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story 27 廃城の正体と与えられた魔法

階段を降りていくと、その先にはまた扉があり、押せば抵抗なく開いた。


「おおう。これはヤバそうだ」


部屋の中には巨大な瞳を伏せた球体のようなものが鎮座していて、それと壁に繋がった血管のようなものがドクンドクンと脈打っている。


不気味なその眺めとは裏腹にイクサは強くそれに惹かれ、恐れと共に近づいていくとあと一歩というところで不意にクワッ、と巨大な瞳がその瞼を開いた。その刹那、あふれ出る魔力が爆発的に広がり、イクサや周囲を呑み込んでいった。


「す、凄い! こんな強大な魔力、魔物じゃない、もっと大きな……」


イクサは魔力に翻弄されて意味の分からない言葉を口走りながら、同時に彼の中に流れ込んでくる知識に身を任せた。彼自身に関するもの、そしてこの廃城が何のために存在し、これからどうすればいいのか。それは今のイクサには余りにも大きな知識だった。


「──そうか。ここはやはり。いや、しかし……」


今や廃城の巨大な眼は不気味なものではなく、それはイクサと深く結びついていた。イクサはその部屋を後にして階段を上がった。彼の後を追うように何度も壁から扉が現れ、彼が通過するたびにセキュリテイを増すように隔壁となって閉じていく。


イクサは彼に与えられた力の意味を今、悟った。そしてその力で何を成すべきか、も。巨大な眼はこの廃城の心臓とでも呼ぶべき器官だった。これから何度もイクサはここに来て目玉と相見えて会話を繰り返すことだろう。だが今は雌伏の時だ。まだ本格的な廃城の目覚めは遠い。その前に彼自身の力を底上げしていかなくてはならない。


「ゾーン魔法……この力、まさに俺が目指していたものだ。あの世界のゲームの知識がこんな風に役立つなんて」


イクサは召魔を呼び出すときのように内なるものに囁くように瞳を伏せて両腕を開き、足下に魔方陣を描いた。


「【サモン・スピリッツ】、【アドベント】ファイアエレメンタル! 」


召喚呪文アドベントで火の精霊を呼び出す。

その姿は赤い菱形で周囲を炎のオーラを纏っている。先日、他の召魔と疑似パーティプレイをしたのでレベルが上がっている。レベルは1で生き物らしさは無い縦長の菱形をしている。

この後、何回も呼び出し、使役させながら経験値を稼いでレベルを上げていくと妖精の形を取り、そして攻撃力の高い魔獣にも変化することが出来るようになる。


「【ディメンション】、ファイアブレイズ」


イクサの新しい力、ゾーン魔法【ディメンション】。それを唱えると地面に赤い線を描く六角形のヘックスが走り、広がっていく。ボッ、ボッと六角形の領域が広がるたびに地面から赤い光が立ち上り、消えていく。ゾーン、その広さはざっとイクサの視界の範囲に広がっていた。


ファイアブレイズはファィアエレメンタルの属性を引き出す命令文。これにより、ヘックスのゾーンフィールドには火の属性が宿ることになる。火の属性は攻撃力増加、耐火性などの効果がある。

それだけで無く、このヘックスのゾーンフィールドは大地の精霊力を糧に地形や陣形を読み取り、その場に入る者をゾーン魔法のルールに縛るのだ。


今、彼が立つ六角形のゾーンフィールド。それぞれ一つ一つは、人が一人立てる程度の広さがあるもののグリフィンなど、人より大きい召魔では二、三個のフィールドを跨がってしまう。


そして、彼が立つゾーンフィールドには隣に隣接するヘックスにいるファイアエレメンタルの影響を受けて微かに赤いオーラが立ち上っていて、彼自身はその効果を確かめている。


「おお! 確かに上がっている。攻撃力、火の魔法防御、火の魔法耐性そして物理と魔法攻撃力も」


ステータスを表示させて確かめている。

彼の支配領域に広がるヘックスの上では隣接する味方がいるとき、25パーセント上昇する。さらに地形による遮蔽効果や高所から低所に対しては優位に効果を追加することが出来るため高い戦略性を生む。

それら追加する効果は重複せずに累積加算されるため、上手く条件を整えてやれば不利な場面や単騎でも集団に抗する力を得ることが出来る。


例えば護衛対象を中心にした円形陣を組んだとき、周囲の兵の力が弱ければ当然護衛の成功率はそれなりに下がり襲撃者に後れを取ることもあり得るだろう。

だが、ゾーン魔法は違う。

フィールドにこの魔法の効果が掛かっている限り、護衛対象のいるヘックスのマス目の一つをぐるっと囲むように周囲六方向に兵が配置されたときには護衛に対する防御効果は百パーセントを超え、兵のそれぞれ個別の能力の強弱に拘わらず完全耐性を得るのだ。


「あ、ああ……あの世界が俺の手に」


新たに得た力の意味を噛み締め、感無量に震える。

それはイクサが地球で最も愉しんだ、オンラインRTS、リアルタイムストラテジーの概念をそのまま現実の世界に投影するものだ。彼がハマっていたゲーム、マリーントルーパーズのそれぞれの場面を思い描きながら盤上の駒を召魔に置き換えて、彼自身の軍団を作り上げるのだ。


この彼だけに与えられた新魔法、ゾーン魔法は、今までのヒーラーとしての回復魔法や弱体魔法と大きく性格が違う。

一種、ゾーンフィールドに対して張られる設置型の罠魔法に似ているが否なるものだ。ゾーン魔法によって彼の知覚範囲に広がったヘックスを構成するゾーンは、彼の魔法の支配下に入り、パーティメンバー各自の動きによって攻略難易度を大きく左右する。


今、イクサがしたようにファイアエレメンタルによる属性変化のような召喚魔法を基礎としての効果は、街でパーティを組む以上、望むべくもない。

それでも兵が隣接するだけで防護効果が二十五パーセントも追加されるというのは能力が三段階程度も上がったに等しい。新兵なら中堅兵ほどに力が上がることになる。それら効果が継続するのだ。


***


あの目玉。廃城の中心部で目覚めたそれはイクサに、ここがどんな施設で、何のために存在するのかを明らかにした。この世界でイクサがこれから何を目的に行動し、どんな行動を選択し、何を為すべきなのか。そして、そのために彼に与えられた力、ディメンション。それらはこの廃城の目的に合致していた。


「この力があれば俺は前に進める」


今まではただ、漠然としていたこの世界に送られた意味、召喚の力の理由、そうした様々なピースがくみ上げられたパズルのように組み合わさり、一つの形となった。そして呆然と口にしていた。その忌名を。


「そうか、魔王か。本当にいたんだな」


今までこの地方では魔王というのは過去に現れた厄災である召喚師を指して言い、それが為に召喚師を避け、恐れている。イクサにヒーラーとしてや、弱体魔法などの力が無ければ孤立していたに違いない。だが、先ほど地下の目玉から膨大な魔力の奔流に身を任せたとき、同時に受け取った知識によれば「魔王」は実際に存在するらしい。そしてこの廃城、今はまだ埋もれたまま禁域と呼ばれる地域に封じられているが、イクサはその正式な名前を知った。


「幻魔殿ノゥーアトゥーン、か」


イクサに与えられた力。それは巨大な目標のための礎。いずれイクサが力を蓄え、廃城とともに成長し、城が元の姿を取り戻したとき、この世界の謎が紐解かれ、物語が動き出すのだ。今はまだ雌伏の時。


「とりあえずダンジョンか。楽しみだな」


今は目先のことに集中しよう。

廃城がその真の姿を取り戻すにはまだイクサのレベルも足りない。


エレメンタル、精霊型召魔とガルムやグリフィンの魔獣型召魔がレベル1召魔、レベル2の魔人型召魔を召喚するにはイクサの保有魔力量を上げる必要がある。レベルを上げるたびに十倍ずつ必要魔力量が上昇するためだ。


イクサが召魔界にアクセスすると召喚出来る召魔のラインナップが朧気ながらシルエットで浮かび上がる。魔獣型にはまだ続きがいて、この地方には山か平地で海は無いため登場する機会は無いと思われる海獣型の召魔も魔獣型なので呼べなくも無いのだが、そのシルエットが巨大なので二の足を踏んでいるのが実情だ。

召魔には生物だけで無く、魔剣のようなもの、それにどういう使い方をするのか彫像、スタチューのようなものもある。もしくはガーゴイルのような魔法生物もここに含まれるようだ。


グリフィンもガルムも意思は伝わるが、意味ある言葉は無い。魔人型になると完全に人型なので会話も可能になるだろう。

彼ら魔人がどうして、生物しての輪廻を外れて召魔として契約【コントラクト】したのか、そういう召喚師としての疑問もある。


主に魔獣の場合、戦って弱体化させて【ギアス】によって従わせることにより、召魔として登録出来るようになる。が、意思ある人や高位の魔獣の中には意思を持つ者もいる。この世界の生物ヒエラルキーの頂点であるドラゴンも召魔にいるのだ。

幾ら召喚師としてレベルが上がってもドラゴンを弱体化するには熾烈な戦闘が必要になるはずだ。究極の魔法生物である彼らの魔法抵抗力や耐性を打ち破って【ギアス】に掛けられたとはとても思えない。何かの理由があって彼らドラゴンが召魔として使役されるのを望んだのか。

それら召魔の謎もあるが廃城の謎も明らかになっていくに違いない。


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