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妹の婚約者がどう見ても被害者なので、逃げ道だけ教えておきました  作者: ちょこだいふく


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9.エドガーの決意

数日後、エドガー宛に一通の封筒が届いた。


差出人は王都税務局。


胸がざわつく。

震える手で封を切って中から一枚の書類を取り出した。


『採用通知』


その文字を見つけた瞬間、頭が真っ白になった。


「……」


もう一度読む。

さらにもう一度。

三度みても文字は変わらない。


夢ではなかった。


『採用』


その文字は、何度読み返してもそこにあった。

自然と笑みがこぼれた…次の瞬間、背筋がスッと冷えた。


——怖い。


嬉しいけれど怖い。

怖いけれど嬉しい。

感情が入り混じっていた。


ここから、出られるんだ。

本当に伯爵家から、この婚約から抜け出して、私は私の人生を…私は選べてしまうんだ。


胸が沸き立つと同時に、どうしようもなく怖くなった。今までは、「選べない」と思っていた。

だから耐えられた。

でも今は違う。


選べる。

本当に、選べてしまう。


「……」


採用通知を胸元へ引き寄せるとゆっくり息を吐いた。


「父上に話そう。」



———


実家へ帰ると、父は少し驚いた顔をした。


「珍しいな。」


「急に帰ってきて。」


「…少し、お話がありまして。」


父は応接室を勧める。

椅子に座るとエドガーは静かに採用通知を差し出した。父は黙って最後まで目を通す。

そして静かに机へ置いた。


「……そうか。」


「それで?」


「婚約を辞退したいと考えています。」


長い沈黙のあと、父は腕を組んだ。


「伯爵家には話したのか。」


「いえ。」


「先にこちらへ?」


「はい。」


父は深く息を吐いた。


「波風は立つぞ。」


「はい。」


「苦労もする。」


「はい。」


「今より楽になる保証もない。」


「はい。」


父は苦笑した。


「……そうか。」


再び沈黙が落ちる。

父はじっとエドガーを見つめた。

その目が、少しだけ驚いたように細くなる。


「お前。」


「はい。」


「そんな顔をするようになったんだな。」


「……え?」


「初めて見る。」


父は静かに笑った。


「覚悟を決めた男の顔だ。」


エドガーは言葉を失った。


「昔のお前なら。」


父は肩を竦める。


「“どうしたらいいでしょうか”と聞いてきた。」


「…………」


「だが今日は違う。」


採用通知を軽く叩く。


「もう決めてるんだろう?」


「……はい。」


父はゆっくり頷いた。


「なら、やってみろ。」


エドガーは目を見開いた。


「不貞を働いたわけでもない。」


「はい。」


「政治のための婚約でもない。」


「はい。」


「なら、自分の人生くらい、自分で決めてこい。」


胸の奥が熱くなる。

ずっと反対されるものだと思っていた。

責められるものだと思っていた。


けれど違った。


立ち上がり、一礼する。


「ありがとうございます。」


父は苦笑しながら手を振った。


「礼はいらん。」


玄関まで見送りに来た父が、不意に口を開く。


「エドガー。」


「はい。」


「もう無駄に謝るなよ。」


思わず足が止まる。


「謝る必要がある時だけ謝れ。」


振り返ると、父は照れくさそうに笑っていた。


「……はい。」


今度の返事は、不思議なくらい素直に口から出た。

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