第71話 旅立ちと別れと……サナギ。
エリオット編で色々含んだまま、本編に戻っていくスタイル…。
結構な勢いで目が死んでいる。
ここずっと本を読んでいたせいかもしれない。
いや、本しか読んでないからか。
実は残りあとわずかとなった時に、どこから来たのか2回ほど奇襲を食らったようだ。
腕を信じてなかったわけではなかったのだが、ダイアンさんがその2回ほどをいとも簡単に追い返すという。
本当信じてなかったわけじゃないけど、腕は確かだった。
その奇襲については。
「正直よくわかりませんね。」
だそうだ。
これに異議を唱えたのはセドリックで。
「……敵が何かわからずに切って捨てるのはやめろとあれほど……!」
ダイアンさんは『いやいや!』と言いながら手を左右に振る。
「ちゃんと見て切りましたって!捨てる前も確認したけど、よくわかんなかったんですよねー」
テヘッ☆といたずらっ子のように笑った。
「……ていうかさ、切ったとか捨てたとかいうけど…その人達って亡くなったの……?」
おそるおそる聞くと……。
2人はキョトンとしたまま顔を見合わせてすぐ、ニッコリと私に笑いかけた。
「お嬢、そんなわけないじゃないですかぁ!なにいってるんですかぁ、やだなーもう」
「エステルそうだよ、今頃起き上がって雇い主んとこ帰ってるって。」
「王子!それは本当と思われたらマズイのでは!?」
「いや、本当も何も、捨てたの以外は別で追わせてるぞ…当たり前だろう……!」
「あれぇ?俺全部切り捨ててなかったですっけ?」
「お前な……。部下が優秀で本当によかったな……。」
ダイアンさんはまたテヘッ☆と笑った。
「……今の会話を含めて、敵がどうなったかよーくわかった……。」
そういうとため息をついてその場を去った。
2人は何がいけなかったとコントみたいにギャイギャイ言い合いを始めた。
そっとそのまま外を見る。
高い木が太陽を遮っているので、昼間でも少し暗い風景だが、隙間から入る光がとても綺麗でそれを見るのがとても好きになった。
今日も目の疲れを癒すように、キラキラと生い茂る植物を輝かせる光を目で追うのだった。
明日から学園に帰る為、一昨日家族に手紙を書いた。
返事は学園に届くようになっている為、一方通行なのだが……。
エルに自分の荷物を運んでくれるようにお願いしたのだ。
もちろんコーディの荷物も一緒に届けられる事だろう。
光を見つめて、ため息をつく。
さっきの話を考えると、『敵』と認識しているものが、奇襲を仕掛けたということは。
「……誰かにこの場所がバレたということだろうか。」
私たちは明日ここを去るが、去ったあとここは無人となる。
そうするとこの場所の安全はどうなるのだろう。
ここはサマンサ先生のお父さんの書物がたくさんあって、先生の思い出もたくさん詰まっているだろうし。
「……ここは誰が守るのだろう……」
私は窓枠に頬杖をついて、また深くため息をついた。
「……ここは、大丈夫さ。」
ふと背後から声をかけられ、振り向くと、サマンサ先生が笑っていた。
「私とアキラは一旦ここに残ることにした。
逃げてきた私が学園に戻ることは出来ないからね……。」
先生は私の表情を見て悟ったのか、背中をポンポンと慰めるように叩いた。
「ここは大丈夫だよ。ひっそりとまた精霊に隠してもらうから。
人の出入りをなくせば、ここは誰にも見つけられない場所になる。」
「……私たちがサマンサ先生やアキラに会いたくなった場合はどうすればいいですか?」
私の泣きそうな顔にサマンサ先生は嬉しそうに笑って。
「エステル嬢の好きな時にこれる様に、簡易転移陣を作ってあげる。」
そういうと、先生は私を抱きしめた。
「……アーロンに会えたら、伝えて。
『助けてくれて、見つけてくれてありがとう』って。
おかげでアキラにも会えた。
エーコは想像以上に厄介かもしれない。
持っている力が強すぎるんだ……。
簡単に勝てる相手じゃない。」
私の身を案じる様に強く抱きしめる。
私は言葉をかけようとするのだが、口を開くと泣いてしまいそうで、黙ることしかできない。
そんな私を察する様に、先生は続ける。
「いいかい、無理はしないで。
負けてもいいから、必ず生きて。」
私がゆっくり頷くと、先生はまた笑う。
「エステル嬢、エリナ嬢のこともお願い。
彼女は操られているだけだ。
エリナの自我はもう殆どない。
奥底に押し隠されてしまった。
だから、彼女が消えてしまう前に……。」
「……わかって、います。
エリナを、返してもらいます。」
私の頬に我慢できなかった涙が伝う。
それを先生は自分の服の袖で拭った。
「笑おう、エステル嬢。
最後まで、気丈に笑おう。
心だけは、誰のものでもなく、自分のものだ。
それさえあれば、きっと大丈夫。
……さぁ、私に聖獣を見せておくれ!」
先生が笑顔で私の頭を撫でた。
「……はい」
私はそっとクラウドの入ったポーチを覗く。
……すると。
そういえばクラウドはずっと静かだった。
私の生命エネルギーで生きている為、食事は必要ないので起きてこないときは本当に起きてこないけども。
そういえばいつから起きてきてなかったっけ。
ここに来てそういえば一度も起きてないのではないか?
その前いつから起きてなかった?
最後にいつ、会話をした?
私の顔はみるみる青くなる。
ゆっくり顔を上げて、ポーチをサマンサ先生に見せた。
……そこには。
「……これは。」
サマンサ先生が目を見張った。
「先生、どうしよう…!クラウドが!
……私気がつかなかった。ずっと静かだったのに!」
いつからクラウドは……。
私は自分のことで手いっぱいで。
クラウドが私に話しかけてこなかったことに気がついていなかった。
そういえばここずっと、寝てばかりで。
何か変化がない限り、起きていなかった。
私は声を上げて泣き出す。
クラウドは。
私が早く気がついていたら……。
「エステル嬢、これは…サナギじゃないかな?」
サマンサ先生の言葉で私は覆っていた手を開き、顔を上げた。
「……サナギ?」
先生は頷く。
「……うん、サナギ。成長過程に必要な状態なのか、なんの変化なのかはわからないけど……。」
「……サナギって……、アライグマって芋虫でしたっけ……?」
なんとも間抜けなことを言っているが、とても混乱しているのだ。
自分でも『あれ?』なんて首を傾げましたが……。
号泣しながら混乱に首をかしげる姿に先生は少し肩を震わせたが。
笑顔で私の背中をまたポンポンとした。
「聖獣に関しては殆ど記述が残っていないから、よくわからないけど。
これは多分成長するために必要な過程だと思う。
このサナギの状態は何を意味するかわからないけど、これから何かある為の準備か、はたまた宿り主の成長に伴い、聖獣も成長するのかもしれないし……。
私は今後の準備だと思う。」
「……いつ目覚めるのでしょうか……。すでにここにいた分眠ったままです。
2週間はこのままだったんだと思います……。」
言ってて情けなくなり、また涙が止まらなくなる。
クラウド……。
気づいてあげられなくてごめん……。
ずっと眠っているのに、私が気がつかないといけないのに……。
止まらない涙に、ヒックヒックと肩が震える。
私の泣き声に、みんなが心配そうに集まってきた。
先生が状況を説明すると、セドリックが私の方へよってきて言った。
「……とうとう始まるんだよ、決戦が。」
「……どういう事?」
リオンがすぐ私にハンカチを差し出しながらセドリックを見た。
セドリックは口を歪ませて笑うと。
「メモ渡したじゃん。ここにあった本にあった文章に似たようなことがあった。
『聖獣が眠りから覚める時に、魔王は封印される』ってやつ。
それなのかなとおもったけど?」
思わずコイツをグーでパーンとしたい気持ちを押さえる。
そんなこと聞いてないし、聞いてたら泣いてないし。
最大限の目ヂカラで睨めつけると、悦に浸る様に怪しげに微笑んだ。
……このドMが!
「……という事は、クラウドが目覚めた時が勝負って事かな?」
リオンが顎に手を当てて先生をみる。
先生は大きく頷き、『そう思う』と言った。
私はクラウドのいるポーチをそっと手で覆った。
『クラウド、ごめんね。』
私が静かに瞼を閉じると、まだまだ止まらぬ涙が流れ落ちた。
『私クラウドが起きるまで、クラウドの力が最大限に活用できる様に、頑張るね……』
唇をキュッと噛む。
『だから、早く私の側に帰ってきて……。』
今度は涙が流れない様に上を向いた。
ガッと目を開いて。
次の日、学園に戻るためにみんなで明け方に起き出し、魔法陣の準備をする。
この場所と科学準備室に魔法陣をつなげるために。
もちろんアーロン先生の許可なんてとってないけど、きっとあそこは誰も来ないはず。
じゃなきゃあんなにカビ臭くないはず。
朝の支度をしていたリューを捕まえて、『サマンサ先生とアキラさんをよろしくお願いします。』と頭を下げると、不思議そうに私を見つめていた。
そして。
少し微笑んで、頷いた。
……ちょっとデレた?
なんて思ってしまい、私もつられて笑顔になった。
「エステル、ちょっと早いけどもう行きましょう。」
コーディが私に向かって手を差し伸べた。
私はその手を取る。
「エステル嬢、簡易転移魔法陣は魔法で畳むことができるから、使ったら必ず畳んで直す。
一度使ったら使用は24時間使えない。
使用にかかる魔力はかからないけど、その分古い方法だから、体力を削られるからね。
空腹時や運動をした後に使っちゃダメだからね。
……あと」
「……もうお母さんじゃないんだから!その辺で大丈夫だよ!」
サマンサ先生の暴走を制したのはアキラだった。
アキラは微笑みながら私を抱きしめて『無事で…!』と言った。
胸がキュッと痛む。
『アキラさんも……!』
私も強く抱きついた。
そして、転移が始まる。
セドリックの護衛も連れての大人数を運ぶ分、時間がかかる様だ。
モヤモヤと魔法が広がる中で、手を振るアキラとサマンサ先生を見つめる。
私たちは、みんなでお辞儀をする。
無事を祈って、感謝を込めて。
先生とアキラは私たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。




