズカと先を歩いていく。


「……お友達と一緒に死にたいってんなら、止めないわ」


口ではそう言いつつ……唏依さんは手で『早く来い』と乱暴に手招きをし、袖で口元を拭うような仕草をした。


……焼け焦げた死体が転がる道を、僕たちは進んだ。


「……アタシよ。そっちはどう?あっそ。今行く……」


――感動の再会なら、後にしなさいね。

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