サクヤ、馬を貰う
諸事情により更新がおそくなりました
翌朝、朝餉を済ませると宮司から面会依頼がきた。
「きちんと伝達してくれたようだな。」
「おはようございます。」
「態々すまぬな。昨夜、畏れ多くもヌシ様から御告げがあってな。」
「龍神の御山に登れとのことですね。」
「!何故わかったのだ!」
「昨夜お会いしたとき、直々に依頼を受けましたので。」
「なんと!ヌシ様が降臨されたというのか!どのような御姿であったか?」
「それは…、私からはちょっと憚られるので言えませんが…。」
「そ、そうか…。しかし、何故余所者のサクヤ殿に降臨されたのか…。」
「恐らく此処に来るまでに解決した問題と同じ事柄が発生しているので、私なら解決できると思われたからだと思います。神様間では直に噂が広まるようですから。」
「…なんともはや…。わかった。御告げもあったことだ。早速行ってくれるか?」
「そのつもりです。」
「頼む。道案内に蒼衣と蒼士郎も付けよう。」
サクヤ達は装備を調えると、蒼衣の案内で御山に向かう。
「やはりサクヤ様は神様に愛されてらっしゃるのですね。まさかヌシ様が降臨されるとは…。」
「愛されているというより、便利屋として使われているような感覚ですけどね。」
「それでも凄いことに変わりはありませんよ。私など御姿どころか、お声も聞いたことがありません。」
「蒼衣殿が宮司になれば、お声は聞けるようになるでしょう。一方的な伝達ではありますが…。」
「こちらの声は聞こえないということですか?」
「それができればにゅーたい◯ですね。」
「?」
「気にしないで下さい。人の革新の話です。」
「人の革新ですか…。サクヤ様は既にそうなのでは?」
「真に受けなくていいです。世迷言です。勝手に言葉が降りてきただけです。」
「そうですか…。」
(おかしい…。私は昨日から何を言っているのだ?)
そうこうしているうちに御山の山頂手前に在る奥宮に到着した。
「あれだな。なんとも禍々しい邪気を放っている。」
「やはり器なのですね。」
「そこが難しいところでね。意図しているのかいないのか、どうにも掴みにくい。」
「意図ですか?」
「はい。御神域に呪物を持ち込むと御神域が汚染され、最悪神様が祟神になる恐れがあります。ここのヌシ様は力が強いので、この程度では何ともないと仰られていましたが、先日のような小さな御神域の神様はそうもいきません。そのようなことをして得をするのは鬼くらいのものですが、鬼は御神域に入ることができないので、呪物を持ち込むことは不可能です。」
「つまり、人間が持ち込んだと。」
「そうですね。ただ、人間がそのようなことをしても何の利もないでしょう。だから、意図したことなのか、偶々なのか、判断がつきにくいのです。ただ私は二度までは偶然と考えますが、3度目は作為と判断します。次があれば、本格的に調査しなければならないでしょうね。この件は将軍様にも報告しておきましょう。調査に協力して貰えるかもしれません。」
サクヤは前回同様、浄化薬に浸した布で呪物を覆い、下山を開始したが、サクヤは突然立ち止まると周囲を見る。
「どうかしましたか?」
「いや、誰かに見られていたような気がしたのですが…、気配が消えました。気のせいかもしれません。」
「そうですか。ここにはそうそう人が立ち入りませんから、気のせいだと思いますが。」
下山したサクヤは、御神域の外に呪物を持っていき、木の下に埋めて結界を張った。
(引っ掛かってくれるかな?)
「これでよいでしょう。」
「では一旦里に帰り昼餉にしましょう。午後からは短い時間ですが馬を見に行きませんか?」
「よいですね。お願いします。」
社で昼餉をとっていると宮司が現れた。
「サクヤ殿、もうお帰りか。」
「はい。呪物の処理は完了しました。」
「呪物?そのような物が奥宮に?」
「はい。あれ?ヌシ様から聞いてませんか?」
「いや、ヌシ様はサクヤ殿を奥宮に行かせろとのみ仰られた。呪物のことは聞いてない。」
「そうでしたか。誰かがお供え物の器に呪物を使ったようです。似たようなことが此処に来るまでにもありましたが、作為かどうかはまだ判断できません。」
「そのような物が…。ここ御山は基本入山禁止で、祭祀の時だけ入ることになっている。持ち込めるものも決まっているので、呪物など持ち込めば直にわかるはずなのだが…。」
「流石に祭祀の時に持ち込んだ訳ではないでしょう。誰かが入山禁止と知らず参拝したか…。」
「登山口には注連縄をして、入山禁止と書いてあるのだが…。」
「だとしたら、意図して持ち込んだ可能性が高いですね。登山口以外から入り込んだ可能性もありますが、悪意なく入り込んだとは考え難いですし。」
「そうだな。山兵の巡回を増やして警戒することにしよう。」
「そうしてください。ただこの社は他国からの参拝者も多いですから、御神域への持ち込みを防止するのは難しいでしょうね。」
「そうだな…。何か良い手がないか考えてみよう。」
そう言うと宮司は戻っていった。
「こちらが馬場です。」
「すごいですね。こんなに多くの馬がいるのを初めて見ました。」
サクヤ達は社から西に行った所にある牧場に来ていた。
「ここではおおよそ百頭の馬が飼育されています。殆どが兵馬として使われる馬です。」
「壮観ですね。」
「少し乗ってみますか?」
「よいのですか!」
「はい、曳き馬であれば誰でも乗馬を体感できますから。」
3頭ほど用意された馬に順番に乗っていく。
おかっかなびっくりの者もいれば、難なく乗ってみせるものもいる。因みにサクヤは後者だった。
「高くて見晴らしはいいですが、結構上下に揺れますね。騎馬での弓など想像もつかないです。」
「あれは相当の鍛錬がいりますからね。まずは移動手段として使えるよう、それからの鍛錬次第で騎馬兵として戦えるようになる感じです。」
「これは相当な鍛錬が必要そうです。やり甲斐があります。」
サクヤは久しぶりに手応えのある目標を見つけて楽しくなった。
「あちらに1頭でいる大きな馬は?」
「あぁ、あの子は気性が激しくて、まだ誰にも懐いていないのです。速くて体力もあるよい馬なのですが、まだ乗り手が決まっていません。」
「へぇ~。近づいても大丈夫でしょうか?」
「気を付けてくださいね。特に後ろ足の蹴りは強力ですから。」
「…気を付けます。」
サクヤはゆっくりと馬に近づく。
馬の方もすぐにサクヤに気付き警戒感を露わにする。
「大丈夫だ。危害を加えるわけではない。」
「一応これで機嫌をとってみますか?」
蒼衣はサクヤに根菜を持たせる。サクヤは貰った根菜に少しだけ御力を籠めた。
(機嫌が悪いのそのせいかな?)
サクヤが差し出した根菜を様子を見るように匂いを嗅いで、一口食べる。問題ないと判断すると一気に食べた。
「よし、いい子だ。すぐに良くなるぞ。」
「良くなる?何がですか?」
「左の後ろ足を少し痛めているようだ。他の馬と比べて歩き方に違和感がある。」
「そうでしたか。全然気が付きませんでした。」
「随分前からみたいので、人を乗せようとしなかったのはそのせいかもしれません。」
「そうなのですね。」
「どうだ?良くなったか?」
サクヤが顔を撫でると、素直に顔を差し出してきた。
「凄いです、サクヤ様。全然人に懐かなかったのに。今なら乗せてくれるかもしれませんよ。」
「乗ってみてよいか?」
サクヤは蒼衣にではなく、馬に尋ねた。馬はサクヤに身を寄せた。
「そうか。では少しだけ乗せてくれ。」
サクヤはふわっと馬の背に飛び乗った。
「サクヤ様、鞍も手綱もないですよ!」
「走るわけじゃない。乗せて貰っただけだから。」
サクヤを乗せた馬はゆっくりと歩く。
「優しいな、お前は。いつか其方と駆けてみたいものだ。」
馬場を一周りしたサクヤと馬は、元いた場所に戻ると止まり、サクヤは馬を降りた。
「ありがとう。楽しかったよ。」
サクヤは馬に微笑む。
「もしよろしければ、この馬をサクヤ様の馬としませんか?今回のお礼に馬を差し上げる予定でしたし、これ程懐いているなら、問題ないと思います。」
「宜しいのですか?」
「はい。是非名前も付けてあげて下さい。」
「名前…、松風!…いや、この名前は何故か付けてはいけない気がする…。」
「松風、よい名前ではないですか。」
「いや、いい名前のですが、絶対に付けちゃいけない気がするのです。」
「何故でしょうか?」
「わかりませんが、やめておきましょう。そうですね…。では、ゴルシ…いや、これもちょっと…。う〜ん、そうだな、龍神の里の馬だから、『龍馬』でどうだ!」
馬はサクヤを見つめると、少し間をおいて頷いた。
「よし!今日からお前は『龍馬』だ。」
「よい名だと思います。私は松風が良かったと思いますが…。」
蒼衣は惜しそうにしていたが、サクヤは自分の名付けに納得していた。




