1-5、合流
ちょっと短いよ。
急ごしらえのテントが並び、堅苦しい制服と腰に護身用の物を吊るしている人たちが右往左往と動いている。
森と町の間にある小さな平原にそれは広がり、知らないものが見れば祭りか何かと見間違うだろう。祭のような音頭はなく、戦時病院のような光景が広がっているが。
「これだけの人間があの森の中に………」
「警部!全員過去の失踪者ばかりです!それと、他国の言語を喋る者が居ます!」
「なんだと?!……くそっ、外務省と魔法省に連絡をしろ!!」
現場の責任者らしき人物が指揮を執り次から次へと挙げられる問題、情報に対して対処していく。
私はそれを、一番遠い木に腰かけて眺めていた。
(……後悔はしていない、謝罪の気持ちもない…)
私は与えられた食事を見つめながら、スープに移る変わり果てた自分の姿を見つめる。髪と肌は白く染まり四肢は影のような黒に染まっている。目の色は金色に輝く。
これが私の受ける罰なのか、だとしたら笑いものだ。
この現場にいる人間はほんの一部だ。木から人間に戻るには中の人間が寿命を迎えていないことが前提にある。寿命を迎えていなければ当時の姿で私の記憶をなくして復活する。が寿命を迎える、つまり人間として生活して老衰で死ぬまでの期間を、過ぎてしまえば木と完全に同化し復活は不可能となる。
つまり、私はたくさんの人間を殺したことになる。
別に人間だって何の気負いもなく殺した生物を食べているじゃないか。なぜ私が、私だけが罪と呼ばれる。この体の変化が罰というならなぜこんな生ぬるい事をする。
「……うまいな…」
スープを一匙口に運べば、その丁寧に作られたジャガイモと玉ねぎの調和に驚き思わずつぶやく。…口調まで変わっているのか、いや元に戻ったというところか。
「スープだけじゃ腹は満たされない、パンも食べるといい。」
一人の少女が似つかわしくない口調で私にパンを勧める。
わざわざこの忙しそうな中で一番遠くにいる私に持ってくるのか。物好きだな。
いや、けが人は居ないから食事によって一時的な平静を取り戻したのだろう。見たところ同じ言語を話す者同士が集まり食事をしている。
「……ありがとう。」
紙袋から渡されたパンは少し硬めで長さは20cmはありそうななかなか大きなものだ。
焦がしたバターの香りが鼻を刺激し、そう詳しくない私でもこのパンがおいしい物だと理解できる。それにほのかに温かい、まさか出来立てなのだろうか。
一口文をちぎり口に運ぶ。シンプルだからわかる丁寧な優しい味だ。
「……いい加減気づいたらどうだ?」
「?……あっ…お前…!!」
私にパンを持ってきたのは、あの赤い髪の化け物、ナリスだった。
「なんで「いろいろ言いたいのはわかる、私からも言いたいことがあるが少し黙れ。」
…ここはおとなしく従うほかないだろう。
なぜ姿の違う私を見つけることができたのか、なぜ私に食事を与えたのか、言いたいことは山ほどある。
「…早く全部食べろ。」
「あっああ……」
さっきまでおいしく思えたスープとパンはなぜか味を感じ取れなくなっている。ナリスが見つめているからだろうか。
数分で完食し、ナリスがスープ皿とスプーンを紙袋にしまう。
「口元にカスがついているぞ、そのままにしていろ。」
その小さな体を背伸びして、私の口元の汚れをハンカチでふき取る。そのハンカチは白い無地で、隅のほうに黄色い鎌が刺繍されていた。
「……私がこんなことをするのは変か?」
「ああ、逆に怖いね。」
精一杯の強がりだが、意味はないだろう。少し寂しそうに見えるのも気のせいだろう。
「よし……じゃあついてこい。」
返事を待たずにナリスは森の中へ入っていく。
気は進まないがついていくしかないだろう。
木の根が階段のようにひしめく森の中を何の迷いもなく進んでいく。私はこの森に張り巡らせた人払いもすでに解かれているんだろう。
「お前、名前は?」
「無い。魔界では貴族か相応の実力者にしか名前を持つことができない。」
「なら今日がお前の誕生日だ。」
森が開けて、日の光が差す空間が現れる。ここは歩いた距離から考えるに、私が果樹園を作っていた場所だろう。
「ん、思っていたより早いじゃん。」
「あれが悪魔?何で肌が白いのよ。」
「お待ちしていましたよ。」
「あーっ、可愛い!すごい可愛い!!」
「ナリス、もういいの?」
「…私だけ状況が把握できてないんですけど。」
そこには多種多様な様相の六人が立っていた。中には忍者やクレイスも居る。
変な奴も居るが、共通しているのが全員がクレイスやナリスと同等の実力者であることが感じ取れる。
「話はまとまったのか?」
「……この八人で個営小隊を作ることになった。」
っ!?
魔界の住人は昔は現世によく出かけていた。それは人間が貧弱でありながら美味だからだ。(内臓は除く。)しかし人間の手によりゲートが開くことは無くなり、自らこじ開けて現世に行けばすでに人間は武器を手に入れていた。魔法という武器を。
それに加え、個々では劣る力を合わせることにより強大な力を持つ者を倒せるようになっていった。それが個営小隊だ。
誰も管理せず、互いの監視の目で平静と連携を保つそれに我々は苦しめられ、現世への生還率は一時期5%を下回っていたほどにだ。
私がこうして現世に来るのには実はかなり下調べをした。過去2000年のゲートの発生個所、現世の魔界にある最新の情報、人間の魔法の発達具合、科学の知識、なにより重要なのは現世の地形図だ。豊かな土地なら人が集まり、個営小隊も集まる。そうなれば行動をすることができない。
個営小隊の特徴として、連携の高さと弱点の補完。そもそもそれなりに戦える奴が集まるからたちが悪い。
「私は決定に従おう。」
「よし、ではそこの悪魔ちゃんに名前を付けましょうね。」
「私をどうしたいんだ…」
「俺の店の従業員にしてやる。てかそのつもりで強制契約したんだしな。」
「」
あれ?
なんで私は太陽を見ているんだ?
…あ………れ… … ?
「…容量オーバーだな。」
彼女は突然倒れた。
意外と脳というのは落ちやすい物らしいが、本当みたいだ。
「各々の目的を聞きたい。」
ん、ナリスは居なかったから知らないのか。
「私はおいしいスイーツをミリアと食べれるからね。」
「我…じゃない、私が本気で喧嘩できるから!」
「野宿からの脱却です。」
「右に同じ。」
「おいしく食べてくれる人が増えるのは作り甲斐があります。」
「家事のやりがいが出るからな。」
ナリスはため息をわざとらしくつく。
あいつの目的も対外だと思うんだがなあ。
「じゃあ、命名は後にするとして…」
尚美がその手に装飾された脇差を突き出す。それを合図にそれぞれが構える。
ナリスは銃剣を、アリーシャは漆黒の槍を、ハークは竜夜を模したチャクラムを、ミリアは灰色の獣の腕を、義輝は質素な大太刀を、私は光を伴うこの腕を。
円陣を作るようにそれぞれが武器を構えて、歯を見せ笑う。
「しばらくの間、よろしくな!」
……見ていて面白い子たちだけど、結成の儀式に殴り合いって無いでしょ。あの忍者の子なんて最初の衝撃で気絶してるし。
まあそれは個人個人の自由だから言及しないでおこうかしら。
それより、あの戦力はまずいわね。
神殺しに、鬼の頭領、龍神族、異世界の覇者、純潔の真祖と獣王、魔の始祖…
ああ面倒だ。それに汚らわしい者まで…
連携を取られる前につぶしてしましょう。
「天使長、ラッパを取りなさい。」
-アリーシャさん、インタビューお願いします。
「ん?何よ」
-農耕貴族なんですよね?「貴族」なんですよね?
「ええ、私は一応貴族よ。」
-この家どう見ても私の家と同じぐらいに見えるんですが。
「2LDKよ?二人暮らしには十二分じゃない。」
-貴族って…




