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第72話 我々、ちょっと臭うらしい……。

「……お嬢様、ちょっと臭います。」


寮の部屋について、エルに言われた衝撃の一言。

中身はどうであれ、14歳の少女に臭いとは。

かなりのショックに、言葉が出てこない。


側にいたコーディもマギーも。

リオンもビクターさえも自分の臭いをかぎ出した。


「お嬢様いつからお風呂はいってないのです?」


「……毎日入っていましたが!」


「……はい、皆さんすぐに湯浴みをしてから集合です。」


エルは私の話を最後まで気がずに『解散!』というと、手をパンッと叩き、蜘蛛の子を散らさせた。


明日から授業が始まるので、その準備にゾロゾロと生徒が廊下を歩く音がする。

1時間後にまた私の部屋に集まる約束をして、みんなは部屋へと帰っていった。


コーディの部屋には、エルと仲良しの侍女が付くことになった。

エルは仲良しが一緒で嬉しそうだった。


「ホリーとはカーライト家に来てからずっと仲よかったので、寮に一緒に着くとお休みも一緒に取れるので嬉しいです!」


そう言いながら私の頭を念入りに洗うのだった。

……なんだかクラウドになった気分。

泡だてられる頭を見ながら、そう思った。


念入りに磨かれた私は、湯あたりを起こし窓際で涼んでいた。

思えば新学期が始まってそろそろ1ヶ月経とうとしている。

もう1ヶ月。

なんとも濃い……。


男子軍は流石に風呂も女子より早く、早々に私の部屋に戻ってきた。

戻ってきてすぐリオンが手紙の束を抱えてきた。


「……セドリックを戻したの間違いだったな……。多分しばらく学園に戻ってこれないかも。」


「何があった?」


ビクターがまだ濡れている髪を指で伸ばしながらリオンを見る。

リオンが肩をすくめた。


「王に対しての暴言などで謹慎処分となったらしい。

……あとエステルのお祖父さんも暫くの間城に入るの禁止だって。」


「……しばらくの間って……。」


思わず憤慨するお祖父様が浮かぶ。

なんだか雲行きがあやしいな……。


「……とりあえず、リオンたちはバレなかったの?うちに来た事。」


リオンはビクターと顔を見合わせた。

そして。


「……うん、バレてはないけど、学園に届く手紙の返事が返ってこなかったことに、とても不審がってはいるからちょっと誤魔化すのに時間かかりそう……」


そういうとまた肩をすくめた。


ビクターはというと。


「俺はバレてるよ。兄貴も一緒に隠れ家にいたし。」


「……え、大丈夫なの?」


思わず身を乗り出す。


「……うーん、親父はちょっと変わってるからな、別に怒ってもいないが……。どっちかと言うと母親の方がめんどくさいな……」


そういうと困った様に頭をかいた。


「……といいますと?」


私の問いにビクターは手紙を胸ポケットから出し、私に差し出した。


私は受け取った手紙を読んでもいいのか確認して開いた。


手紙を要約すると。


『ワレどこで何やっとんじゃ!!学校に連絡したらおらんやんけ!

兄ちゃんと一緒におることはわかってるんや。オノレら帰ってきたとき覚えとけよ。

わかってるんやろな?寮で大人しくしろとゆーたやろ!

約束破りやがって、いてこますぞ!』


と書かれてました。

(なぜ方言なのかというツッコミは生暖かく飲み込みます。ゴッくん。)


ビクターは夏休みも冬休みもきっとマギーの実家に帰りそうだ。

これは恐ろしい。


ダイアンさんもしばらく帰らない方がよさそうだ。

ビクターのかーちゃん、恐ろしや。


思わず身震いをすると、ビクターが大きく何度も頷いた。


そんな事を話していると、マギーとコーディがやって来た。


「とりあえず、ノートは奪われない様に各自で隠そう。

……まぁ、複写を作っているとはまさか思わないだろうけど、用心だね。」


リオンが写した本人達にノートを手渡していく。


「あとはどうする?」


コーディがノートをパラパラと見直しながらリオンを見上げる。


「エリナとエーコの接触を僕らはできるだけ避けた方がいいかもだね。

それについての理由だけど…。

僕らじゃエーコに対しての対処が取れない。

魅了が使えるのであれば、どちらが使うのかもわからないし、その魅了をかからない様にした方がいいし。」


そう言いながらポケットから数枚の紙の束を出す。


「気休めかもだけど、魔族を寄せ付けない護符をみんな肌身外さず持っておこう……」


「……これは何処から……?」


リオンはコーディの質問に目を泳がせる。


「……隠れ家の本に書いてあった護符を人数分写した……。

夜は護衛があったじゃないか!何かしないと退屈でねちゃいけないと思って、すごく練習した。

効果は夜こっそり結界の外にでて、魔物で実証済み。」


「……ちょ、なにやってんだ!そんな危険な事をやってたとは……!」


思わず私が立ち上がりリオンを見る。

リオンは合掌して謝るポーズを私に向けた。


「ごめん、わかってる!無謀なことしたとは思って、ちゃんと反省した。

リューさんに見つかって怒られたし。

でもリューさんに立ち会ってもらって、確認した。

これで魔族は僕らに近寄れない。」


「……無事でよかったですけど…もう心配掛けないで。」


コーディも焦りを落ち着かせる様に、胸に手を置いていた。


リオンは頷いた。


「この護符は『魔族』にしか効かない。だから元が精霊のリューさんは触っても何もならなかった。

でも魔族を傷つけるものではないから、寄せ付けないだけの効果しかない。

……要は、さ。

『なんかこの人の近くに行くと気分悪くなるなー、近付くのやめよっと!』的な感じの効果しかないってこと。」


すごいいいと言えばいい。

でもいらないと言えばいらない効果。


でもないよりはマシだとリオンはみんなに手渡していった。

素直にお礼を言って、いつも持ち歩く手帳がわりに使っているノートに挟んだ。


ビクターに関しては『うちの母親にも効かねーかな』なんて言っていた。

効いてしまったらまず、あなたに半分それが流れているということで、護符持てないんじゃないかと。

…まぁ、言いませんけどね。


とりあえず、先の見通しに関しては焦るばかりで何も思い付かないので、夕飯前には解散した。

早起きしたので、みんな今日は早く寝るだろう。

私も夕飯を食べたら、速攻で眠くなった。


明日エリオットに会うと思うと、とてつもなく複雑な思いが湧き上がる。

会いたいけど、会いたくない。

会ったら、なんて言おう。


最後に会った時に深く傷つけてしまった事。

まずは謝ろう。

謝るという事をまず、頑張ろう。


そう心に決めて目を閉じる。


『クラウド、おやすみ』


そう呟いて眠りに落ちた。



次の日。

アーロン先生の無事を確認して心底ホッとしてから、そっとポケットにリオン特製の護符をねじ込んだ。

ポカーンとするアーロン先生を置き去りにして。

教室に入る前を歩いていたエリオットを呼び止めようと、声をかける。


……だが。


エリオットは聞こえていなかったのか、スッと早歩きで去っていった。


『……?』


すごく引っかかったが、きっと聞こえてないんだと思い、次の機会を待つ。

昼休み、放課後とあれから何日もチャンスをうかがっているのに、全くチャンスがない。


というか、避けられてる?

いやそんな事はないはず。

だってエリオットだし。

来るなといっても優しく歩み寄ってくることで有名なエリオットだし。

誰に有名かっていったら私にだけど。


エリオットの様に眉を寄せて唸る私に、コーディがチラリと見つめていた。


「エステル……何をしたの?……確実に避けられてるわね。」


グッサリ。

何かがグッサリと刺さった、今。


「……そ、そんな事は……。何したかと言われたら、ちょっとエリナを名前呼びしてたから、イラっとしてエリオット王子って言っただけだし。」


コーディの目がもっと冷たく私を見る。


「……ヤキモチ妬いたのね……。それで王子に愛想つかれたのかしら……」


「……そっ……そんなもの妬いてないけど、イラっとしたから……。」


「……認めないならいいけど、頑な過ぎると可愛くないわよ?」


私は思わず口を一文字に黙る。

可愛くないのは知ってるけど、この可愛くないは、心のことだ。

それはダメだと気がついたから。


「今度は協力してあげるから、早く謝ってしまいなさいな。」


そっと微笑んだコーディに、無言で頷いた。


5日目にして、チャンスがくる。

コーディが先生に質問という技で、逃げようとしたエリオットを封じ込んだのだ。

目の前に立ち、呼び止める。

流石に返事を返すエリオット。


……なんでそんな挙動不審なんだ……?

私と目も合わさず、ダラダラと額から汗が流れている。


「……具合でも悪いのですか?」


「……いや、そうではない……そんな事より、何か用か?」


コーディが先生をドスドス押しまくって距離を取ってくれた。

ドア付近なので、生徒もいない今がチャンス。


「エリオット様、あの。こないだのことなんですけど……」


「……この間……?」


「……自分の感情に振り回されてしまって、王子って呼んでしまったので……ご」


「ああ、その事はもう気にしていない。」


「……え?」


「すまない、ちょっと用があるんだ。もう行ってもいいか?」


「……あ、えっと、はい。」


ちょっと拍子抜けというか、避けられていた時より悲しい感情がジワリと胸に残った。

このまま通せんぼしててもしょうがないので、道を譲るように横に避ける。


エリオットは私を悲しそうに見つめていた。


……なんでそんな顔すんだよ。

用があるんでしょう。

急いでるんでしょう。

そんな顔したいのは、私だわ。


思わず口を尖らせ、下を向く。

その顔にエリオットが私の頬に手を伸ばした。

そしてうつむいた顔を自分の視線の方へ向けた。


……顎クイッ!!!


じゃないか。


……頬クイっ!


「……エステル、これだけは知っていてほしい。俺は、エステルを」


「……エリオット様?」


気がつくとエリオットの後ろにエリナが立っている。

頬クイにビビって固まっていた私は目を見開いたままエリナを見た。


「ここにいらっしゃっていたのですね。探しましたわ!」


エリオットの言葉を遮るように、エリオットの後ろからギュッと抱きつく。


「……エリナ嬢。」

「エリナ……悪いが今エステルと話が」


「エリオット様。婚約者がいる前で別の女性と2人きりでいるというのは感心しませんわ。」


またもエリオットの言葉を遮断する。


「……ん?婚約者?」


その言葉がすぐ反芻してきて、口に出た。

エリナはにっこりと私に微笑む。


「……ええ。私、先日エリオット様の正式な婚約者となりました。卒業と同時に結婚式を挙げるので、是非エリオット様の友人である、カーライト様も出席なさってくださいね!」


エリオットはひどい顔色で私を見つめていた。

私は何も言わず見上げる。


「……エステル!俺は!」


「……エリオット様、行きましょう?エーコが待ってます。」


エリオットが私に何か言いたげにするが、エリナがグイグイとその場を連れ去ってしまう。

残された私は呆然と立ちすくんでいた。


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