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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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人の革新

おはようございます

 宴は微妙な雰囲気のまま始まった。

 なにせ主賓であるサクヤが完全にシラケている。宮司はまったく気に留めていないので、噛み合わないことこの上ない。


 そんな雰囲気なので、鬼防寮の者達も当然盛り上がりに欠け、和やかさや華やかは微塵もなかった。


 社側には蒼右衛門を除いた宮司一族と、頭達が並ぶ。

 赤犬社側は乾の一族であるサクヤと藤十郎が主賓席に座り、交流しやすいよう、頭達と鬼防寮の面々が交互にならんだ。

 若い女性である千代と伊都は、おじさんだらけの頭達に挟まれ辟易としていた。


 乾杯の後も大声で笑って飲んでいるのは頭達くらいで、赤犬社側は困惑を隠せないでいた。


 宮司に挨拶を求められたサクヤは、誰でも分かるような嫌味を交えつつ挨拶したが、龍神社側は気にも留めない。

 率直な物言いを好む者達なのだろうとサクヤは納得し、当たり障りのない会話に終止して宴を終えた。

 因みに宮司からの嫁に来いアピールは完全に無視した。


 客間に戻った一行は、一様に疲れた顔をしていた。


「どんなに美味い食事も酒も、一緒にいる者によって無駄になるということを学んだな。他の収穫が見当たらないが。」

「あんな状況でも笑顔で嫌味をまき散らすサクヤ様は素敵でした。」

「もういい。早く休もう。精神的に疲れた。」


 



「どう見た?如雲。」

「皆力量が多ございました。腕も立つと思われます。」

「うちの兵にも劣らぬ、ということか?」

「某でも互角に渡り合うのがやっとかと。あくまで御力を使わない場合の話ですが。」

「特にサクヤ殿は強い。あの蒼右衛門が圧倒されていた。」

「結界術をあのように使う方を初めて見ました。サクヤ様はやはり神に愛された御方なのでしょう。」


 宴の後、宮司は蒼衣と蒼士郎、山兵部の総頭の任にある如雲を呼んで意見交換を行なっていた。


「神に愛されているなど、言い過ぎではないか?」

「いえ、実は実際に神様が降臨され、サクヤ様に御力を授けられたのです。その時初めて結界術を使ったようですが、たった数日であのように使いこなすとは…。」

「神が降臨しただと?其方も見たのか?」

「はい。しかもサクヤ様達は初めてではなかったそうで…。神様達の間でもサクヤ様は噂になっておられるとか…。」

「蒼衣様、妖に化かされたのでは?」

「化かされて御力が使えるようになるなら、いくらでも化かされます。」

「確かに…。」


 信じ難い話に皆が沈黙する。

 もっとも蒼士郎は最初から沈黙しているが。


「明日以降の予定はどうなっておる?」

「はい。サクヤ様の希望で馬に乗る予定です。あとは将軍次第かと。」

「そうか。蒼衣、其方からも蒼士郎の嫁に勧めてみてくれ。」

「それはやめたほうがよいかと。余りしつこいと二度とこの地に来てくれなさそうです。」

「そうか…。やはり蒼右衛門と会わせるべきではなかったか…。」


(それもですが、父上の対応がとどめをさしたと思うのです。)





 サクヤは疲れたので早々に床に入った。疲れていたのですぐ寝付けると思っていたが、肉体的な疲労より精神的な疲労が大きかったのか、今ひとつ寝付けないでいた。


(予想はしていたことだ。ただ、思いの外阿呆なだけで…。)


 サクヤは蒼右衛門との手合わせを思い出していた。


(結界術か…。力量はそれなりに使うが、中々便利な術だな。もう少し使い方の研究が必要だが、色々使い道がありそう。)


 仰向けになったまま、サクヤは天井に向け手を伸ばし、小さな結界を作ってみる。


(形は…、ある程度変えれるな。円形だけじゃなく、何かを囲うこととかもできるか…?

 ほんのり光るから、灯としても使えそうだな。

 そう言えばあの阿呆が使っていた御力…。氷を発生させて放つ矢。あれも便利そうだったな。ちょっと試してみたいな。


 いかん、完全に目が冴えてしまった。)



《…サクヤ…》


(えっ?誰が呼んだ?)


 サクヤは、周りをキョロキョロ見渡す。


《…サクヤ…なさい。》


(はい?誰か呼んでる?)


 上体を起こしたサクヤは、気配を探るが誰かが居るような気配はない。


《…サクヤ、湖まで来なさい。》


(湖…。行って…みるか?)


 サクヤは千代達を起こさないよう、そっと起きて部屋をでた。


《湖だ…。ここまで来てくれ。》


 サクヤの頭の中で映像が結ばれる。土地勘はないが、行くべき場所は何故か判った。


 サクヤは周囲に気取られないよう気配を消して外に出た。

 湖まで来た時また声が聞こえた。


《ここだ、我は此処にいる。》


 サクヤは迷いなく湖畔の大樹の下にやって来た。

 そこにはこの国では見ることのない大きさの金色の蛇がトグロを巻いて鎌首をもたげていた。


「私を呼んだのは貴方様ですか?」

「如何にも。我はこの神域の主。民には龍神と呼ばれている。」

「…蛇ですよね。」

「この姿は仮初だが、龍蛇りゅうだなれば龍神でも間違いなかろう。」

「龍蛇様…って海にお住いかと思っていました。」

「元は海にいたのだがな…。まぁ、そんなことはよい。我はアマツミコトハヌシ。長ったらしいからコトハでよい。」

「母様の名に似てややこしいですが、コトハ様と呼ばせていただきます。私をお呼びになられたのはどのような理由でしょうか?」

「いや、噂の人の娘に会ってみたいと思ってな。折角近くまで来たのだ。挨拶くらいしていけ。」

「そのつもりでしたが、まさか直接頭の中に呼びかけられるとは思いませんでした。私はにゅー◯いぷになったのでしょうか?」

「何を言っているのだ其方は?」

「すみません。人の革新について考えていました。」

「もうよい…。やはり其方はちょっと変わっているようだな。」

「アカイヌヌシ様もそのような事を仰られていました…。私は普通なつもりなのですが…。」

「先程の結界術の使い方といい、発想が独特なのは確かだろうな。だが、決して悪いことばかりではあるまい。御力を便利かどうかで判断しているようだから、自覚はあるのだろう?」

「なくはないのですが、そんなに変な発想でしょうか?折角使えるのですから、有効活用した方がいいではないですか。」

「そのあたりだろうな…。まぁよい。それが其方の良さなのだろう。其方と話していると、久しぶりにアカイヌヌシにも会ってみたくなったな。奴は他の神との交流が少なくてな。ハクコナリヌシを介してしか話が伝わらんのだ。」

「退屈そうにされてますので、機会があれば連れてきます。」

「ははは、其方にかかれば、奴も飼犬のようだな。」

「そのようなつもりはないのですが…。」


(懐かれているような気はするけど。)


「話は変わるが、其方を呼んだのはひとつ頼みがあるのだ。」

「頼みですか?」

「うむ。実は拝殿の裏の山に我が時々籠る山があるのだが、そこにある奥宮に呪物を供えた者がおってな。それを処分して欲しいのだ。我には大した影響はないのだが、気分のいいものでもないのでな。」

「また呪物ですか…。国境の祠でも似たようなことがありましたが。」

「聞き及んでおる。それ故其方に頼んでおるのだ。」

「…何だか、作為的なものを感じますね。」

「かも知れぬな。だが、鬼は神域に入り込めぬし、人が意図して持ち込む理由が判らぬな。」

「そうですね…。こちらでも探ってみることにします。呪物については明日にでも宮司の許可をとって処分いたします。」

「頼む。宮司には我からも伝えておこう。」

「本当にコトハ様は宮司と意思の疎通をなさっているのですね。」

「意思の疎通というか、一方的に伝達しているだけだ。我の神力はこの以心伝心だからな。」

「一方的なのですね。では先程の頭の中に直接聞こえた声は返事ができないのでしょうか?」

「其方ならできそうな気がせぬでもないが、基本には一方的なものだ。」

「それは人の革新ではないですね…。」

「だから、其方はさっきから何を言っているのだ?」

「そうですね、何を言っているのでしょうか?失礼しました。」

「では頼んだぞ。事を成したらまた会いに来い。何か報酬を用意してやろう。」

「以心伝心でしょうか?」

「欲しいのか?」

「部隊への指示に便利かもしれません。」

「どうしても御力を便利な道具として扱う癖があるようだな。まぁ、確かに便利ではあるが…。」

「…そうですね。失礼しました。」

「御力については考えておこう。頼んだぞ。」

「はい。お任せください。」



 客室に戻ったサクヤは、そっと床に入ったが、千代には気づかれていた。


「どちらに行かれていたのですか?」 

「千代!いや、ちょっと手洗いにな。」

「随分長かったですね。」

「腹具合が悪くてな。」

「サクヤ様なら薬で簡単に治せるでしょう。」

「ぐっ…。ちょっと寝付けなくてな。夜風にあたってきたのだ。」

「そうですか…。ところでここのヌシ様はやはり龍だったのですか?」

「いや、蛇…って、千代、謀ったな!」

「サクヤ様が単純過ぎるのです。やはり神様に愛されていらっしゃるのですね。大丈夫です。今更驚きませんから。」

「そうか…。ちょっと頼み事をされてな。明日は御山に行くことになった。」

「分かりました。また朝に伺います。」

「そうだな。取り敢えず寝ることにしよう。おやすみ。」

「おやすみなさいませ。」


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