story 18 精霊召魔初級
「ようし、もっと召喚師の能力を開拓していこう」
今なら、前から考えていたことが出来るはずだ。それは召喚師単体でのパーティプレイだ。イクサはつい欲張って、最初の召喚にリストの二番目にいたグリフィンを呼び出してしまったのだが、リストには実は一つ飛び越した召魔がいて本来ならそちらが最初に召喚すべきだったのだと思う。それは人型どころか獣の形さえしていない幾何学的な菱形をしていて、あまり食指が動かなかった。
ランクゼロの精霊型召魔だということは分かっている。とりあえず呼び出してみて、その性格を確かめてみるしかない。グリフィンが成長し、空を飛べるまでになったこともあり、きっとイクサの役に立つ筈だ。
彼の傍らでグリフィンが控えるように蹲っていてイクサの行動を眺めている。イクサはいつも彼ら召魔を呼び出すのときのように心の内面世界に精神を沈めていくようなイメージとともに両腕を広げる。
「【サモン・スピリッツ】」
その一言で足元に魔法陣が描かれる。月と太陽を模したマークと格子状に広がる魔導の文字が金色のサークルの中で踊ると、イクサの爪先から魔力が沸き立ってくる。
「【アドベント】ウォータエレメンタル」
呼び出すのは精霊型召魔、そのうち水の精霊種であるウォータエレメンタルだ。彼らは個にして全という性質を持っており、そのために命名する必要がない。
魔法陣から浮かび上がってきた光の繭に包まれ、繭の皮を内側から破ってウォータエレメンタルの初期形態が姿を表した。水色の菱形のものが飛び出してきてイクサの前に寄り添うようにくるくると回転している。
「えーと……俺の言葉わかるよね?」
言葉は発しないものの青く透き通るような輝きを発してイクサの言葉に反応しているのは理解できる。つまり意思の疎通は問題ないようだ。多分能力的には精霊種であることからして魔法を使う後衛ジョブに相当する召魔に分類されるのだろう。
「そうだ、ガルムも呼ぼう」
ロードウルフのガルムも召喚すればグリフィンと一緒に前衛を務めさせてイクサ、そしてウォータエレメンタルの四人で前衛×二、後衛×二のバランスパーティになる。
「【サモン・スピリッツ】【コール】ガルム」
イクサの足元に描かれた魔法陣から光の繭を破ってロードウルフのガルムが姿を現す。
「ガウッ!」と低く鋭い声で存在を主張する。ガルムはイクサの足元に頭を垂れて蹲る。最初、呼び出したときもそうだったが、グリフィンのように主に対して親密に接してくるのではなく、一定の距離を置いて接してくる。かと言って邪険にしているのではなくイクサが近寄ってその毛並みを撫でても振り払うでもなくされるがままにしている。
彼を呼ぶのはこれが二度目だが、グリフィンのように分かりやすい親密度の上昇は見られない。だがそれも個性というものだろう。
「よし、揃ったな」
イクサはグリフィンに警戒行動をさせてガルムとウォータエレメンタルを伴って森へと進む。この廃城の森は魔力溜まりでもあるのか、ムシュルイの街辺りよりずっとレベルの高い、強いモンスターが出るので経験値稼ぎにもってこいだ。しばらく進むと早速、グリフィンの警戒網に何かが引っかかった。グリフィンの視界を共有すると繁みの中をガサガサと音を立てて何か木の根っこあたりを前足を伸ばして探ってる熊みたいのがいた。この辺りの森ではよく経験値のお世話になっているクマさんだろう。
「よし、グリフィン、頼む」
「キュゥゥイ!」
イクサはグリフィンに敵を釣ってくるように頼んだ。クマさんがいる斜面は足場が悪い。戦闘に有利な谷のふもとにまで誘導し、そこでガルムとウォータエレメンタルで迎撃しようと企んだ。
ガルムに伏せをさせながらグリフィンが帰ってくるのを待っているとドッドッ、と体重のあるものが藪を掻き分けて近付いてくるのが分かる。
グリフィンはバッサバッサと翼を羽撃かせて降りてくると、ちょうどそこにクマさんがやってきてイクサ目掛けて鋭い爪をたてようと襲ってくる。
ガァァッ
グルルッ
クマさんの上げる雄たけびとガルムの低い唸り声が混じり、そこにグリフィンが一旦空へと飛び上がった後、キックをするように落ちるままに後ろの爪でクマんに襲いかかる。しかし、クマさんは予め、その攻撃を見切っていたのか、スエーバックして避ける。だが畳み掛けるように飛び込んできたガルムの正面に向いた鋭い牙に脇腹を切り裂かれてグワッと叫ぶと前足を地面についた四足になって口元から血混じりの涎を吐きながらイクサたちを睨みつけている。
「ウォータエレメンタル!」
イクサの周りをフラフラしながら飛んでいるだけだった水色のひし形はパリパリ、という電撃に似た光を発して何か霧状の物質をクマさんの方向に発したが、何かダメージを与えたようには見られなかった。
その間にもガルムがクマさんの周囲を駆け回ってはダメージを与え、グリフィンが飛び上がってはキック攻撃でちまちまとダメージを与え続け、やがてフラフラとしてきて体力の落ちたクマさんをガルムの突進でとどめを刺した。
仰向けになって倒れているクマさんを前にグリフィンが期待を込めた眼差しでイクサを振り返ってくる。
「うん、いいよ。食べちゃって。喧嘩しないようにね」
「キュゥゥイ」
寡黙なガルムはグリフィンが嬉しそうな返事を返すと、一緒にクマさんの死体に牙を立て始め、ムシャムシャと食べ始める。ウォータエレメンタルはというと、グリフィンとガルムの周囲をくるくると廻りながら明滅している。彼らのように口はないが、死体から何かを摂取しているのだろうか。
今回、ウォータエレメンタルは効果的な戦闘が出来たとは言い難いし、役に立ったかというと疑問だ。だが、召魔はレベルアップして様々な能力を獲得していく。成長如何によっては使えるやも知れない。
例えば今のところ召喚回数が多いグリフィンは、イクサと戦闘をこなす間に親密度が上がっただけでなく、いつの間にかイクサを乗せて空が飛べるようになっていた。
「お、さんきゅ」
グリフィンとガルムがクマさんを食べ終えたのか、こぶし大の赤く輝く魔石を持ってきてくれる。今日はもう暫く日が暗くなるまではこの構成で経験値稼ぎをして、彼らと自分のレベルを上げておきたい。できれば、ウォータエレメンタルがもう少し使える状態になってくれればと思っていた。グリフィンの首筋を撫でて労ると、ガルムとウォータエレメンタルにうなずき返し、再び森に向かう。
その後、イクサたちは猿犬とクマさんを二頭ずつ相手にして、難なく敵を下した。廃城に戻ってきたがそうそう変化があるわけでもなく、そのことにホッとしてイクサは礼拝堂で一夜を過ごした。翌朝、アリバイ作りのための薬草採取のクエストの依頼をこなすため、街に戻る前に規定の倍の薬草を確保する。グリフィンたちの嗅覚はニキロ先の生ゴミの選別さえやってのける。薬草を探すなんてことは朝飯前だ。




