第62話 流れるように過ぎ去った告白。
セドリックの言葉が終わるとそれを待っていたかのように、突然浮き出た魔法陣からお祖父様が現れた。
セドリックは何事もなかったかのように、お祖父様に向き直る。
「ダリウス、どうだった?」
「……どうもこうも。こっちが不利なのは変わらんぞ!」
と、豪快に笑った。
自信にあふれた笑い方なのに、言ってる事は消極的ですが……。
なんだかよくわからない状況に、相変わらず頭がついてきてない私だった。
……というかアッサリしてたけど、セドリックに私告白されたんですよね……?
夢かな?
夢であって欲しかったけど……。
心に留めて真面目に考えようと思います。
自分の心も、誰に向いてるかって……。
『本当はわかってんじゃない?』
ずっと静かだったクラウドが言う。
私は答えない。
……だって。
とりあえずは、考えなきゃ。
大事なことを考えてまとめよう。
まずは、そっちに逃げる。
でも後で……考える。
その時は、逃げない!
「そっちの話はどうなった?」
お祖父様がドッカリと地面にあぐらをかいて座りながら、セドリックに聞いた。
セドリックは今までの流れとアキラを紹介した。
もちろん後ろに控えたリューたちのことも。
お祖父様とセドリックが話ししてる姿をぼんやりと見つめて。
改めて14歳のセドリックが成長したなあと思った。
6歳の彼に、今の姿を見せてあげたい。
なんだか親の気分です。
それが私をす、好きだなんて……。
あぁ、ダメだ。
今反芻したらダメ……!
私はブンブンと頭を振った。
思い出すとセドリックを見るだけで顔がトマトになる。
そんな隙は作ってはダメなんだ。
やつはそこを付け入って私を攻撃することだろうから。
そんな事を1人で考えていると、2人とアキラの話し合いが終わったようで。
私は誤魔化すように咳払いをした。
「エステル、大丈夫か?」
お祖父様が私を抱き上げる。
「うああ、大丈夫です!私はなんとも。」
突然抱き上げられて、叫んでしまったが……。
まだ足先は痛むが、多少は歩ける。
足をブラブラさせて、元気をアピールした。
お祖父様は私を抱きしめて笑った。
「悪かったな、すぐに助けてやれず……。捜索にもなかなか手こずってな……」
「……捜索ですか?」
私の質問にセドリックが肩をすくめた。
「そう。すぐにでも特殊部隊を派遣する予定だったのに、あれこれ『聖女』が口出ししてきてさ。」
「ワシとセドリックは振り切って探しに出たんだがなぁ。
どうも王と王妃も『聖女』の息がかかって、キナ臭い感じだ。」
「あんだけエステルの事、息子を使ってでも娘にしたがってたのにね。」
「まるで操られている様だったな。」
セドリックとお祖父様がずっと会話しているのを見て。
すっごい湧いた疑問を解決したくなる。
『スッ』と挙手をして、質問する。
「……あの、名前呼び捨てし合うほど、どこでそんな仲良くなったの?」
私の質問に2人がキョトンと私を見た。
「……だいぶ前からだけど?」
「そうだなぁ、セドリックがうちにくる様になってからかの?
クッソ生意気なイタズラ坊主を叱りつけてやろうとしてな。」
「僕負けてないけど?」
「何を言う!ワシが最後は勝った!!」
「いや、最後は引き分けだったし!」
「……」
なんだこの仲の良さ。
年齢を超えて、男同士、拳でわかり合った的な。
そんな空気を醸し出しながら、2人は笑い合っている。
…まぁ、いいや。
お祖父様の分は誓約書なくても大丈夫なんだろう、きっと。
こうなると、セドリックの王族としての威厳とは。
「……とりあえず、お祖父様とセドリックは『魅了』かからなかったのですか?」
「かかるわけがないだろう。初めから信じてないものをどうやって信じる?」
「あー……、わかった。催眠術と一緒だ。
疑ってかかるとかからない心理的なやつ。
……と言う事は、みんなはエリナを信じてたと言う事だよね?
リオンとかコーディとか、私の友達は…無事?」
「アイツらが魅了される事はないと思う。
エリナよりエステルだからな。」
ものすごくホッとした。
みんながエリナに信仰してたら、私多分ショックで死んじゃう。
とか思うのも、すごいやなやつだな、私。
あれだけエリナのこと信じるとか言っといて……。
なんだがさっきと違う胸の痛みが襲ってくる。
今度は胸というより、胃が痛い。
色々自分本位な事を考えると、エリナに後ろめたい気持ちも溢れ出てくるのである。
「……お祖父様、お父様たちは?
やっぱりアキラを疑っている感じですか?」
おずおずとお祖父様を見上げた。
お祖父様は私にニヤリとわたしにわらいかけた。
「カーライト家を舐めるんじゃない。
みんなお前の味方だ。
お前を信じている。
さぁ、見つからないうちに屋敷に戻るぞ。」
「……私の言葉を鵜呑みにしていいのですか?
私が嘘をついたり、騙されているという不安は……?」
私の問いにお祖父様が首を振る。
「お前の表情を見た時、いつも思うことがある。
お前は順序を理論立てて考えている。
その理論が自分流だったとしても、確固たる意志を持って我々と話しているのだろう?
我等はそれを信じると決めたんだ。
家族なんだから。」
お祖父様の言葉にまた、ウルウルと目頭が熱くなる。
抑えつつ、お祖父様の言葉に引っかかる事を見つける。
「……あれ、家に帰るって……学園はどうするのですか?」
「事が落ち着くまで、しばらく療養という形にする。」
「……大丈夫なんですか?それで……」
「なぁに、誘拐されて怪我までしたんだ。誰も何も言わんせん。」
お祖父様は私にウインクをした。
「……学校に残したカバンも取りに行かないと……。
そういえば、リオンとかコーディとか……大丈夫なんだろうか…?」
思わずセドリックを見る。
セドリックもお祖父様と同じ笑顔で私を見つめる。
「あの人たちは、何も言わなくてもすぐこっちに来るよ……絶対。
学校のカバンや必要な用品なら既に、エステルの部屋に運ばせているよ。」
とため息交じりにいった。
お祖父様は静かにアキラの方へ向かった。
アキラはオロオロと困った様な顔をして私を見ていたが。
お祖父様が静かにアキラの前で膝を折った。
「精霊王さま。数々のご無礼をお許しください。
我が屋敷にて保護いたしますので、どうかいらしては頂けないでしょうか。」
静かに頭を下げた。
アキラはオロオロと私とお祖父様を見比べていたが……。
お祖父様のお辞儀に、セドリックも並んで頭を下げた。
「精霊王、私からもお願いいたします。本来であれば我が城にて滞在していただくところなのですが、何故精霊王の名を騙り居座る魔族がおりますので、そちらの対処が先決であり、王の安全を確保する為に、かの者の屋敷に滞在して頂きたく存じます。」
セドリックが『私』と言い、なんとも立派にしゃべっていた。
ふざけているわけじゃなく、もうほんとに親の気分です。
セドリック…立派になって……!
感動で涙が出そう……!
思わず目頭を押さえる私に、アキラもまた目にいっぱいの涙を溜め、ボロボロと流していた。
「……あの!信じてもらえて、あの……。よろしくお願いします!」
本当に嬉しそうにアキラは微笑んだ。
リューもその様子を見て、ゆっくりとアキラの影に隠れていった。
「とりあえず、まだ油断はできんがな……。
屋敷に移動するぞ。」
お祖父様は私を抱え直し、セドリックに合図した。
「ダリウス、転移魔法で来た?」
「うむ、準備はバッチリだ。このまま転移を使えば、全員でうちの屋敷のエントランスに飛ぶはずだ。
そこで家族みんな待っている。
今頃騎士どもも引き上げて、家族以外誰もおらんはずだ。
あの聖女がうるさく居座ってたがな、サッサと王子を括り付けて馬車に乗せたわい。」
「……ダリウス、アイツらくっつけたらエステルが失恋で泣くかもだよ……?」
「……なに?お前まだ頑張ってなかったのか!」
「は?僕が頑張ったところで……っていうか、頑張らないし!何言ってんだ!」
「……嫁に出すぐらいなら、婿に取れる方を選ぶのがカーライト流儀だ。」
「「……婿!?」」
私とセドリックの声が重なった。
思わず目が合う。
「どうせお前は王族を継ぐことはないと思っているんだろ?
なら王族血縁のうちに婿に来るという可能性もあるわけだ。」
みるみる私の顔がトマトの様に赤くなる。
あれ、よく見たらセドリックも真っ赤だ。
初めて見る顔に思わずセドリックを凝視する。
こんなセドリックを見るのはあまりないと思い、本当に穴が空くほど見つめていると。
『おい、こっち見んな。これ以上みるなら目を潰すぞ!』
とか恐ろしいことを言われたので、赤い顔が信号の様に青ざめて、私はそっと目を逸らした。
お祖父様は私たちのやり取りを見て大爆笑している。
……これ以上余計なことを言われる前にとっとと帰ろうと、私はお祖父様に懇願するのだった。
屋敷に着くと、再び母に抱きしめられた。
そして父も、兄も妹も。
お祖父様ごとみんなで抱きしめ合った。
アキラを客間に案内してもらい、アキラの護衛としてリューと精霊たちにも隣の部屋を用意した。
リューたちの風貌に初めは家族も戸惑ったが、物怖じしないリリアがリューの鱗を見て『綺麗ですね』と言ったことで、お互いの緊張感も少し解れたのだった。
リューのリリアに対する見方も少し変わった様子。
さすが我が天使。
見た目で差別をしない所もマジ天使。
私はリリアを強く抱きしめた。
リリアは嬉しそうに私を抱きしめ返した。
「……私、ここに生まれてよかったです。
カーライト家に、家族として生まれて。
お祖父様の孫でよかった。
お父様お母様の子供でよかった。
お兄様の妹でよかった。
リリアのお姉様でよかった……。」
私は今を、とても感謝していた。
この世界に生まれ変わって、ゲームだとか言われた時。
妙に家族を家族としてではなく、第三者としてみていた様な気がするから。
今私はここに生まれてよかったのだと、エステル・カーライトとしての自分を受け入れた気がした。
父も母も兄も妹も。
みんなが私を見て微笑んでくれた。
みんなも同じ気持ちなら、私も嬉しい。
この日は食事を取ると、今後の事をアキラとセドリックと夜遅くまで話す。
お祖父様は城に様子を見に行くと、堂々と偵察に出かけていった。
ほか家族は、屋敷の警備を強化する相談中。
その隙に会議をする事に。
「まずはエーコからうけた、姿交換の呪いを解かなきゃ。
『精霊王』としての姿を取り戻せば、こっちが本物だと信じてもらえるよね?」
まずは、私からの提案。
「聖女が王家を魅了してるのもどうにかしないとですよね。
意のままに操られるなら、また戦争が起こってしまうんじゃないかな?」
アキラが不安そうにいう。
「……その前にそのエリオットの信頼度?とかいうやつ下げないと……。」
と、セドリック。
「……ゲームに連動してるなら、上がることがあっても下がるのは難しそう……。」
アキラは申し訳なさそうにいった。
「あ、とりあえずノートを見せなきゃ。ちょっと取ってくるね」
そういうと私は自室に戻った。
「……まず何から手をつけていいやら、だな。」
「……うぅ、そうですね。すいません……。」
2人が束の間のノンビリな空気を感じていたら、ドタバタと騒がしい足音が聞こえる。
犯人は私。
部屋に戻った私が勢いよく客間の扉を開ける。
「……ノートがない!!」
そうです。
盗まれてはいけないと、学校カバンにいつも入れて持ち歩いていたノートが。
あのエリナにもらった『ドキ☆プリ』の攻略本的な、あのノートが。
いくらカバンを探しても、1冊も残さず消えていた。




