story 26 ダンジョンパーティ
それから今回のダンジョン攻略に向かうメンバーとの顔合わせが行われた。先ほどのホールに戻ると改めて紹介される。参加メンバーはケイト、スリザを含めて五人、イクサを含めて六人のパーティだ。後はイアンという狩人とヒーラーのジャスパー、そしてポーターのジョアン。
このパーティにはイクサの他にもクランに入りたてのヒーラーがいるのだが、彼、ジャスパーは自信なさげでおどおどした挙動でイクサに挨拶してくる。
「僕もヒーラーですが自信が無いので他の方が一緒に来てくれると心強いです」
「いや、俺も他の人の立ち回りとかパーティでのやり方なんて知らないので今日は勉強させて貰うよ」
以前、クラン銀の獅子の護衛クエストに同行した際にヒーラーの立ち回りは理解したつもりだ。だが、野外のフィールドでするのとダンジョンではまた違っているかもしれない。何せ、ダンジョンは密閉空間で通路を移動するのが基本なので運用方法は異なっているはずだ。
「ジャスパーさんはヒールを何発打てるんですか?」
前回、こことは違うクラン銀の獅子のヒーラーを見て、ごく当たり前の質問をしたつもりだった。
商隊の護衛クエストを受けたとき、あれは野外、フィールドでのことだったが、彼らのヒーラーはせいぜい、三発ヒールを打てれば仕事として認められた成果を出したと見なされた。だから、あれがヒーラーというものだと思っていた。
だが、ジャスパーは少し怪訝な表情をして、少しして納得したように頷いた。
「ん、ああ。ご存じないのですね。ダンジョンは初めての経験では仕方がありませんね。ダンジョンの中では常に魔力が回復するんですよ。それと戦闘は継続的に行われるため、ヒーラーの活躍する場面も多いんです」
「そ、そうなんですか。それは初めて知りました」
驚きの事実だった。
イクサは彼だけの召喚士スキルとしてMPを自動で少しずつ回復するオートリフレッシュを持っている。だが、フィールドでは他のヒーラーもウィザードも基本的には、持っている魔力を打ち出したらそれでやることはなくなってしまう。
ダンジョンにおいては彼の持つアドバンテージであるオートリフレッシュのスキルと同等の力を得ることになる。それは頼もしい限りだ。
「それでも魔法を使うことは疲労を伴いますから限界はありますけどね」
「なるほど」
実際、魔法はMPだけあればいいというゲームのようにはいかない。スタミナも同時に消費して魔法を使うからだ。
スタミナのほうはある程度まとまった時間、休憩時間などが取れなければ回復することは出来ない。ダンジョンにおいてはそういう休憩できる場所は限られていて探索中は回復する手段がない。そのためMPは回復しても結局、頭打ちになる時間はやってくる。
それは前衛にとっても同じことだ。体力を回復できてもスタミナは消費するし、戦闘による緊張感に晒されることでストレスが蓄積すれば長時間での戦闘は難しい。
そして目新しいところでは今回初めて顔合わせをするジョブがいる。ポーターだ。
ポーターはいわゆる荷物持ちだがそれだけに留まらずパーティの状態管理、行程管理などマッパーも兼ねている。
ダンジョンでは襲ってくるモンスターを倒すと魔石というクリスタル状の石を残して消えてしまう。魔石の売買はクランの重要な資金稼ぎの手段なので、こまめに回収する必要がある。
モンスタードロップなどはたまにしかなく、ダンジョンでアイテムを得るには宝箱が殆どだ。そのためポーターには鍵開けや宝箱の罠解除スキルなども要求される。
今回のパーティではジョアンがそのポーターを担っている。小太りだが手足はがっちりしていて確かに彼なら多くの荷物が持てそうだ。それでいて知的な眼差しもしていて自分のジョブに誇りを持っている風にも見える。
実際に戦う前衛などからしてみれば、たかが荷物持ちと揶揄されてもおかしくない。
それでも魔石を回収するために費やす間は無防備になるし、戦闘で受けたストレスを軽減するための気遣いを常にしてくれるポーターはダンジョン攻略には必須の縁の下の力持ちだ。
「やあ、初めまして。新入りさんがいきなりダンジョン攻略メンバーに選抜されるなんてイクサさんは実力派なんですね」
「さあて、どうなんでしょう。過大評価されているのかも知れません」
イクサは水晶の戦士団のダンジョン攻略メンバーと顔合わせをして突入日を決めた。その前に廃城に行って今の能力を確認しておきたい。彼自身レベルが上がったことで何かの予兆めいたものを感じ取っていた。何か新しい力が覚醒する予感がした。
***
イクサは水晶の戦士団とダンジョンに行く約束をした翌日、街を出て廃城に向かった。街を出てしばらく行ったところで狼型召魔のガルムを呼び出す。グリフォンタイプのグリフィンは愛嬌があって空を飛んでいくのも爽快だが、空を飛ぶ魔獣は目立つ。
「【サモンスピリッツ】、【コール】ガルム」
サモンスピリッツを唱えると地面に金色に輝く魔方陣が描かれ、コールと共に光の繭に包まれた魔獣が浮き上がってきて光が弾けると、内側から銀白色の美しい毛皮をした勇ましい狼が姿を現し、GRRRRと唸り声を上げてガルムが姿を現した。
イクサはガルムの姿を認めると微笑みかける。が、ガルムのほうは素っ気なく、召喚師に頭を垂れるが仕方なく従っているような気配にイクサも苦笑い。
それを意に介した様子も無くガルムの首筋に手を伸ばして美しい毛並みを撫でる。彼ら召魔が召喚師に向ける忠誠は疑うべくもない。
「ガルム、城までよろしくね」
イクサが顎の下を掻くと喉を鳴らして了承の意を伝えてくる。体を低くしてイクサに背中に乗るように促してくる。イクサはポンポンとガルムの肩を叩くと彼の背中に跨がってしがみつく。
イクサがギュッ、としがみついてきたのを確認するとガルムは静かに脚を動かして滑るような動きで全くイクサに振動を感じさせずに鋭く加速していく。
イクサは「おっおっ」とおっかなびっくりでうめき声を漏らすばかりで飛ぶように気配が流れていく。
彼ら召魔たちは呪術で使う隠形のような背景に体を隠すスキルを持っていてイクサと行動するときは、彼にそうと知らせずに常時それを使っている。そのため背中に乗せた者も彼らが動き出すのと同時に見えなくなる。
時折、木々の下草がわずかに揺れる程度でそれだけが何者かがそこに居た証だ。途中にいた魔物も獣もガルムと彼の背中にいたイクサに気づくことも無く気配すら感じずに素通りしていった。
ほどなくしてイクサは幾つもの森を抜け草原を抜けて「あっあっ」と言っている間にあっという間に廃城へとたどり着いた。
イクサを下ろすとガルムはペタン、と廃城のテラスの石畳に一仕事済んだとばかりに座り込んでいた。そんな彼に苦笑いして、待っててと手振りで挨拶をして廃城の奥に進んでいく。
「あれ? また変わってる。何でかな」
前来たときは廃城の空中庭園とでも言うべきテラスにあったお御堂のような教会風の建物があったが、今見るとそこから続く泥を鋳固めたような黄色いレンガで組まれた塀が伸びてその先にある尖塔に連結している。
空中庭園から周囲の森へと続いているとばかり思っていたが、テラスの下の果樹園と森とははっきりと分けられて存在しているのが分かった。
教会の観音扉を軽く押して中に入ると今までは崩れた壁と思っていたところに通路が出来ていて奥にまるでイクサを誘うように壁にカンテラの明かりが点っていた。
「だんだん充実してくるな。まったく。この施設、一体何なんだ?」
廃城はイクサが訪れるたびにその姿を変えていた。通路の奥は階段になっていて怪しい気配は無い。むしろイクサにとってはなぜか安心感と郷愁に似た感情を喚起してくる。




