2-1 始まりは神様から
新章だよー
電気を消して、カーテンを開けると暗い部屋が月明かりで明るくなる。
時間は夜中、ランペイジの皆は寝ているだろう。ナリスなんかは毎日九時には寝ていた。小さい体も相まって可愛い。
愛しのクレイスも、私のベッドで気持ち良さそうに寝ている。
寝返りで投げ出された手の甲に手を添え、行ってきます、と呟き私は窓から外へ飛び出す。
私の来ているメイド服には背中に隙間があり、そこから大きな竜の羽を生やします。龍神族なら誰でも出来る事だが。
この羽は揚力を得るだけじゃなく重力に反発するため簡単に空を飛べる。
今日は月もよく見える。夜行性の私にはいい日だ。いや、龍神族は睡眠を必要としないが。
輝く星を追いかけるようにゆっくりと空を舞う。月に照らされた大地は舞台となり、星空は背景となる。主役は私一人。
風の旋律、木の葉の合唱、川の指揮、星の観客…
私は歌う、私の気持ちを闇夜へ追い出す。
好きです愛してます、一緒に居ましょう、離れないで下さい。
クレイス、相思相愛でも私は罪人。この世で並ぶ者の居ない罪人。
その贖罪が終わるのはいつになるのか解りませんが待っていてください。
必ず、貴方を手に入れます。
おはよう。物好きな暇人読者諸君。
悪魔、改め「バースト」の名前を与えられた私だ。
私の姿が変わったのは、悪魔は多種族と契約を交わすと起きる生理現象のような物らしい。知らなかった。自分の癖や性格をバラされる位恥ずかしかった。幸い背中の入れ墨だけは残っているけど…でも……
ベッドからほど近くに用意されたドレッサーに今の私の、白い髪に真っ黒な四肢が対照的な…がぁぁぁああぁあ!!!
羞恥に耐えきれずにベッドから転げ落ちながらのたうち回ると、部屋の扉が開く音がする。
「おー、元気だな。」
「誰のせいだボケェ!!!絶対解約してやるからな!!」
「いいねぇ、服従のさせがいがある。」
悪魔の契約なんて古びれた風習を引っ張り出しただけでなく強制契約なんて鬼畜の所行を平然と行う悪魔より悪魔らしいクレセント=ハートネット=ゼロさんだ。憎たらしいにやついた顔で私の寝ていたベッドに寝転がる。
「お古ばっかだかしばらく我慢してくれ。来月に給料出すからそれで好きなの買ってくれや。」
「契約はもういいさ!部屋だって十分だ!だだ働きでも文句無い!だけどこの姿だけは戻せ!!」
「それは悪魔たるお前の特性だからな。」
「ぐっ…お前ならなんとかなるだろう?」
なんならこのまま土下座してもいい、非道の限りを尽くされようが殺されようが構わない。だがこの体は受け入れたくない。
「無理、生体の変化を望むなら遺伝子レベルで操作が必要になる。だが遺伝子への操作を実行するには生体活動を停止、一旦死んでもらわないといけない。」
クレイスは色をつけた魔力で空中に黒板で授業をするかのように説明を始める。なんか数字とか訳の分からない記号や単語が見えるが、まあそれはいい。大事なのは戻る手段があることだ。
「それでも構わない!!」
「まあ待て。しかしアークデーモン種に限らず悪魔種に分類される者は契約がある状態で死ぬと元の姿に戻る。契約を残したままな。」
「………マジで?」
「飲み込みが早いな、矛盾してるんだよ。死ななきゃ治せないが死ねば治る。」
そのことばは、なぜ と くかん 。
「朝から元気ね…」
「あら、おはようございます。朝食はどうします?」
二階でぎゃーぎゃー騒ぐバーストを恨めしそうにパジャマ姿のアリーシャがリビングに現れる。私が朝食を訪ねると「なんでもいいわ…」と言って机に突っ伏してしまう。低血圧なのだろうか。寝癖も酷く、綺麗な挑発があっちにこっちに好き放題遊んでいる。
好みがわからない以上、ここはオーソドックスな物で攻めてみよう。エッグベーコンとハッシュポテト、食パンにサラダで行きましょう。
「おはよう、何作ってるの?」
寝癖がついたまま、尚美さん…いえ、尚美がフライパンをのぞき込みます。やはり異国の人と考えてしまうとどうしてもかしこまってしまいます。これからは一緒に生活していくというのに。しかし同じ寝癖でも結構違うんですね。なんとなくその人の個性を感じます。
尚美と義輝は極東の島国、飛鳥の国の出身だそうで、私たちとは全く違う文化に少し新鮮味を感じて面白いです。例えば今着ている寝巻と呼ばれる服は、ひとつながりの布を帯と言われるベルトのようなもので縛り着ているようです。通気性がよくて快適なんだそうです、今度私に着せてくれるそうなので、その日がとても楽しみです。
「義輝は朝ごはんいらないから、私の分も作ってくれない。」
「ええ、ですが大丈夫なのですか?」
「義輝は毎朝鍛錬しててねー、朝に食べるとたまに戻しちゃうんだよ…」
遠い目をして虚空を見つめている。何かあったんだろうが、ここは聞かないほうがいいかな。
「そうですか…、でしたらお昼はたくさん食べてもらわないといけませんね。」
焼けた物から皿に盛りつけて、冷めないように保温の魔法をかけておきます。
「……さらっとやってるけど、それ上級魔術だよね。」
「じょーきゅーまじゅつ?」
「あー違ったか…、私の国じゃあ下級、上級、超級、血系の四種類で魔法を分類してるから、その癖でね。で、その魔法はー…、そうそう二次魔法だよね。」
「まだ時ではないので。」
頭に?マークが浮かぶのが見えるが、本当にその時ではないんです。
トレイに人数分の食事を載せて、不思議そうに見つめる視線を無視します。もうじき話すことになるでしょうから、その時までしばしお待ちを。
「……まあ、この化け物たちの中だったら当たり前か。」
テーブルに突っ伏しているアリーシャの目の前に配膳を始めるとのそのそと眠たそうな目をしながら手伝い始める。
とりあえずアリーシャと尚美は今食事中、クレイスとバーストはまだ言い合っているみたい。義輝は食べないから…あとは、ナリス、ミリアの二人だけですね。
「おっ、もう朝ごはん出来てるー!」
廊下の奥から大きな声が聞こえた瞬間、扉が勢いよく開いて、私が視認できないスピードで椅子に座った。そのままいっきに掻き込むのかと思ったら、姿勢よく座りなおしておしとやかに食事を始めた。
「……ん?何かついてる?」
「いや、意外だなって…」
寝癖は無く、服も昨日見たものと全く同じですがしわも見られない。ほのかに香水の匂いもします。
(隣の貴族の方よりきれいに見えます。)(それ言ったら怒るんじゃない?)
おそらくこのまま生活していき、何度も驚き知ることになるんでしょう。
洗濯物も増えますし、料理のし甲斐があります。
ああ、早くこの罪を消し去りたい。
(……どこだここ?)
目を覚ませば見慣れない空間にありえない感触。私はこの世界に来てからベッドなんか見たこともないしましてや触れたこともない。
魔力で服が汚れないとはいえ慣れるまでは大変だった。今では木の枝の上やら河川敷だろうがドラム缶の中だろうが問題なく寝ることができる。
(きもひぃ~……木の葉ってこんなに気持ちよかったっけ……)
何がどうしてこうなったかなんてどうでもいいや、とにかく寝よう。この至福の時を堪能しよう。
ん?もしかしてこれは明晰夢か?
:夢を見ていることを自覚している夢のこと(大辞林、第三刷より)
そうだ、こんな至福があるわけない。これは夢だ。何をしようが勝手だ。
「いっやっっふー!!!!もふもふだふわふわだぬくぬくだぁ!!」
夢の中で寝てる場合じゃない。一秒でも、たとえこの刹那の瞬間だけであっても楽しまなければいけない。
布団を足で跳ね上げ、落ちてくるその至福の塊を両手で抱きしめ顔尾を埋める。私の体から出る熱を一心に受け止め優しく包み込んでくれる。ほのかに香る太陽の温かみは自然と体の中の緊張を溶かしていくようだ。腕だけででは味わいきれない。足で締め付けだき枕のようにしてまた堪能する。腕よりも強い力を何の抵抗もなく受け入れその柔らかさで包み込む。ベッドの上で右に左に転がり、上に乗られ乗り、今の幸せを再度理解する。
(ああ…!今ならなんだってできそうだ……!)
この布団だけではない。下のマットレスもいい。寝返りを打てばゆっくりと沈んでいく。体に負荷のかかる高反発なものでは無く適度に反発しされど柔らかく、程よい具合で私の体を支える。
ひとしきり楽しんだ後は再び布団を跳ね上げ、それを私がミノムシになるようにからめとる。
「おはようございます、ずいぶんと楽しんでいらっしゃいますね。」
ミノムシの究極ともいえる安心感に浸っていたところ、とたん現実に引き戻させられる。ああ、あと五時間は楽しみたかった。
「もうお昼ですよ。」
「……ん…」
なんか途端に眠くなってきた。このまま寝ればまたあの至福の世界に…
「もう…そんなミノムシみたいになって。」
……えっ?いっいや、寝相のせいだ。そうだそうだよな。
「安心してください、見ていたのは私だけです。」
見られていた…?
いや待てよということはこの至福の瞬間は現実の物!?なんだ心配して損した。
「最高じゃないか…」
「?とにかく起きてください。」
あれ?こいつ誰だっけ?
まーいいや、寝よ。
「……ドラグスアンヴェル」
「寝ぼけていたようだ、すまなかった。」
ハークが私にどんな魔法をかけたか知らないが、とにかく目が覚めた。頭が痛いのも気のせいだろう。
ベッドから降りてみると頭の中で楽器が響いているような錯覚がする。
「昨日は酒は飲んでいないんだが…」
(やりすぎましたかね…)
さて、もう昼だって言っていたな。…この服のまま寝てたし、やっぱいいか。
…むぅ…まだ頭に響く。
「急な話ですが、外に来ていただいていいでしょうか。」
「外?別に構わんが。」
一瞬、ハークから尋常じゃない闘気を感じる。なるほど、な。
昨日に続いてまたお祭り騒ぎなのか。いいじゃないか。実に楽しそうだ。
いつの間にかハークは先に行ったか、なら私も続くとしよう。
ググッ
なんだこれ、ドアノブが回らないし押しても引いてもびくともしない。
魔力を足に集中させて蹴り飛ばしても、微動だにしない。
ハークはどうやって出たんだ。
ちっ、めんどくさい。吹き飛ばしてやる。
「迫撃砲…いや榴弾砲展開!」
この家ごと吹き飛ばしてやる!!
視界が白い世界に包まれ、衝撃と振動がやってくる。
ただ、それだけだ。
「穴が開いた…だけだと!?」
木製の扉に私がくぐれるような穴が開いただけだ。力加減も何もしていない。煙も何も出ていない。周囲の壁にヒビすら入っていない。
「こんなことが出来るのは……クレイスぐらいか。」
結界でも広げているんだろう。壊せることはわかったんだ。
いいだろう、なら正面からぶち破ってやる!
「天上、どうやら時を止められたようです。ラッパの効力が効きません。」
「…流石に思いどうりにさせてくれないわね。十六星、あなたはそのまま吹き続けなさい。他の者は私に続きなさい。」
天の階段を下り、打つべき闇を打ち滅ぼしに行きましょう。
「こんにちは、私たちはあなた達をランペイジと呼んでいます。」
「世界を壊す悪しき者どもよ。」
「滅びなさい。」
(天使の羽って食えるのかな?)(確かにどうなんだろうな?)(着替えるの大変そうね)(…あっ洗濯物干してませんでした。)(おなかすいた…)(おにぎりあるわよ。)(これ私死ぬわ。)




