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第64話 私は誰が好きなのか?

『全てをもと通りに。』


話し合いはそこで終わった。

セドリックのその言葉にアキラはリューに寄り添い、嬉しそうに笑っていた。


私は邪魔しない様に、そっと自分の部屋へと戻った。


ベッドにバタンと飛び込んだ。

14歳になってストーリー本編となった途端、誘拐だとか精霊王だとか聖女予言だとかの怒涛の展開に、今年1年お疲れ様でしたぐらいの気持ちでいる。

というか転生してから正直休まるときがなかったのではないか。

そんな事をボーッと考えていた。


エリナがヒロインではないという我々の見解に、正直ショックだった。

ずっとエリナの世界だと思ってたこの世界は、誰のものでもない事は嬉しかったのだけど……。

エリナはヒロインで、エリオットと結ばれるんだと。

エリナがヒロインでないなら、エリオットはいったい誰と?


そういえばセドリックに好きだと言われて、まだ何も答えてなかった。

それもどうなんだ、私。

本編モードになったら、恋愛フラグ立ちまくりなのか!?


バフバフと枕を叩きながら、枕をかぶる。

この手の話は本当に苦手だ。

多分前世から苦手だったと思う。


ともかくこの1年が勝負なのかもしれない。

この1年とか言いつつ、もう終わりかけなぐらい精神的にも参ってはいるが……。


とりあえず個人的に優先したいは、アキラの姿を戻す事。

そうしないと『エーコ』は精霊王として、この世界を導き続けるだろうから……。


エリナはエーコが精霊でない事を知ったらどうするのだろう?

エリナが見えていたものが、魔物だったとは……。


あれ?ではなんで私達は『精霊』であるアキラたちが見えるのだろう?

実は精霊は、みんなに見えていたものだったのか……?


考えては残るアバウトな謎に、ひたすら眠れない夜を過ごすのだった。



次の日、私は学園に手紙を書いた。

サマンサ先生宛てだ。

誰かに見られてもいい様に、むしろ見られてもいい様に。


『アキラという魔族に会った。

でも聖女の予言によって誘拐犯と間違えられ、追われてしまったので、アキラとはそこではぐれてしまった。

先生は精霊に詳しかったので、お聞きしたくて手紙を書きました。

魔族について詳しい人を知りませんか?

アキラの行方が心配です』と。


目的はサマンサ先生に『アキラ』と私が接触したという事を伝えたいのだ。

でもアキラとサマンサ先生の関係性をバレたら困るので、ワザとらしく『お聞きしたくて』なんて付け加える。

サマンサ先生はきっと『ご期待に添えない』という返事が来ると予想。

その手紙以外できっと何かしらで接触してくれると思っている。


アキラ達の姿を戻すために、サマンサ先生の力はきっと必須だと思った。


ついでに。

いや、心配してくれる友に、ついでとかいうとまた怒られちゃうけど……。


リオンやコーディ、マギーにビクターにも手紙を書いた。


『心配かけてごめんね。私は無事です。しばらく自宅で療養するので忘れないでね・はーと。』


ハートなんて今までつけた事ないので、きっとみんな青ざめるだろう。

誘拐されてどこかおかしくなったんじゃないかと。

そう思われるのは癪だが、いつもと違う自分の合図を記したかったんです。

何か伝えたいことがあると気がついてくれればいいのだけど……。

……まあそんな合図なんて決めてなかったので、気がつかない可能性もある。

その時は、スルーで終わるんだろうな……あはは。


散歩コース前であったのが最後だ。

みんなは本当に無事なのか、不安で仕方ない。


エリオットを見たから。

あの対応を見てしまってから。

エリオットのエリナに対しての変化が、心にとてつもないダメージを与えられたらしい。


『いい加減気づいたら?自分が誰を好きかってさ。』


セドリックに言われた言葉を思い出す。

自分が誰を好きなのか。


「……私は誰を好きなんだろう?」


『……いつも眉毛寄せる方。』


最近すごく大人しいクラウドが、のそりと足元からベッドの上に上がってきた。

思わず私の眉が寄る。


「……何でみんなそうやっていうんだ……。」


『気づいてないのは自分だけ?』


「それも言われた。」


『知ってる!』


クラウドは楽しそうにキャッキャと笑う。


『胸の痛みの理由は考えた?』


痛みの原因……。


「考えてない。」


『何故それが起こるのか、そこから考えてみたらいいよ』


「……わかった。逃げられないなら、そうするしかない。」


腹をくくる気持ち。

ギュムー。


思わずコルセットの紐を引っ張ってみたが、『オエッ』となって後悔する程度の腹のくくり様ですが。

真面目に自分と向き合って見ることにする。



思った以上に『療養中』とは暇なもので、後回しにしていた自分の気持ちなるものと、向き合う時間はとてもたくさんあったのだ。

しかも追い討ちをかける様に、『対象者』を知っているアキラが、私に色々状況を聞く始末。


「エステルさんは、誰が好きなんですか?」


あまりに暇なので、我が敷地内のテラスで2人でお茶をしている。


「……それを今、自問自答中なんですよ……」


乾いた笑いを浮かべつつ、お茶を注ぎながら誤魔化す。

カップをアキラの前に置き、自分の席へ着席。

そして、こっそりと深く息を吐いた。


「エステルさん、わたしね。」


アキラが私の顔を心配そうに見つめながら、寂しそうに笑った。

私は顔を上げ、無言で見つめた。

アキラはキョロキョロと周りに人がいないことを確認して、小声で話し始める。


「……わたし、リューが好きなんです。

好きっていうか……うん、きっと好きなんだと思います。

でもそれを気が付いたのは、封印が解かれてからなんです。」


少し伏せ目がちに、それでも寂しそうな笑顔を崩さず、アキラは続ける。


「ヒロインがどこかにいると信じてたので、好きになってはいけない人だとずっと思っていたところもあるんです。

でもリューはわたしと共に、ずっと仕えて寄り添ってくれたんです。

100年以上前に出会ってから、封印されるまでの長い時を……。

でも今回、この世界は誰かのものじゃないってセドリック王子がいった言葉で、わたし……。

……本当に嬉しかったんです。」


アキラの微笑みが『寂しそう』から、『照れ臭そう』な感じに変化が見えた。

頬が少し赤く染まり、瞳に憂いが見てわかるほどに。

私もなんだかつられて嬉しくなり、自然と微笑んでいた。


私は見つめていることに気がつき、照れた様に笑うアキラ。


「この世界で恋していいんだって。

だから、わたし。

リューが好きなんです。」


アキラは私に恥ずかしそうに微笑んだ。

私はその笑顔がとても眩しくて。

そして、羨ましくて。

アキラから静かに目を逸らした。


アキラはきっと私の様子に気がついたんだと思う。

彼女は私に「エステルさんは、誰が好きですか?」と再び私に聞いた。


「……私は。」


言葉に詰まる。

当たり前だ、今まで気がつかないふりをしていたんだから。

改めて考えて、腹をくくるとか言っといて、最後まで後回しにしようとしてたんだ。


私は誰が好きなのか。

胸の痛みはいつ起こったのか。

いつも痛む時は、誰のことが関係しているのか。


自ずと答えは明確で。

それをエリナの事を言い訳に、逃げ続けていたんだ。

本当はすごく傷ついていたのに。


深呼吸する。

そして。


「私は、エリオットが好きなんだと思います。」


アキラにはっきりと言えた。


バスケットで寝ていたクラウドが一瞬顔を上げ、私をチラリと見て、ニヤニヤと笑う。


はっきり言いましたが、なんだこれ。

自覚したらとめどなく流れてくる、この、恥ずかしさ。

うああああと叫びながら走り出したくなる。

そして深く穴を掘って埋まりたい。

ああああああ、もうダメだ。

恥ずかしさに頭を抱えて苦悩している私を見て、アキラは嬉しそうに笑っていた。


「ふぅん、やっと気がついたってことか。」


突然の声に体がびくりと固まった。

聞きなれた声の方向に振り向くと、セドリックが立っていた。


セドリックが私に言った言葉が頭をよぎる。


何か言わなきゃと、『声』を出そうと。

喉の奥に張り付いて出ない声に、ただ金魚の様に、口をパクパクする私。


その様子をみて、セドリックは『フッ』と優しい顔で笑い、私の頭に手を乗せた。


「やっと自覚したか、バカめ。あんな偽ヒロインなんかに負けんじゃないぞ。」


そう言って嬉しそうに、私の髪の毛をグシャグシャと混ぜ合わせた。

やめろ!混ぜるのはやめろ!

毛がかき混ぜられると、もつれて切れ毛とか色々大変なんだぞ!


慌てて顔を真っ赤にして頭を死守する。

それを見て、また嬉しそうに笑うのだった。


私は照れを隠す様に、セドリックの分のお茶の用意を頼むため、席を外す。


セドリックは私が座ってた椅子に座り、肩の荷が降りたかの様に、大きく背伸びをした。


ここからは席を外した私が知らない話。


「これでよかったのですか?」


アキラがこっそりセドリックに聞いた。


セドリックはアキラを見つめ、『フン』とドヤ顔をする。


「これでいいも何も、これじゃないと僕も困るんだよ。

エリオットにエステルは必要なものだ。

いずれエリオットが父上の跡を継ぎ、王となった時、横にいるのがエステルじゃないと。

もしもエリオットがエステルを傷つける様なことがあるならば……その時は、カーライト家へ責任とって婿にでも入る覚悟だよ。」


そう言って私が見たことない笑顔で笑った様だ。

アキラもつられて笑う。


「本当にエステルさんを大事に思われているんですね。」


「エステルは唯一、僕に意見するやつだから。いつもエリオットと比べられて卑屈になっている僕を、尤もらしく僕を叱りつけるのが、ただ面白かった。

意地悪されたって、悪口言われたって、いつも背筋が伸びていて、堂々として。

自分は間違ってないんだって顔しているエステルを見てると、自分がやってることが全部どうでも良くなったんだよね。

退屈凌ぎにそばに居たけど、いつのまにかそれが心地よくて。

これが愛とか知らないけど、一生変わらず、かけがえのない存在なんだと思う。


……ていうか僕のこれって、ゲーム通りの反応なの?」


セドリックは焦った顔でアキラを見る。


アキラは笑顔で首を振った。


「いいえ。この想いはセドリック王子の想いです。

ゲームのあなたはこんな風には変わらなかった。

ヒロインに依存し、ヒロインを誰にも見せたくないと閉じ込めて監禁しようとするヤンデレ系の……あ、いえ、ともかく真逆な感じのキャラでしたから……。」


後半ゴニョるアキラを『ふーん』と見つめていたセドリックは、また背伸びをした。

晴れやかに、安心した様に。

アキラはそのセドリックの笑顔を見つめて、嬉しそうに笑った。

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