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9.ドウコク,Y

同刻

*

 

「僕が持ってる……って、何……を?」


 唏依さんが去ってすぐに。

 健太くんは息を吹き返した。


 ……そうだ。グチャグチャにされて死んだはずの僕がポンと生き返れる世界だ。


 胸を一突かれたくらいで……そんな……。


 ――返せよォぉぉォおォ――ッ!


 白目を剥いて大きな口を開けて健太くんが僕へ迫る。


「な、何も持ってな……!」


 ……話し合いの余地は――無かった。

 取っ組み合いになり座っていた椅子の上を転げる。


 馬乗りになった健太くんは天井を仰ぎ

 目を、狂ったように四方八方へ泳がせていた。


 ――アァァァァァォアアア!!!


 絶叫と共に僕の首を締めようと健太くんの両手が迫った。


「……た、くん……!健太くん……!」

 ――グァァッ!グァァッ!


 黙っているわけにも行かなかった。

 手首を掴んで抵抗をする。


 ……けど。力の差は歴然で。

 押し切られそうになったその時だった。


 健太くんの手首を、握力の限り強く握る。


 ――バチチチチチ……ッ!


「……電気!?」


 僕にマウントポジションを取っていた健太くんは僕の上で小さな悲鳴と共に全身を震わせた。

 握り締めた手からはピンク色の電流が奔っている。


「あの時の……」

 ――『貸したげる。せいぜいうまく使いなさい』


「……っ!」


 痺れ、動きを止めている健太くんを押し退け、床に転がす。

 悲しみも困惑も今の僕の本能は必要としてなかった。


「これで……君を……?」


 ――ガッ……ガリガリガリゴリゴリ……。


 背後から聞こえる金属の擦れる音。

 剣を取る前に僕は後ろを振り返ってしまった。


 ――ちげェ……!コレじゃネぇ……ッ!


 触媒、と呼んでいたリング状の腕輪を……

 ……食べていた……。


 ――ハァ……ハァァァあ……っ!

 歯が割れ、口が切れても咀嚼が続けられる。


「や……やめよう……?」


 震える瞳、震える声で語りかけ僕は――

 ――剣を執る。


 チャンバラごっこと言う言葉がおあつらえ向きなてんで素人の構え。

 全身をガクガクと震えさせてる所だった……。


『……赫憑総合學園へようこそ』

「あ、頭が……また……っ!?」


 *


『アタシら死徒会は()()()()を歓迎するわ。今のところはね』


 多分これは……彼が狂海(ここ)へ来たばかりの時の記憶。入学式、だろうか?

 隣に立つ少年が()へ語りかけて来た。


『なぁなぁ!あの会長とかって人、チョー美人じゃね!?』 

『そうかぁ?俺、隣に立ってる真面目そうな方の人が良いけどな』

『そだ。俺、高橋充。転落死ね!お前は!?』

『やな挨拶。佐藤健太。試合中のデッドボール(死球)……らしい。あんま記憶ないけど』


 *


 頭痛が晴れると視界には『赤い錠前』のマークが浮かんでいた。飛蚊症とか残像とかじゃない。邪魔だ……。


 ――ヴッ……ウゥゥウ……!


「今度はなに……!?」


 思わず声を上げる。触媒の装着されていた健太くんの腕が魚のようにビチビチと跳ねる。

 骨だとか、神経だとか、関節だとかすべてお構いなしのように。


 暴れられる前に、なんて害意が脳裏を過ぎったけれど。そんな気持ちにストップをかけるかのように……

 目の中の赤の四分の一ほどに、何か揺れる青い液体が溜まる。


 ――ォォォオオオオオ!!!!


 喉もはち切れんばかりの咆哮と共に、健太くんの片腕から青い血が吹き出して……

 ……膨張して、歪曲して……


 ――大事ナ物なンだよぉォオオオ!!!!


 重厚な獣の爪になって、僕へ襲いかかって来た。

 とにかく防がなきゃ……!


「重い……!?」


 *


『コイツらは忌まれ。とりわけ身体の部位が人間と大きく乖離してる連中を俺らは()()()と呼んどる』


 如月……研磨さん……。

 僕に『オペ』とか言うのを施してくれた人だ。


 広い講堂に立って化け物の解説をしている。


『バケモンなった部位は素人の忌力じゃまず、刃が立たへん。ほな。何処を狙うか……』


 一つ乾いた指パッチンをする『会長チャンみたくキマらんなぁ』なんて呟いてシルエットに赤丸をつける。


『遺っとるニンゲン様の部分や。むしろここが弱点とも言える。狙えへんようやったら猛ダッシュや』


 *


 ――ぁあぁあぁてん……!


 屈強な爪と爪の間に挟まった剣を縦に引く。

 青い血がピシュッと飛び出た。


 唏依さんから貰った電撃が上乗せされて、どちらかと言うとそれがダメージ源でしかないようだった。


「僕に、僕に……」


 ピリリと頭が痛む。


 *

 

 『俺らに、人を殺せ……ってことっすか……?』 

 衆人環視の中、健太くんが震え声で研磨さんに質問していた。残酷過ぎる。今の僕と一ミリの狂いも無くシンクロしてるじゃないか。


 『絵面は。と言ったとこやね』

 片眼鏡越しの糸目が薄っすらと開かれる。

 声もいつもの飄々とした調子ではない。


『言うたやろ?忌まれは理性を落っことしたバケモン。家族友人恋人。どれだけ親しい関係だろうと……』

 いつも腕からかけている長い布切れで片眼鏡を拭き、答える。


『忌まれになった以上、それはもう君の知り合いやあらへん。俺らに出来るのはせいぜい……』


 *

 

 頭痛が止んで、目の中に映る錠前が消える頃。

 僕は、自分が怖いくらいに冷静になった。

 

 ――お友達の一人も守れないよ。

「僕が……守るのは……」


 ――ァァアウッ!ァァアアアアッッ!!


 健太くんの、人としての……尊厳……。


 そして。

 ――死んで(いきて)


 漠然とした、約束……。

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