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story 19 街の調査

 帰りもグリフィンの背に乗って悠々自適のご帰宅だ。既に第二の故郷と呼べるほど馴染んできつつある人の住む街であるムシュルイの近くの森までやってくると召魔を帰還させ、イクサは冒険者たち街の住人が使用するゲートへと向かった。


 いつもの検問の衛兵に頷きを返して何事もなく顔パスで通過する。入るときは身分証の提示を求められ、通行料を取られたものだがそれも昔のことだ。イクサはその足で冒険者ギルドに向かう。入るとき何やらいつもより人の数が多い事に気づいた。顔見知り程度の冒険者に頷きを返してギルドホールに入ると、こちらはより切迫しているようだった。


 その中で珍しい顔を見つけた。寮の同室の少年ミロスだ。かつてこの街に始めてきたときにゴブリンに襲われていた彼ともう一人に対して辻行為で助けたこともあった。まだ冒険者を続けているということは身の丈のあった仕事をしているのだろうか。イクサはミロスに声をかけた。


「やあ、何かあったのかい」

「ん、ああ、君か。久しぶりだね。うん、何か珍しい魔獣が出たらしいよ」


 ミロスはイクサに声を掛けられて一瞬、顔が分からない様子だったが寮の同室の住人の顔を思い出したのか破顔して答えた。どんな魔獣だろうか。何にしてもイクサやミロスなどのルーキーにはあまり関係ないだろう。

 聞いてもないことをベラベラと話しかけてくるミロスを無視してルーキー用の窓口へと向かう。もう顔見知りとなった受付嬢がいた。

 ここのギルドの受付嬢はイクサが知る限り三人いるようだ。制服らしいベストの胸元にはネームプレートが付いていて初めは女性の胸をジロジロ見るのも気が引けて確認もしなかったが、そこにはマドレーヌと書いてあった。

 マドレーヌは青い髪をポニーテールに纏めた、目がキリッとしていて冷たい感じがする美人さんだが仕事柄は丁寧で確実なので、クラン加入の件で彼女に冷たいあしらいをされるのが常だが、イクサは彼女を信頼している。


「イクサさん、あなたでしたか。顔を見ませんでしたので少し心配していました」

「すいません、薬草取りに夢中になっていたらゲートの門限を超えてしまったので野宿しました」


 イクサから窓口の横のカウンターで薬草を受け取ったマドレーヌはチェックし「確かに」と答えた。


「それにしても何か出たんですか。珍しい魔獣が出たとか」


 ミロスからの聞きかじりをそのまま伝えると、彼女はイクサをじっと見つめてくる。しかしすぐに目を逸らせた。


「この辺りに空を飛ぶ魔物が出たんですよ。この辺りには翼を持つ魔物の出る高い山はありませんからね。そうなると昔からの言い伝えで聞く魔王に連なるものかと皆さん殺気立っているんです」

「な、なるほど」


 イクサは内心、冷や汗を掻いていた。まさかグリフィンに乗って飛んでいるところを目撃されていたとは。


「まあ、あなたには関係ありませんよ。この国でもドラグーンを駆るのは王家直属の部隊しかありませんから」

「分かりました。ありがとうございます」


 受付嬢から今回の薬草採取の報酬を受け取ると礼を言って窓口を後にした。しかし、イクサの知らないことはまだまだ多い。

 王家、ということはやはりこの街……いや国なのか。とすればムシェルイは首都ということになるのか。よくファンタジー小説などでは冒険者ギルドは国家をまたいだ組織として描写されるが、そうなると隣国へ渡ることも可能なのか。

 今までに知った地理関係から見るに、港湾は考えにくい、となれば陸路になるのか。まだ街の南側しか確かめていないので、暇を見つけてはこの街の北部も調べたい。

 グリフィンの飛行は便利だが、ムシュルイに近い場所では難しい。そうなると廃城まではガルムが騎乗できるようになるのが望ましい。それまではしばらくグリフィンに低空を飛んで貰うことしかない。現状、徒歩では廃城までは難しいからだ。


 イクサは一日ぶりに寮に戻ってきて寮母に無断外泊を詫びてた。寮母は穏やかな笑みを浮かべながら「今後はこんなことがないように」と釘を差したが、怒っている様子ではなかった。この寮がルーキーの冒険の補助という役割を担うためにあることからも、良好な関係を保っている今、彼女はイクサを心配しての言葉だとわかったから彼も素直に頭を下げた。

 自分の部屋に入り、ベッドにゴロンと横になった。色々と少し考える必要がある。これからの動向について。


 廃城で分かったことはイクサの成長に即して城もまたその機能を拡充しつつあるということだ。

 だがその城の機能はイクサとは特に関係なさそうだ。強いて言えば何らかのイクサからの情報だろうか、を摂取している可能性がある。無論、その仕組もイクサに召喚魔法がインストールされたときに一緒に組み込まれたのだろう。

 そこには何らかの思惑が見て取れる。あの礼拝堂に祀られていた像。礼拝堂と言えば普通、祀るのは神のはず。だがこの世界にどんな神がいるのか。それもまた不明だ。

 まず足元を固めようと生活の基盤となる収入を得るために冒険者稼業に手を出してみたがこれも先が見えない。

 今まで、召喚師のこともあり、大手クランへの参加を拒んできたが覚醒によるレベル上昇を考えれば、それも一つの容易な手段と言えなくもない。


 ともあれ行動だ。とは言うものの、今から冒険者ギルドに依頼を見に行くというのも間が悪い。なら街に出て少しでもこの街、この国の情報などを集めたほうがいい。自室を出ると寮母に出かけてくるのと遅くならない旨を伝えて、外出した。

 先日はスラム街っぽいところに入りそうになって逃げ帰った記憶があるので、今度は大通りを行くことにする。このムシュルイという街は外側を巨大な壁に守られ、魔物の侵入を阻んでいる。イクサがよく使うエリアは南側のゲートを中心にしたごく狭い区画に過ぎない。

 大通りには道沿いに様々な商店が軒を連ねている。少し奥に進むと交差点のような場所に市が立っていて馬車はそこを避けるように遠回りに走り、また中心部へと走っていく。イクサは歩きだ。ペタペタとサンダルののんびりとした足音を立てて田舎から上京してきたお上りさんといった印象だ。


 しかし、通りを真っすぐ行けばすぐに北上し、この街だか国だか分からない塀の中を行けるものだと思っていたがそうも行かないらしい。通りはやがて右に蛇行し始めた。あれあれと思いながら足を進めると、通りは行きと帰りとで真ん中から綺麗に別れると高い塀に区切られた障害物を避けるように進んでいき、やがて右に折れるとどうやら東ゲート方面へと進んでいく。北方面に行く用事がある者は馬車が往来する通りは器用に渡っていく。

 こんな世界で馬車の通行ルールが確立していることに変な驚きを浮かべながらもイクサは通りを渡るのは諦めて近くの果実を販売している屋台に近寄る。オレンジ色のミカンのような柑橘系の果実を手にして言われるままに灰色の硬貨を手渡した。そのついでに屋台の親父に訪ねた。


「すいません、あの真ん中の塀はなんですか」

「ん? ああ、貴族区さ。平民には用がない場所さね」

「北上して北のゲートに行くにはどう行けばいいんですか」

「ハハ、まあここムシュルイの馬車は複雑だからな。東ゲートで馬車を探しな」


 屋台の親父はイクサの質問からして田舎出のお上りさんだと高を括ったようだ。その推測はほとんど正しいが。親父の言う通り、歩いて北上できると思っていたイクサの出鼻を挫くほどには馬車の運行は複雑なようだ。

 東ゲート方面には前にスラム街に迷い込みそうになってしまった苦い思い出がある。餅は餅屋ということでもあるし、次は無理に徒歩を強いずに馬車を使おうと思う。最も、最近のイクサの稼ぎなら多少馬車を使っても支障はないのだが、以前はまだこの街に来たばかりであったので懐が寂しく感じていたため徒歩を選んだのだ。

 オレンジ色の果実は歯ざわりは梨のようだが味は蜜柑のような酸味と爽やかな果汁でその酸味はくどくなく口の中で弾けるのが心地良い。イクサは次はもう少し量を買おうかと気に入った。


 結局、東ゲートを目指すには日の傾きが心配なため、仕方なくギルドの寮に戻ってきた。夕食を済ませてベッドにゴロン、と横になると身の振り方を考え始めた。

 昨日も感じていた廃城の成長と自分の成長がリンクしていること、廃城がどんな機能を有していて何の目的のためにイクサを必要としているのか、それを知るためにも彼自身が成長する必要がある。

 もっと積極的に依頼を受けようとしてもルーキーではとてもじゃないが著しい成長は望めない。となればやはり、クランに所属するのが手っ取り早いという話になる。とりあえずそれを念頭に置いて行動することにする。今は短絡的に将来を決めるべきではない。


 目を閉じると夢を見る間もなく熟睡し、翌朝の目覚めも爽やかだった。

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