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個営小隊-ランペイジ  作者: カイガラ商店
二章 愛し合うことは罪なのでしょうか
11/12

2-6、円卓遊戯

何も言うまい

五人が部屋で対峙する。

静かな時間が流れていく。鳥のさえずりでも聞こえてきそうだ。

五人ともかなりの美貌の持ち主であり、小鳥のさえずりや川のせせらぎを流したとしても違和感は無いだろう。

だが彼女達を知る者は、皆一様に彼女達を化け物と呼ぶ。それはなぜか。

答えは簡単だ。自分の物差しでは測れない次元に居るからだ。

人は何に恐怖するか、それは未知の物であり超越した存在であり命の危機だ。知らない物、この世を嘲笑うかのような力。

では、彼女らは?

赤く耀く銃を持ち、黒い霧と魔力を身に纏い、滴る血を宙に浮かせ、肌の一部を鱗のようにし、四肢を獣のように変化させる。

静かな時間が過ぎていく。張りつめた糸が解れていく。

赤い銃の持ち主が、その銃口を大きな穴の開いた、本来の天井としての役割を無くした天井に向ける。

狂気?いや狂喜の笑みを浮かべ天井に銃を構える。


「お見合いはここまでだ。始めようじゃないか。」


爆音と共に凝縮された魔弾が撃ち出される。

炎が一瞬広がり消えるまでの間に、それぞれは駆け出す。

無防備なナリスめがけて飛びつこうとする。四肢で予測をさせない複雑な軌道で首筋を捉えようとする。

ミリアが牙を突き立てた、逆立つ荒々しい鱗に。

二人の間には無表情で獣を見つめる龍が割り込んでいた。獣の牙は龍の鱗を纏ったハークの腕に噛みつくが、そこから赤い血が出ることは無い。噛みつかれた腕を振り上げ強制的に体を起こし、そこを蹴り飛ばす。体が離れきる前に身をよじり、回転し龍の羽で激しく殴打する。吹き飛ばされ、睨みつけながら受け身を取るミリア。


「所詮は獣、ですね。…さでっ?!」


その返しの刃でナリスを狙うが、振り向く前に意識を揺らがせられる。長い銃身をもち銃底で殴り付け、ひるんだ隙に持ち替え銃弾を撃ち込む。貫通はしないが多少はダメージは入ったようだ。赤い血が宙に数滴散る。


「ちっ、堅すぎだろ。」


ひるんだハークに向かって剣を振り抜こうとするアリーシャだが、黒い霧に剣が当たると剣は消えた。そのまま黒い霧に包まれそうになるが突進で脱出する。その際肌が火傷のようにまだらに傷ついていた。

クレイスの魔力がこの世界の法則にしたがって形成されていく。両手の中で圧縮され空間を捻じ曲げながら。

そして部屋ごと圧縮された光の波で彼女達を吹き飛ばす。光の波に見えるが実際は割れた次元の境界が地震のように波打っているだけだ。地上で使っても山が消える程度の威力しかないが、吹き飛ばしにはもってこいだ。

ハークは予測していたようで防御していたが他はまともに喰らっていた。

光が晴れる前に連撃を試みたようだが、獣の恫喝が聞こえると一瞬、体が硬直する。思考だけが空回りするように体が動かず、光速を超えた闇の一撃をもろに喰らう。


「がっ…!」


腹を貫通した黒い剣が二人を繋ぎ止める。空中で衝突したクレイスの体は吹き飛ばされることなくその場にとどまる。


「火力馬鹿にはちょうどいいムチかしら?」


「……はっ!だったらてめえはスピード馬鹿か!?」


二人を繋ぎ止めるということは、機動力も封じられ、また必中の距離である。

アリーシャの胸に手を張り黒い霧で貫く。だがアリーシャも剣を横に薙ぎクレイスの腹を割る。

同時に蹴りを繰り出し相打ちに終わり互いに吹き飛ばされる。片や羽を広げ、片や宙に漂う粒々に乗る。

傷は既に癒えていた。互いに睨み合い、空気をも破壊する衝突を繰り返す。

下では静かな戦いが起きていた。

手を組み合い額を押し付け合う、単純な力比べだ。

二人とも野生の勘で、先に動けないことを悟っていた。

ナリスは銃を弄びながら二人を眺めている。しかしその銃に装填されていく物は、静かに鎌を研いでいた。

不死に近いが、死と隣り合わせの二人はソレを警戒していた。

自分たちですら見切ることの出来ない弾、それは不干渉の魔力で造られており、再生が可能かどうか分からない。また封印系統、束縛系統などの魔法がかかっていれば。

特にハークは危険性を把握していた。クレイスのシールドを削った程の力なのだから。なにより、目的が見えない。

いくら強くても思考は存在する。勘でも、疑問を抱くことはある。

取っ組み合ってしまったゆえに行動を制限されてしまったのだ。

だが、ナリスも動かない。

装填のスピードも自信があるが、この二人のスピードに間に合うわけが無い。不完全な弾では確実に弾かれる、それを先ほどの一撃で理解していた。

だからこの三つ巴はナリスには好都合だ。その間に対策を取れる。敗北の為の足掻きは嫌いだが、勝利の為の苦行なら大好物らしい。


(はて、どう動くやら。)


彼女は、笑っていた。

上空での衝突を繰り返す音が響くが、三人の間は静寂だ。

どちらが、どのように動くのかを楽しみながら眺めているナリスだが、警戒は解いていない。



「……ちっ、手伝いなさい。」


ついに静寂は投げ捨てられた。取っ組み合う二人は同時に互いを押し出し、最速で射線から離れる。全く予想のつかない複雑な軌道と、アリーシャほどでは無いが超速で飛び出す直線的な軌道。狙うなら、だが狙うのはミリアだ。


「まあ、そう来るわな。」


バックステップで距離を取りながら体を倒し、静かに照準を合わせる。

迷わず引き金を引き、平等な死神となった魔弾は認識する事も出来ないまま、肩ごと右腕を吹き飛ばした。

だが、撃った直後ナリスの背後には口に赤い破壊の力を蓄えたハークがおり、レーザーを薙ぎ払うように小さな背中に傷を走らせる。


「ぐぁっ!(なる程…ハークは破壊の力か…)」


「……本気を出してない相手に負けるとでも?」


ナリスの体に鎖が巻き付き、簀巻きにされた状態で倒れ込む。

その顔は不満こそあれど、最初にクレイスに負けたときと比べてかなり温和だった。


「目的は達成したからな、だから私は傍観者になるのさ。」


「何を言って……とっ!」


「グラァアあァぁっ!!」


ナリスは抵抗するそぶりを見せるどころか、魔力を固めて枕を作りその場で寝始めた。


「制限時間はあと十分弱だぞー…」


呆れていたハークの首を狙い飛びついてくる。

吹き飛ばされた腕はまだ再生していないが、勢いは増している。


「ーっ!」


文字で表すことの出来ない独特な咆哮をした後、今度は大きく振りかぶり体を引き裂くつもりらしい。何の事の無いただの引っ掻きだが、体が動かない。

なら、と、ハークは呼ぶ。地面から無数の鎖が飛び出す。獣を捕らえんと襲いかかるも大半が切られひしゃげ弾かれる。

だがその隙に体は動くようになり、上空へと飛び出す。

上では、再生と破壊の繰り返しを続ける二人がおり、不意打ちでアリーシャの体を拘束する。彼女たちなら何ら障害にならない程度の鎖だが、その刹那に大量の魔法を多重にかけた拳で殴りつける。衝撃だけで体の一部がもげ意識を刈り取る。


「お楽しみ中だったかな?」「妙な技を使いますね、最初クレイスがかけていた加護でも防げませんでした。」


「そうか…何で形が残ってるかな。」


「あの二人、まだまだ伸びしろがありますね。今後が楽しみです。」


殴られた体は地面に激突し、受け止めようとしたミリアごと大きなクレーターを作っていた。


「遊ぶのもいいですけど、適度にお願いしますよ。」


「はーい……」


クレイスとハークにとってはまだ本気では無い。

防御を無視しているクレイスはともかく、ハークにダメージを入れたのはナリスのみだ。

それも今は、脱落している。

あっけない物だ。


「さてと、どうする?」


「終わらせてきます。」


「あいつには話があるから少しは生かしておけよ。」


この短い頂上決戦は、ハークとクレイスに軍配が上がった。



「あけっないものね。もう終わったわ。」


(ですが、二人はまだ成長し始めたばかり。真理を知っている者相手にはよくやった方でしょう。)


「まあね、神様も何事かびっくりしてたんじゃない?」


(ええ、それはもう。私に止めを刺すことも忘れてましたね。)


「私達の仕事は終わりよ。何やら「お話」があるみたいだからね。」


(……では、回収してくれませんか?)


「面倒くさいから、一瞬だけ封印を解いておくわ。」


(はいはい……ではバーストの所で。)


時間にして約二十秒、相当な距離があるここでも衝撃で体が痛んだ。

決着が付いたなら、こうして負けた振りも必要ないだろう。むしろこのままここに居るのは危険だ。

一宿一飯の恩ぐらいは返せただろうし、気がつかれる前に退散するとしよう。


「…ら…ラグナロク……様…」


「………四番ですか、まだ生きていたのですね。」


フラフラと、今にも墜ちそうな拙い飛行で天使の残党が飛んできた。だが、あの天使の中に何か別の者を感じる。

ふむ、様子を見よう。


「あの衝撃の中よくここまで来ましたね。」


「……ありがとう…ございます。」


「この鬼を今から支配します。あなたも手伝いなさい。妙な何かが邪魔でしてね。」


む、流石に認識はされているか。まあ、何とでもなるか。むしろ操られるとはどんな感覚なのか体験しておきたい。いや、操られた振りをして手合わせして貰おうかな。

二人は私の体を囲んで、頭に手を置いた。以外と柔らかい手だ。


「一つ、お聞かせください。」


「いいわ、何かしら?」


「我々天使は、……捨て駒ですか?」


おや、何やら険悪な雰囲気になってきたぞ。天使も絶対の忠誠を誓っている訳では無いみたいだ。


「……捨て駒なんかじゃ無いわ。」


「なら、なぜ第一天使を……?」


尚美から聞いたが、捨て駒同然に扱っていたらしい。


「捨て駒じゃあない、そこら辺の塵と同じよ。」


「あなたは…」


「だって、あなた以外はみんなそこら辺のゴミに力を注いだだけよ。何か変かしら。」


「……解りました。あなたは…神に相応しくない。」


「うわっと?!」


胸の矢が抜かれ、体が引き起こされる。そして傷を癒す魔法の霧が体を包む。

こいつは、そうかあの感じるものはそうゆうことか。


「私は、四柱の一人!ミカエルです!あなたが作った人形でも無く!この星の真の神に仕えし者です!私の、天使として最後の命、あなたを地獄に送ります!!外なる神性よ!!」


「…なる程。」


他の天使からは感じなかった氣を、この子は持っている。生命の証である魂から滲み出す物だが、人工的な生命体からは出ることは無い。今まで見てきた天使達も人工的な物。だがどうしてこの子だけが魂を持っている?なぜ神様と敵対している?


「申し訳ありません。私の私怨に巻き込んでしまい。」


私怨、か。さっきの台詞から考えるに、目の前のこいつは神様では無くて本物は殺されたか追放されたか。いずれにせよ神としての座を奪われたと考えていいだろう。で、このこは生き残りなわけか。


「いいよいいよ。でもね、君があいつを殺すことは出来ないですよ。」


「それでも……わが神を守るべき私がこうして生きていることが…」


「いやいや、そうじゃなくてね。来るよ。」


海で漁をしようとしても、台風が近づいていたら逃げるしか無い。今回は私が台風の目になって守ってあげよう。

復讐は悪だと思わない。私が復讐鬼だった事もあるから余計にそう思うのかも知れない。

死にざま位なら見させてあげよう。


「黒衣、沼」


どこからともかく、クレイスが神様の目の前に現れる具体的には私達と神様の間に割り込む。

神様の影から飛び出したまま、そのままとびかかる。


「っ?!おま─」


「記憶、写させて貰うぜ。」


幾何学模様をそのまま立体にしたような槍で神様の胴を薙ぐ。ただ傷跡は残っていないが、何かしらしたのだろう。

さらに、槍を地面に突き立て手を構える。前方に波紋のように火の波が襲っていった。いや、波と言うより壁だ。

目眩ましか何かだろう。


「前はおまえが守れ、後ろから掩護してやる。」


この子は魂を持っているが、今から起きることの前には無力だろう。


「……っ?!なぜあなたがここに!?」


「はいはいはい!話は後だ!」


例えるなら、これが死というものだろう。ギロチンにかけられ今まさに刃が落ちてくるような、不快を通り越して気持ち悪くなる感覚だ。

怒りの塊が威圧しながらやってくる。


「あれは…」


「本気出しちゃてるのさ、流れ弾でも死ねるぜ。」


瞬間的な移動で後ろに回ったクレイスは、額に汗をかきながら私と天使を防壁で包む。とても硬く複雑な物だが、クレイスはさらに上乗せしていく。


「……なんかやばそうですね…動かないでくださいよ。」


「はっはい……」


さて、一応構えているが……受け流せる気がしない。こうして構えてみるだけで今のままでは抵抗する事も出来そうに無い。

尚美が封印を解除しようとしないのを鑑みると、なんとかなるのだろうか。


「龍神族が……龍神族がっ…!!」


神様は光の槍を生み出し叫ぶが、詰め寄ったハークに膝頭を正面から蹴られて前向きに転倒する。

倒れた体に跨がり、神様の腕を取る。


「この程度の成長で、私とクレイスの時間を邪魔したのですか?」


両肩を肩を足で踏み、神様をソファのようにして座り込み、肩越しに睨む目を嘲笑うかのように神様の指を噛む。

事情や、現場の空気を知らない者ならさぞかし百合色万歳な空間に見えるだろう。実際は動作の一つ一つが即死級の攻撃なんじゃ無いかとヒヤヒヤして、ロシアンルーレットの引き金を引き続けるような緊迫静寂な空間だ。


「あー、見ない方がいいぞ。」


噛まれた指に白い歯が沈み込み赤い線が延び始めた時、神様の様子が変化する。

睨みつける視線が虚空を見つめ、汗が滝のように流れ始める。

口をパクパクと動かしているが声は出ず、まな板の上で裁かれている途中の魚みたいだ。


「…えぐっ…」


「もしかしてあれって…」


まな板の上の魚、もしかしたらその通りだろう。

指の傷口から、内部を破壊して回っているとしたら?そんなことができるのかと思うが、ハークにはクレイスが居る。この魔法技術の塊ならこの程度のこと朝飯程度のだろうし、その相方のハークに多少教授しているだろう。


「なまじ力を持つから余計に苦しむのさ…、大動脈解離、脳梗塞、心筋梗塞。魔法医学なら、エーテル流入、回路不全、変造症。まあ経験したことのある痛みを何倍にして恒久的に味合わせるつもりなんだろ。」


ただ殺すのでは無く、苦しめ殺さず、生かし続ける……

本物の怒り、か。

抑えていた腕が血をまき散らしながら破裂して、白い骨をあらわにする。その肉片と血が防壁に当たり、天使が悲鳴を上げる。だが、その傷はみるみる治っていく。

顔についた返り血を気にすること無く舐め続け、苦痛を与え続ける。終わらない地獄だ。


「…あれ、これ防壁いらないんじゃ無い?」


「……そうだな。」


だが、防壁が消えたことにより惨状が鮮明になり、文字では表せないグロテクスな現場から私と天使は城に歩いて行った。

クレイスは、何とも言えない顔でそれを見ていた。


低体温で寝込むって、一般的なのかね

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