第63話 全てを元どおりにする方法
いつもありがとうございますm(_ _)m
私の悲痛な顔に、セドリックとアキラが一瞬笑いをこらえた。
すぐ真顔に戻って私に問いかける。
「ノート、盗まれたってこと?」
私は激しく上下に頷いた。
首がちぎれるほどに。
「学園で気をつけて、肌身離さずカバンに入れて持ち歩いていたんだけど……。
誘拐された間に奪われたってことなのかな……?」
「……まぁ、そういう兆しがあったからこそ、みんなにノートをコピー取らせてたんじゃないの?
予備はどこへ?」
「……予備はリオン、コーディ、マギー、ビクターの各自別々で持ってるはず。」
だがしかし、困った。
あれがないと。
今必要なのに、手元にないのがとても困った。
熟読したとはいえ、一語一句覚えているわけではない。
私は頭を抱え、落胆した。
その様子を見ていたアキラが口を開いた。
「……あの、1の内容だったら、私も結構やってたので知ってますよ。
ただ今の現状考えると、1の世界の内容が役立つとは思えないのですが……。
2のキャラクターである私たちが介入してますし……。」
アキラは申し訳無さそうに私達を見た。
「そうなんですが、私が知りたかったのは内容を読んだアキラさんの反応です。
ノートの書かれていたことが、アキラさんの覚えている内容と相違がないかという事が知りたかったので……。
正直今まではエリナ……『ヒロイン』が書いたあのノートの内容に絶対的信頼をおいてたのです。
それを全部丸ごと信じて行動してました。
……友達だったので……。
今は色々な疑問のピースをはめて、みんなが良い方に導ける事が大事だと自分で思ってます。」
「そうですね、それがいいと思います。
ではわたしが覚えてる内容と照らし合わせていきましょうか。」
アキラもそう言って頷いた。
まずは登場人物の相違。
これはこないだ確認したので間違えてはいなかった。
次にヒロインの特徴。
ヒロインは名前を自分で選んでつける形式らしいので、デフォルトの名前がないそうだ。
「というか思ったのだけど。
『アキラ』や『エーコ』も前世の自分の名前そのままですよね?
『攻略対象者』としてなら、名前があったはずでは?」
「そうなんですよね…。精霊王はもちろん『アキラ』という名前ではありませんでした。
姿格好もわたしとは全く別で、薄緑の長い髪の柔らかなイメージの青年でした。
でもリューはそのままリューという名前で登場します。
エーコの補佐としていた魔族の側近も確か名前も姿もゲームのままでしたね……。
わたしとエーコ以外はソックリそのままです。」
「エリナもエリナという名前のままだったし。
それを考えると、なぜ私は『エステル』何だろうか?
正直思い出せませんが、私は前世でエステルという名前ではありませんでした。
アキラさんもエーコも、生まれ変わる前の前世そのままの姿だった。
なぜ私だけが『エステル』として生まれてきたんでしょうか?」
「……あなたがエステルとして生まれてこないといけなかったということは?
理由はわからないけど、この世界の『エステル』は何か必要だったと……。」
「うーん……それに関して私じゃなきゃダメな理由もわからないし、答えが出ないものはとりあえず議題として置いといて……。
次は『ヒロイン』についてです。
1のヒロインの特徴は?」
「1のヒロインは、茶色の瞳に茶色の髪の毛です。……平凡な感じの。
共感や感情移入しやすいように、日本人に寄せた感じに作りたかったと特典で付いてた制作秘話の冊子で語られていた気がします。」
「茶色……?」
私とセドリックが引きつった様に顔を見合わせる。
その様子にアキラが焦る。
「……何か変なこと言いましたか?」
「いや、アキラさんがじゃなくて……。すいません、ヒロイン像は間違いないですか?」
「……間違いありません。髪型もストレートの髪をサイドに流した感じの……。
そういえば、格好からいうと、ヒロインはエステルさんの容姿に近いかもしれませんね。」
「……つり目のヒロインとか……。」
思わず口に出る感想。
容姿が私に近いとは、かわいそうなヒロインであるが……。
「『エステル・カーライト』は『悪役令嬢』なのですよね?」
「……それは間違いありません。」
「……『エステル』の容姿はどんな感じでしょうか?」
「彼女だけ、家族とは違う髪色なんですよね。
確かお祖母様譲りのビンクブロンドの髪の毛を縦ロールにしていて、とても可愛らしい顔をしていましたね。
悪役にしては、ヒロインより可愛すぎると苦情が来たほどです。
可愛い顔して、やることはえげつなかったので……。」
……ていうかそのゲーム良く売れたな、と。
ゲームの攻略対象者、全員地味子好きとか……。
美人見過ぎて目が肥え過ぎたか、美人に飽きたか……。
タイトルからちょっといただけない感じだったが、設定めちゃくちゃ過ぎやしませんかね?
こんな事口に出してはいえませんが、ヒロインが可愛くないとか大丈夫か……。
何やら酸っぱい顔して固まっている私に気を使う様にアキラが言った。
「製作者側も『売れるとは思ってなかった』と良くツイッターとかで言ってました。
まさか2が出るなんてって。
私が生きてた時に3の話も出ていたんですが、その話が進む前に『ドキ☆プリ』の会社が2分割してしまい、『ドキ☆プリ』自体もそっと消えゆくゲームとなってしまいました。」
「2まででもぐちゃぐちゃなのに、3まで出てたら対処できなかったですね……」
私の素直な感想にアキラは寂しそうに笑った。
なので話を戻して……。
「わかったことがあります。
『ヒロイン』だと名乗るエリナと、『エステルカーライト』としての私とで、容姿が真逆になってるようです。ヒロインの苗字はローズデール家であってますか?」
「……いえ、ヒロインはローズデールではないです。
『ドキ☆プリ』のヒロインの名字は……あれ?出てこないな……?」
「それも自分で決められるのですか?」
「……いえ、苗字は決まっていたはずです。……でも、思い出せません……
そういえば、2のヒロインの名字も思い出せないや……」
記憶を確かめる様にアキラは頭を抱えた。
セドリックはじっと私とアキラのやり取りを聞いていて、メモを取っていた。
そして考え込んでいる。
「……そもそもお二人は、わたし達が乙女ゲームにハマる理由ってわかりますか?」
アキラが顔を上げて私達を見る。
が、ゲーム自体やったことない私には全く答えが思いつかず。
黙り込んでいると、アキラが続ける。
「『推し』と呼ばれるキャラクターにハマれるか……なんです。
『ドキ☆プリ』が売れた理由がまず、タイトルがよくわからないことで話題になったことと、『対象者』のキャラクターが個性豊かで、魅力的な事にありました。
無名のゲーム会社でしたが、声優やキャラクターデザインにえらく予算をかけていて、今はちょっと変わってしまってますが、ストーリーもすごく良かったのです。
キャラクター、ひとりづつ作り込んでるストーリーに、どのキャラも平均的に人気が高かったのです。
だいたい乙女ゲームは、人気のあるキャラクターに集中しがちなので、たくさんのキャラを出す傾向にありますが、『ドキ☆プリ』のキャラは各自で個性があり、どのキャラも人気がありました。
アプリが出た時、推しのキャラと24時間生活している様な錯覚までするぐらい本当に人気だったのですが……。」
アキラは一瞬黙った。
「1のストーリーは初等部最後の年に、『ヒロイン』がある理由で転校してくるところから始まります。
元々違う学校に通っていた彼女は男爵家の養女だったのですが、実は王家の血を引いた守り子だったという事実が分かったからです。
今の王様のお兄様の隠し子というか、王家の相続争いに巻き込ませたくなくて守って隠していたという設定でした。
その証拠に『ヒロイン』は王家の特有のアザがあるんですが、そのアザを遺伝していたのです。それが証拠となり、エリオット王子やセドリック王子と婚約できました。」
「その設定だと、エリオット達といとこという形になりますね……」
「そうです、でもいとこでも結婚できますから、その辺りは問題にはならなかったですね……」
「……僕アザなんてないけど?……ていうかそんな話聞いたことないけど……。
うちの父上に兄なんていないよ。」
セドリックがすごい嫌そうな顔をして話に入ってきた。
アキラはちょっと困った様に、「そうなんですね……」と寂しそうに言った。
「ゲームには王様のお兄様は出てきたんですか?」
「……いえ、もうヒロインの両親は亡くなっている設定で、出生の秘密のところでチラリと話題に上がるのみでした。」
「エリナがアザの事を言ってる話は聞かなかったなぁ……。ノートにも書いてなかった気がします。
……というか『男爵令嬢設定』だから、王家の身分があったとしてもリオンやビクターやアーロン先生を狙ったとしても、アザを持ち出さない限りは多少の身分差も気にしないでいけるって事かぁ……。」
『ドキ☆プリ』のプリを狙う時だけアザがあります!私王族です!と、押せばいいし。
プリじゃないのを狙う時は、実は王族だけど私男爵令嬢ですみたいな。
伯爵位だと、ギリで男爵令嬢でもいけると思う……。
「現状ゲームの内容とは違いがあり、既に設定がおかしいですよねぇ……。」
私はため息交じりに言った。
私達の話をじっと聞きながら考え込んでいたセドリックが口を開いた。
「……ヒロインはローズデール姓ではない。2のヒロインも不在だった。
……この世界にヒロインって存在しないのでは?
たまたま自分がそうだと思ったエリナがヒロインをやってるだけで、ヒロインは存在しないんじゃないか……。
という事はさ、『魅了』はどこから来た?『好感度』も『ヒロイン』じゃなくても上がるものなのか?」
「……それは、思いつきませんでしたが……。オンライン形式ではないので、複数の主人公やプレイヤーが存在する訳ではないので、その辺りは全く予測がつきませんね……」
「うーんでもさ、2の世界はメイン対象者2名が女性だったって事は、『ヒロイン』が男性だった可能性は?」
「……ヒロインにそこまでこだわらなくてよくね?エリナがヒロインなのかそうじゃないかが知りたかった訳だから……。」
『あ、そうですか。』
思わず黙る。
性格上、隅から隅まできになるんだよー!
ヒロイン男の子だった可能性、いいじゃんか!
ブチブチと独り言でセドリックの愚痴をつぶやく。
もちろん心の中で。
だがしかしヤツはそれを全て分かっている様な顔して。
屁でもない様子で知らんぷりをしていた。
「ともかく『ヒロイン』の存在がないという事は、この世界は誰のものでもないという事だ。
あとはこの世界のルールに則って、正常な日常を取り戻すにはどうすればいい?」
「正常な日常とは……」
「元の状態に戻す。
あんたらの姿もそうだが、魔族は魔族の場所へ。精霊は精霊の場所。
人間は人間で……」
セドリックは一瞬黙って、私を見た。
「……人間も元あった通りに。」
そう続けた。




