第61話 セドリックと秘密の部屋
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気がついたら、どこかに転移されていた。
「……あれ?これどこ?」
辺りを見渡すと、怯えてへたり込むアキラの姿と。
仁王立ちでドヤ顔のセドリックが立っていた。
「……ここ、どこ!」
セドリックに問う。
やつは口を歪ませて笑っているが、何も答えようとしない。
「ここどこですかと聞いている!!」
私の必死な問いに、『うるせーなぁ』と言わんばかりに目を細めまして。
「ここは僕しか知らない秘密の部屋。」
と、どこぞの魔法学校かよってツッコミたくなるようなことを言った。
ていうか、この人いつからポッター……?
思わず、冷ややかに苦笑った。
「誘拐から帰ってきて、また誘拐されたとかならない?これ……」
「ならないよ。なんかあったら僕、連れて逃げるってダリウスに言ったし。
エリオットは少しは焦ればいいと思う。」
……前持ってお祖父様に何を言ったんだよっていう……。
てかなんでエリオットが焦るんだ。
そんな事をぐるぐる考えていると、私の顔を見てニヤリと笑い、自分の話を続けた。
「元々予言なんて信じてないし。エステルの家族やエリオットは、あの女に洗脳されてんのかもだけどさ。
ダリウスと僕は初めからあの予言を疑ってたしね。
出来すぎじゃない?犯人の名前までわかってんなら、なんで誘拐される前になんとか出来なかったのかって。
初めエステルが邪魔すぎて人に罪なすりつけて消そうとしてるのかとまで思ったけど。」
……物騒!!
すごい物騒なことさらっと言ってる、この人!
背中に豪風が吹いてんのかと思うぐらい背筋が寒いし……。
ていうか、なんでお祖父様と仲良くしてんだろう、この王子。
絶対気が合わなさそうなのに……。
「……簡単に消されてたまるか……!」
思わず口から出た言葉。
「だよね!さすがエステル!」
今度は綺麗に『ニッコリ』と笑うセドリックに、また冷ややかな風を感じる。
「とりあえず、説明しな?……どうせ面白そうなことになってんでしょ?」
そういうとセドリックは、アキラに向かってすごーく嫌な笑い方をした。
その時のアキラの怯え方が尋常じゃなかった。
リューさんがニョキニョキするかと思ってすごく焦った。
アキラの許可を取って、セドリックに説明を始めた。
セドリックは考え込みながら話をじっと聞いていた。
時折アキラを見つめながら。
「今その側近の精霊たちって見せてもらえる?」
セドリックがアキラに問いかけた。
アキラはゆっくり頷いて、影に話しかけた。
ぬるりと、影が揺れた。
霧のような黒い煙が一瞬ブワッと拡がって視界を遮ったかと思うと、気がつくとアキラの後ろに3人のフードを着た魔族が立っていた。
きっと瞬きをしてたら見逃してしまうかと思う。
この登場は、すこぶるかっこいい。
「……ふーん。なるほど。」
リューは無言でアキラを守るように背後に張り付いた。
もちろん他2名もベッタリと。
その様子を見つめていたセドリックが笑った。
「こっちが断然面白いな。あんなエセ預言者より。
さあ、情報交換しようよ。……あんた達も。」
セドリックはゆっくりリューに指差した。
リューはその場で影を少しだけ揺らす。
「エーコは魔族なんだろう?」
「……そうです」
「魅了って使える?」
「魅了……ですか?うーん、私が知り得る限りはそんなことできなかったかもです。」
「……そう。ここ最近、城の様子がおかしいんだよね。
僕ね、何かと部屋に監禁されることが多くなったんだよ。
王の指示で、とか。
父上が僕を閉じ込めることなんて今まで一度もなかったのにね?」
『おかしいと思わない?』
そう続けた。
どれだけイタズラしようが、しこたま怒られて行動を制限されても、一室から出てはいけないという監禁はなかったらしい。
私はてっきり、結構な割合で監禁されていると思ってたけど。
うちに来た時も一緒に監禁されてたじゃないか…。
まぁ、うちの家の中は自由に歩き回ってましたが。
ともかく彼の中で、閉じ込められると監禁は違う部類なのだろうか。
まぁ親子でしかわからない感じもあるのだろうから、そこは突っ込まずに飲み込んだ。
……謎が残るセドリック理論。
「うーん、もしや『魅了』は現在のヒロインができるのかもしれません。……ゲームにはそういう事は出てきませんが、明らかに周りが『魅了』されてないとおかしいような、辻褄合わない行動はありましたから……。
まぁ乙女ゲームですから、そこら辺りは見て見ぬ振りというか……」
「……例えば?」
「例えば……、そうですね……。」
アキラは何かを思い出すように首をかしげ考え込んだ。
リューはアキラを気遣い、肩に手を添える。
「クラスの男子全員があっという間にヒロインの味方をするシーンとか。
恋愛重視のゲームなわけですから、ヒロインがエリオット王子にそれはもう……ベタベタするんですよ、所構わず。
王子には婚約者がいる身分ですけど、そんなの御構い無しなんです。
もちろん王子もデレデレで、それを注意する事はなくて……。
それを悪役令嬢の……エステルさんがヒロインを叱りつけるシーンがあるんですけど、一気に男子がヒロインと王子を擁護しだすんです。
ゲームやってるときは、自分が主人公なわけですから『キャー!』とか思ってましたけど……。
今この世界に生きている身として、常識として…、それはあり得ない行動という事は分かりますので。」
若干引き気味のセドリック。
きっと思っている事だろう。
『乙女ゲーム()とは。』と。
……大丈夫、セドリック。
私もおんなじこと思っているから……!
「そういう設定があるから、それがイコール能力『魅了』という事か。
ゲームでのヒロインとエーコの能力を詳しく知りたい。
……そういうあり得ないストーリーや、突拍子のないゲームの進行状況も、ヒロインの能力になっている可能性があるなぁ。」
セドリックの問いに、嫌な考えが頭をよぎった。
ので、便乗して質問。
「……もしかしてさ……ゲームがある程度進行しちゃうと、モブとかの行動も一定になったりするとかあるのかな?
例えば、今自分が狙っている対象者との好感度が一定数上がっていると、周りのモブもヒロインに対しての信用度が急上昇しちゃう的な……?」
まず。
『モブ』という単語でつまづいているセドリックに『モブ』の説明から。
理解したセドリックが、何か思い当たるような顔をして私を見た。
「それあり得るかもな。
エリオットが最近エリナに対してすごく信頼を置いているような空気を醸し出す時がある。」
「……さっき、エリナって呼び捨てにしていた。」
セドリックは嬉しそうにニヤリと笑うと、わざわざ私の前まで来て、目の前で面白そうに口を歪ませた。
「気になっちゃったんだ、そこ。そうだね、最近ずっと呼び捨てだね?」
「あーその顔ヤダヤダ、ちょーやな顔だ。」
私はシッシと手をセドリックの前で払う仕草をした。
それでも楽しそうにセドリックは、とってもしつこく私の顔を覗き込もうとする。
流石の私もセドリックの背中をバンッと叩いてしまった。
護衛に見られたら捕まっちゃう案件。
誓約書の効果も使えない事だろう。
だがしかし、叩かれた方のセドリックは何故か嬉しそうにニヤニヤとしている。
やっぱドMだったか……。
「エステル、ヤキモチ妬いてる自覚ある?」
『は?』
ひどく驚いた顔をして固まる。
「ヤキモチ?
誰が?誰に……?」
目を見開いたまま、怪訝そうにセドリックを見る。
私のその反応に、満足そうなセドリックがまたニッコリと笑う。
置いてけぼりのアキラとリューたちは、私とセドリックのやり取りを、ただポカーンと見つめていた。
……私もポカーンだけどね?
セドリックは何も言わず、ただ笑っているだけだった。
その顔が妙に腹たつので、とりあえず距離を取り、見ないふりをした。
「とりあえず、一定数の好感度が何故かエリオットにあるって事ですよね?
そうすると、段階的にはハートが3つぐらい上がっている状態なのかも。」
ポカーンとしていたアキラが口を開いた。
「……ハートとは?」
セドリックがアキラの言葉に反応する。
「あ、えーっと。……ハートとは信頼度のメーターを表していて、5段階となります。
ハートが5つだと告白イベントが発生して、強制的にハッピーエンドまでイベントが進みます。
ハート2で知り合い、ハート3で友達、ハート4で気になる人みたいな感じです。」
「……それリアルであるとすごく便利ですね。
コミュ障にはもってこいだ……。」
「……すごく今関係ない話をぶっ込むのはやめろ?…あとすごくいいこと思いついたみたいな顔もやめろ?」
アキラの話をすごく興味を持った私をセドリックが言い放つ。
アキラは一瞬吹き出したが、すごく我慢したようで笑うのを持ち直した。
すっごい顔してたけど……。
「ゴフッ、……ともかく。
名前を呼び捨てにしたという事は、3もしくは4に移行しようとしているのかもしれないですね……」
「でもエリオットはきっとエステルに星5ついてると思うけどな。」
「……いや、星じゃなくてハートじゃないだろうか……」
思わず間を入れずにセドリックにツッコむ。
星5だと、すごい美味しそうな料理を出すレストランぽいから……。
「……ていうかなんで私に5ついてんだ!!ありえんだろう……」
一回通り過ぎた5が帰ってくる。
「なんでエリオットが私に……?そもそもエリオットがエリナに好意を寄せている事で丸く収まるんじゃないの?」
そんな事を言いながら、何故かチリチリと胸が焦げるような痛みが走る。
無意識に押さえる胸元を、見逃してはくれなかった。
「いい加減気がついたら?自分が誰を好きかってさ。
多分エステルとエリオット以外全員わかってるよ。
リオンがめちゃくちゃ焦ってるしな。」
「なんでリオンが出てくるんだ……。私は誰も好きじゃない!」
「……まぁその辺は僕から言うのはちょっと違うから伏せるけどさ。」
伏せるんかーい!
思わせぶりな事をツラツラ言っといて、伏せるとかなんだ!
口をへの字に曲げて、セドリックを睨みつけた。
セドリックは私の方へ歩いてくると、『ガッ』と私の頬を挟むように片手で掴んだ。
「ふぎゅうっ」
なんとも情けない声が出た。
突然掴まれた顔を、訳がわからず目を見張る。
セドリックは冷ややかに私を見下げて。
私には理解しがたい言葉を言った。
「僕がエステルのこと好きって知ってる?」
なにを言われたのか、理解できずに目を見開いたまま固まった。
「ひゅあ……」
喋ろうとするが、頬を挟まれまともに喋ることができず。
つまり、なにが言いたいのかと言うと。
『誰が誰を好きだって言った?』
正直信じられる訳ない。
じゃんけん婚約の首謀者である。
一体この何処に、今まで恋愛観が出来る空気があったのか。
そもそも好きな子にこんな暴力を働くことが出来るのか。
私には全く理解できなかった。
「わかんなかったでしょ?でもみんなわかってたよ。」
「……ひんな?」
「そう、みんな気づいてたってこと。リオンもコーデリアもマーゴットも、あの鈍いビクターも、全員。
僕がエステルを大好きだって。
サイラスは僕を何としてもエステルに近づけないように、何度か門前払いされたし。
……知らなかったというより、知ろうとしなかったのは、エステルでしょ?」
私は見開いた目をパチパチと瞬きした。
……知ろうとしなかった?
私は頬からセドリックの手を外すことに成功した。
自分の頬をそっと撫でながら、セドリックの方を向く。
セドリックは腕組みをして、ドヤ顔で私を見下ろしていた。
「だけども。
僕はエリオットも大事なんだ。……大事な兄上だから。」
「……それは知ってる。セドリックがエリオット大好きなのは……。」
セドリックがふと、目を伏せ笑った。
「……そこは気がついていたんだ?自分への好意は全く気がつかないくせに。
自分が誰を好きかも。」
「……」
図星……なのか?
今、自分の中にストンとその2文字が落ちてきた。
それは自分でもわかった。
図星という事は。
なにも言えず、セドリックを見つめる私に、セドリックが続ける。
「どっちも大事だから、どっちにも幸せになってほしい。
僕にはわかるよ、エリオットがエリナを求めていない事は。
エリオットが欲しいのは、誰かも。
だから、エステル……。」
じっと私を見つめるセドリック。
私もじっと見返す。
そんな私の顔を見て、セドリックが笑う。
それはもう、今まで見たこともない爽やかな笑顔で。
「エステル。
……あんな偽ヒロインなんかに負けんなよ。」
まるで私に頼み事でもするかのように、セドリックはそう言った。




