story 15 隊商の護衛 その二
この辺りまで来ると整備されていた街道も轍の後をなぞるような雑草だらけの林道とさして変わらない。もし、野盗がやってくるなら街から十分離れた、ここからが絶好のポイントだろう。そう思っていると、隊商の馬車の前方を走るヒューたち前衛のソードマンたちが乗り込んだ馬車が停止した。早速、お客さんがやってきたようだ。
見ればウィザードがソーサラースキルのメッセージにて前方の馬車にいる仲間に連絡を取っている。パーティメンバーに通信できるスキルだ。
「襲撃だ! 我々は中央の馬車を守りつつ、防戦だ。突出するなよッ」
前方の馬車から声が上がり、襲撃を宣言すると、中央の馬車がスピードを落とす。それに倣って後方の馬車も停める。どうやら迎え撃つようだ。
中央の馬車の前に先頭の馬車から降りてきた前衛たちがそれぞれ得物を抜いて姿を表した野盗に対峙する。
向こうはあまり統制が取れた動きをしておらず、騎馬も馬から降りて背中に背負っていた長剣を構えて大声を上げて走ってくる。
イクサたちのいる馬車でウィザードがすっくと立ち上がるといきなり魔法の呪文を唱え始めたのでイクサはびっくりした。しかし、詠唱を聞いていても何が出てくるのかはわからない。
立ち上がり、ここが見せ場と呪文を唱え始めたウィザードと対称的にヒーラーはのんびりしたものだ。まあヒーラーの出番は負傷者が出てからだからそれも当然といえば当然だ。
イクサのように強化や弱体といった魔法を持っているわけではないのだ。今回はイクサは出しゃばらずに大手クランの仕事ぶりを拝見しようと様子を見ることに決めていた。
「魔術の深淵よ、根元奇跡の源マナより変じて炎の刃とならん!【デ・フラノ】」
ウィザードの呪文が放たれると彼の構えた杖の少し先からブオッ、と炎の塊が出現し、そこからボッボッボッと連続で火の玉が三つ撃ち出されていく。
だが、どうやら敵を完全に目標としたのではないらしく、馬車のまわりで剣をふるって野盗たちの足を止めていた前衛は、火の玉が飛んで来ると全員、相対していた敵と距離を取た。
そしてそこに三つの火の玉が飛び込んでくると一人の野盗の胸元に命中した途端、ゴウッ、と激しく燃え盛り、ギャアアと悲鳴を上げて火の玉が当たった野盗は倒れてバタバタと暴れていたがすぐに大人しくなる。
肉の焼ける匂いがしてどうやら絶命したらしい。あいにく他の二発は野盗に命中すること無く、彼らの足元に落ちて激しく燃える。しかし、野党たちは怯んだ様子もなく、決死の目つきでクランの冒険者たちに切りかかってくる。
ウィザードは再び呪文を詠唱しようとしたがクランの戦士が大きく手を振り、それを静止させると不貞腐れたようにウィザードは座り込んでしまった。
しばらく剣戟の音が響き、野盗たちを三人ほど仕留めた所でピィーッという甲高い笛の音がして生き残りの野盗たちは馬に乗って去っていく。
そこまで来てやっとクラン所属のヒーラーが起き出してきた。イクサも手伝おうとするが身振りで止められたので無理強いすること無く、仕事ぶりを拝見することにした。
ヒーラーは負傷者に近づくとウィザードと同じように呪文を唱え始めた。
「大地に満ちる命の源流よ、奇蹟となりて彼の者の傷を癒せ【ラ・ヒール】」
ウィザード同様に呪文の最後は何か物々しい台詞付きで魔法を形にする。ヒーラーの手からジワジワと青い炎のような輝きが放たれると、怪我人の負傷部位を包み込み、傷を癒やしていく。
ヒール系の上位魔法であるラ系は全体魔法なので、前衛たち全員に効果が及ぶ。しかし、ヒーラーが上位とは言え、一つの回復魔法を放っただけでもだいぶ負担が大きかったようで、額に汗を掻いている。
それを見守っていた仲間たちも治癒による回復がジワジワと進むのを見てオーッ、と歓声を上げている。
(うーむ、ひょっとしたらやっちまったかもしれないな)
イクサは今見た魔法行使の現場を反芻し、彼がチュートリアルと言うか冒険者講習で回復魔法や弱体魔法を放った場面と頭のなかで比べると、全く何もかもが違っていた。
イクサの場合、長ったらしい呪文を唱えること無く「ヒール」と言えば回復できるし、一発放ったところで倦怠感などは感じずに連発できる。
ヒューたち、彼らのクラン銀の獅子に入らなかったことは当初、後ろ髪を引かれていたが結局は良かったのかもしれない。一緒に行動していたらきっとイクサの特異性がもっと目立っていたはずだ。
(しかし偽装するにもあの恥ずかしいセリフ言わないと駄目なのかな。ま、まあ自衛のためには仕方ないよな)
面倒だと思いながらイクサはさっきのヒーラーの呪文を思い出していた。
それから程なくして馬車は出発した。どうやらもう野盗の襲撃はなかった。
馬車の一行はそこから一時間ほど進んだ所で途中の村に到着する。前後の馬車は入り口から入ったところに停められ、護衛対象だった隊商は馬車ごと奥まで入り、降りた商人の部下が荷を解いていく。
護衛だったクラン銀の獅子のメンバーの冒険者たちは宿にされた空き家をベースにして外に出た部分で野営の準備をしていく。
彼らはイクサに声をかけてくれたヒューを含めて前衛が六人とウィザードとヒーラーで八人、イクサを含めても九人だ。空き家には全員を収容できないので空き家の前の広場にマントを敷いて起こした火の前で寝るらしい。
キャスターが優先で空き家を使い、イクサは何してないので焚かれた火の前で座り込んだ。そこにヒューがやってきた。
「よう、どうだった?うちのキャスターの活躍を見たか」
「え、ええ。勉強になりました」
「だろう? 俺らのクランに入らなくてもお前のためになればいいと思ってるよ」
想定したのとは別の意味での勉強には確かになった。最初にパーティを組んだ研修クエストの際にギルドの指導員ビリーの前で殆ど無詠唱の魔法行使と連発を見せてしまった。ことによるとすべてバレてしまったかもしれない。
しかしヒューは先行投資とでも思っているのだろうか、イクサに対して屈託なく接してくれるので逆に申し訳なくなってしまう。が、それとクランに参入するかどうかはまた別の話だ。いづれまた別の形でこの借りは返そう。




