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story 13 荷役の仕事

 取り敢えずクランの勧誘は振り切った。しかし、銀の獅子のソードマン、ヒューはもしかしたらまたイクサに声をかけてくるかもしれない。ビリーも言っていたように、有能な冒険者に声をかけるのは不思議でも何でもないらしい。

 銀の獅子のクランの二人組はイクサの意思を汲んで頷いて去ったが、いずれ決断を迫られるだろうとイクサも理解していた。此処でやっていく限り、ダンジョンのこともあり、ソロはあり得ないのだから。


 勧誘のあった日はそのまま寮に直行し、バタンキューとベッドにダイブして翌朝まで目を覚まさなかった。

 彼にとっては初めて見る生の有名クランのメジャー頂上クラスの冒険者で、ヒューもあの黒髪美女のアンヌも眩しかった。二人のクランの話をしているときの自信に溢れた表情が目に焼き付いている。

 ともかくイクサとしては召喚師の道を諦めていないのだから仕方がないと割り切るしか無かった。まだまだ初めて尽くしで色々とストレスの貯まることも多いが、グリフィンのモフモフがあれば乗り切れるような気がした。


 次の依頼を探すためにイクサは冒険者ギルドにやってくる。何故か受付嬢の視線が厳しい。ソロでレベルを上げたいイクサはルーキーに似合いの仕事はないか、依頼掲示板の中から荷役の仕事を見つけ、受付に持っていった。

 受付嬢は銀の獅子のクラン加入誘いを蹴ったイクサにため息混じりに依頼の説明をする。


「勿体無いですねえ。有名どころが向こうから声をかけてくれるなんてヒーラーでもない限りありえないんですから」


 そう言いながらもテキパキと依頼の資料と冒険者に渡す情報を整理していく。一応、彼女もギルドメンバーなので勧誘の件に関しては口止めされているはずなのだが、わざと周りに聞こえるように言っている節がある。

 それをイクサは冷や汗まじりの追従笑いで誤魔化すしかない。受付嬢の言ってることはヒーラーとして身を立てていくなら正しいのだから。

 受付嬢はイクサに依頼の受任状を渡すとすぐにもう用はないというふうに視線で追い払った。


「ハハハ、い、行ってきまーす」


 扱いが酷いなと思いながら、追い立てられるようにギルドをあとにしたイクサは、依頼を受けて渡された受任状を読む。そこには依頼の内容とその完遂条件、達成したときの最低報酬、禁止事項とか、どこのギルドが仲介したとかその責任者とか、こと細かく書いてあり、なかなか面白かった。


 この仕事はほぼ毎日発注されており、最低報酬はさすが肉体労働ということもあって5シル。あくまで最低なので、この仕事に慣れている荷役の労働者は6から7シルは貰える。

 1シルあれば平宿一泊飯付きで洗い桶付きなのでまあ妥当といったところだろうか。前回のルーキー研修が狼の毛皮の均等分配を入れて3シルなのでルーキーの仕事としては微妙なところだ。

 だが、ルーキーにはメジャークラスのような派手ないかにも冒険者らしい仕事、それこそ護衛や討伐と言った実入りのいい仕事は回ってこない。

 荷役のような地味な、何故冒険者になったんだろうと一人部屋で自問するような仕事しか回されてこないのだ。そうした地味な仕事も実は意味があって、街の住人と顔つなぎをするために必要なのだ。メジャーになったとて街の住人との縁は切れないし、むしろそうした顔つなぎがあってこそ、大きな仕事に巡り合う可能性も広がるのだ。

 メジャークラスの冒険者もそうやって地味な仕事をこなして、昇級したのだ。だが、ルーキーの中にはそういった事実を認識できない者もいる。そういう者から見ればイクサのように上位メジャークラスのクランから声をかけられて無視してしまうような輩は鬱陶しいのかもしれない。


 そうこうしていると仕事の依頼主のところについてしまった。場所はイクサもよく利用する街のゲート近くの広場の一角だ。ここはひっきりなしに馬車が入り口については荷を下ろしていく。

 イクサは力仕事はどちらかと言えば不得手だ。地球にいた時にアルバイトの経験もあるが、せいぜいコンビニのカウンターがいいところだ。さすがに不安になってきた。ともかく受けた以上、文句は言わずに達成、不達成にかかわらずやってみなくては。


 入り口で立っている男に声をかけて受任状を見せる。


「ほお~。あんちゃんがこの仕事すんのかい?見た感じ肉体仕事には向いてない気がするがなあ」

「と、ともかくやらせてください。駄目なら駄目でそう評価つけて構いませんから」

「ふむ。そこまで言うならやって貰おうか。仕事は単純だ。あんちゃんも街のゲートから入ってくる馬車がここに荷降ろししているのは見たことあるだろう。それをあの奥にいる倉庫の引受人のところまで運ぶ。な、簡単だろ?」


 現場監督は荷降ろし場に横付けする馬車から大量に降ろされてくる梱包された荷を指差し、それから荷役場の奥に開いた倉庫の前に立っているいかにも筋肉マッチョといった上半身裸の青年に手を振った。マッチョがウインクを返してきてイクサはゾクッ、と危険な予感に身震いがした。


「ま、無理だと思ったら諦めたほうが身のためだぜ。この仕事、腰が逝っちゃうやつが多いからな」

「は、はい」


 イクサの上から下まで見て監督は溜息を吐くと、どれほど役に立つかどうか不安を覚えたらしいが、仕事を受けた以上はやって貰うしかない。イクサは荷捌き人が大分類した荷を奥の倉庫まで運ぶ仕事を請け負った。


(よ、ようし、取り敢えずこの目の前にあるやつ運んでみるか)


 手近の荷物を持ち上げようとしてヤバイと冷や汗をかく。持ち上がらないばかりか腰にヤバイ電流が走ったのだ。だいたいこう言う仕事の場合、荷の持ち上げ方や運び方を間違えると腰が逝く。荷を離して腰に手を当てるが平気みたいだ。まさか最初の一つから駄目だったりしたら笑いものにされかねない。

 その仕事場にはイクサの他にも三人ほどギルドからの冒険者らしきガッチリとした体つきの男たちがいたが、彼らもニヤニヤとイクサの細い肩を見ていつまで保つかと野卑な笑いを浮かべていた。

 それにムッとした顔をしてイクサも今度は腰の入れようを考えて荷を持ち上げる。かなり危ない感じだったがどうにか移動し終えた。かなり重かったがなんとか一つ目を倉庫の入り口まで持っていき、そこの担当者に言われる通り入り口に積み上げる。


(う、ヤバイぞ、これは。この仕事舐めてたわ)


 正直、足は痺れるし手も痛いのでこっそり無詠唱でヒールをかける。自分で効き目を実感するいい機会だった。召魔がいると彼らのオートスキルで勝手に治されてしまうので、なにげに初体験だ。たしかに効き目はバッチリで手の擦り切れも腰や足の痛みも痺れも何もなかったかのように治ってしまった。


(あ、あれ? ヒールってこんな使い方していいのかな。でも効き目が凄いし、これならいける!)


 それでいて体力を使ったせいか、ステータスも微妙に成長しているようだ。明らかに詠唱に掛かる負担が経験されている。これは一石二鳥だ。ヒールも使うので魔法スキルの成長も見込める。

 そんなことを繰り返ししていたら荷の持ち方も慣れてきたもので最初は小馬鹿にしていた同業者も感心したようにイクサを見ていた。

 それはそうだろう。

 ほんの少し前は一つの荷を持ち上げては苦痛に顔を歪めていたのが、いつのまにかテキパキと仕事を捗っているのだから。


「よう、やるじゃないか。正直最初は期待していなかったんだが」

「は、はい。なんかコツを掴んだみたいで」


 昼間、食事休憩を挟むとこの職場では食事は賄いで出してくれるらしい。賄いは肉が多めの炒め物で、屋台の串焼きを思い出させる。美味くて、体を動かすのと相乗効果なのか、もりもり掻き込んで食べていた。

 他の労働者もイクサの肩を叩きながら、まさかこんなにやるもんだとは思わなかったといい、イクサがヒーラーだと知るともっと驚いていた。


「あんたヒーラーだって? どうしてヒーラー様がこんな端役の仕事してるんだ。もっといい稼ぎがあるだろうに」

「ハハッ、そっすね……」


 いや、全くそのとおりだ。クランの勧誘を蹴らなければもっと楽な道があった。しかし、人生は何があるかわからない。今は自分の選択を信じて進んでいくしかない。


 午後の仕事は、午前中の仕事よりも効率良くなってヒールの使い所を覚えてからは成長も著しく、他の荷役労働者と変わらないか、ひょっとすると早いペースでこなしていた。とは言っても横付けされる馬車はひっきりなしに来るので幾ら運んでも荷は減る様子は無かったのだが。そして、その日は荷役の仕事を無事終えた。


「よう、あんちゃん。驚いたわ。まさかここまでやってくれるとは思ってなかったぜ。評価もバッチシ付けといたからよ。またよかったら来てくれや。あんちゃんなら大歓迎だぜ」


 他の労働者どころか現場監督も驚いて夕方に仕事を終える頃にはイクサにまた来いと太鼓判を押してくれて受任状にいい評価をつけてくれたようだ。


 その足でギルドに向かうと、受付嬢は受け取った受任状を見て驚いていた。イクサは見掛け、頼りなさそうで荷役の仕事をするには向いてなさそうだったのに現場監督からの評価はA(優秀)だったのだ。

 依頼の評価は上からS、A、B、Cとなっている。仕事を受けて依頼主のところに向かい、仕事を引き受けた時点でCは貰える。仕事を問題なくこなした場合にはB評価。普通のルーキー、力仕事も難なくこなせる前衛職の冒険者でもBが普通だ。

 仕事が満足に出来なかった場合には不可となり評価はつけて貰えないばかりか、違約金を払うことになる。逆にその仕事に革命を起こすほどの変化があった場合にはSが貰える。そんなことはめったにないことだが。


「意外ですね。あなたにこんな才能があったなんて」

「はは、俺も驚いてます」


 受付嬢は驚きながらもイクサに報酬を支払った。送り出すときは有名クランの勧誘を断ったイクサに呆れていたものだが、彼女の評価も上がったようだ。評価Aでは上乗せ報酬があり、当初、委任状で確認した報酬5シルのところを7シルも貰った。

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