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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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龍神の社の人達

おはようございます

 国府前の湊から出た船は風を孕んで湖面を進む。

 国府から龍神の社に近い湊は、この大きな湖の対岸に位置する。


「今日は風が良いので、早く着きそうです。」


 蒼衣がサクヤに話しかけた。


「そうなのですね。恐らく凄く深いのでしょうが、底が見えるほど澄んで美しい湖ですね。」

「はい。今の時期は雨も少ないですから、濁った水も流れ込みません。もしかしたら龍神様も見えるかもしれませんね。」

「本当ですか!」

「ふふ、冗談です。私もお会いしたことはありません。でも、サクヤ様と一緒にいればお会いできそうな気がします。」

「冗談ですか…。本当に龍のお姿ならお会いしてみたいですね。」

「それはそれで恐ろしいですが…。」


 そんな話をしているうちに、里の湊に到着した。


 龍神の里は赤犬の里より賑やかで活気がある。単純に人口も多い。


「門前町とは思えぬほど活気がありますね。」

「恐らく半数は参拝者でしょう。武運長久に御利益があるとされていまして。また龍は運気上昇の象徴ですから、他国からの参拝者も多いのです。」

「なるほど。これだけ活気があっても傭兵業をしなければならないのですね。」

「そうですね。他に産業らしい産業は林業だけですから。特に耕作地が少ないのが問題でして。」

「でも、湖を干拓することはできないと。」

「はい、それは絶対できません。神罰が下ります。」



 一行が社に着くと、宮司自ら出迎えてくれた。


「遠路遥々お越し下さり有難うございます。ここに来るまでも疫病を未然に防いでいただいたとか。重ね重ね御礼申し上げる。」


 宮司が頭をさげた。社の宮司というより、一軍の将といった雰囲気の体格のいい男だった。力量も多いようだとサクヤは感じた。


「宮司自らのお出迎え痛み入ります。私が乾のサクヤです。本日はお招き頂き有難うございます。」

「長旅で疲れたでしょう。夕方からの宴までゆるりとされよ。蒼衣、案内しなさい。」

「はい、父上。」


 サクヤ達は客間に通された。龍神の社は何処か異国情緒を感じる趣きで、部屋の調度品も見慣れぬものが多かった。


「見慣れないものが多いですね。」

「隣の沃の国は外国との交易が盛んで、ここにも行商がやってくるのです。」

「へぇ、それは一度行ってみたいな。」

「ただ、櫛の国に負けず劣らず荒れた雰囲気ですよ。行商ですら兵団を組んでますから。」

「商人がですか。それは物々しいですな。」

「時々都にも足を運ぶようですから、瑞の

国府にも立ち寄っていると思いますよ。ただ、都は都で交易をしているので、それ程多くはないでしょうが。では宴が始まる前にお呼びしますので、それまでごゆるりとお過ごしください。」

「折角だから、門前町でも見物してみるか。」

「それでしたらご案内しますよ。」

「蒼衣殿も疲れているでしょう。」

「私は慣れたものですから。では、先程父上が挨拶した拝殿前でお待ちしています。


 蒼衣はそそくさと出て行った。


「誰か行くものはいるか?」


 サクヤの問いに千代と小平太が手を挙げた。


「私は別をみて回ります。」


 猿丸はさっさと出ていってしまった。


「折角なので皆で行きましょう。」

 

 伊都の一言で結局猿丸以外の全員が行くことになった。


 拝殿の前に行くと蒼衣が待っていた。


「皆さん行かれるのですね。では参りましょう。外国から渡来した珍品もありますよ。」

「へぇ、そりゃ楽しみだ。」



 小平太と左馬介がキョロキョロと興味深そうに参道を歩く。サクヤも一つの店の軒先に並べられた商品に興味を持った。


「これは何というか物で、何に使うのですか?」

「これは『遠眼鏡』といってな。ここから覗くと遠くの物が目の前にあるように見えるものだ。」

「覗いてみていいか?」

「あぁ、構わんよ。」


 サクヤは言われた通り覗いてみた。


「うわっ、何だこれは…。」


 遠眼鏡をずらした正面に千代がいた。


「あぁ、千代の目だったか。もう少し遠くを見ないとな。」


 サクヤは湖の対岸の方を向いて再び覗き込む。


「ほぅ、これは…。目の前にあるとまでは言わんが、確かに随分近くに見えるな。敵の動きを観察するのにいいかもしれない。」


 サクヤは遠眼鏡を千代達に回す。


「因みにこの遠眼鏡とやらはいくらですか?」

「3貫文です。」

「…高いな。経費で降りるだろうか?」

「流石に無理であろう。」

「そうか…。ならこれで足りるか?」


 藤十郎に無理と言われたサクヤは懐から金の塊を出した。


「こ、これは?」

「山で拾った金の粒だ。それなりに価値があると思うが。」

「サクヤ様!この大きさなら充分どころかお釣りがきますよ。」


 蒼衣が目を丸くして金の粒を見ている。


「とはいえ割るわけにもいかないし、このままでいいだろう。店主、よいかな?」

「じゅ、十分でさ。申し訳ないのでこちらの翡翠の勾玉もお付けしましょう。持つ者を守ると言われる貴重な石です。」

「そうか、すまないな。では有り難くいただこう。」


 サクヤは首紐の着いた翡翠の勾玉を早速身に付けてみた。


「面白い石だな。御力を貯めておけるし、邪気や穢れも貯めれそうだ。身を守るということは、案外…。」

「どうなるのです?」

「いや、まだ仮定の話だから試してみてから教えよう。」


 サクヤが不敵に笑うので、藤十郎はまた心配の種が増えた気分だ。


「しかし、あのような金の大粒をよく見つけたものだな。」

「あれはサクヤ様が、金鉱の集落の温泉に使ったときに…」

「千代!しっー!」

「別に今更どうってことないと思いますが…。」

「また何かやらかしたのか。どうせ温泉に御力でも籠めたのだろう。畑や水に籠めるくらいだから、そのくらいやってそうだ。で、浸かった者の怪我や病気でも治したか?」

「な、何故わかるのですか?」

「本当にそうなのか…。半分冗談だったのだが…。」

「く、謀ったな!」

「何を言っておるのだ、まったく。その礼に貰ったのか。あ奴らにも困ったものだ。」


 

 参道を進むと、湊の手前の広場に着いた。


「当社の本殿は湖に向かうように建っていますが、昔は湖自体をご神体としいたので、背後に湖がくるように拝殿だけ設けられていたそうです。今はヌシ様が降り立ったとされる本殿の背後の山をご神体としているので向きが逆になりました。とはいえ、湖もご神体であることに変わりはありません。この広場は昔拝殿があった場所で、社を修復するときなどは、こちらに仮殿を建ててお移りいただくことになっています。」

「なるほど。だからこれだけの広さの土地をそのままにしているのか。」


 その時、異変を察知したサクヤが後に飛んだ。元いた場所には矢のような氷が刺さっている。


「ほう、避けたか。なるほど、大したものだ。」


 矢の来た方を見ると、長身の男が立っている。どことなくここの宮司に似ているとサクヤは思った。


「蒼右衛門兄上!突然何をなさるのです!大切な客人ですよ!」

「蒼士郎に怪我を負わせた鬼を追い払えるほどの腕前と聞いている。ならば手合わせせずにおくなどできるはずもなかろう。」

「…やはりこうなるのか。ここの社の者は頭の中まで筋肉で出来ているようだな。」

「かかか!言うなぁ小娘。先程は上手く避けたが、これならどうだ?」


 蒼右衛門と呼ばれた男は続け様に氷の矢を放つ。


「あれは御力か?弦を引くだけで矢が現れるとは。矢を番えないぶん連射速度がとんでもなく速い!」


 左馬介が驚いているが、サクヤは冷静に返す。


「当たらなければどうということはない。」


「…サクヤは3倍の速度で回避する気か?」

「先程から何を言っているのですか?」



 サクヤは躱しつつも、躱しきれない矢は小太刀で捌く。

 そして躱す合間に矢を放つ。


「よいなぁ小娘。それほどの腕なら我嫁に相応しい。娶ってやろう。」

「遠慮する。お前に相応しいのは多分人ではない。私は人語を解さぬ者と一緒になる気はない。」

「ほざけ!ならばこれは躱しきれるかな?」


 蒼右衛門が放った矢が放射状に広がった。

 サクヤは双刀を構えるとニヤリと笑った。


 矢がサクヤに届くと思われた刹那。矢はサクヤの前に現れた円状の光りの壁に阻まれた。


「なんだと?!」

「なるほど、こういう使い方もいけるのか。何でも試してみなければ判らないものだな。」

 

 サクヤは一人呟いた。


「それは…結界か?」

「そういうことだ。さて、私は少し腹が立っている。この戦闘馬鹿には少し痛い目に合ってもらわなければな。」


 サクヤは矢を番えると、矢と弓に御力を籠め始めた。


「ま、待て!サクヤ!それは不味い!いくら何でも人に向けるものじゃない!」

「大丈夫だ。この矢は破魔の矢ではないし、速度に全振りして、威力は少しだけ抑えている。あのいかれた頭の風通しを良くするだけだ。」

「それでも駄目だって!頭に風穴を開けたら痛い目に合っても痛みが分からないまま即死だろ。」

「そうか、ならば股間でも狙ってやるか。それなら嫁も不要になるだろう。」

「やめろ!想像しただけで寒気がしたぞ。どっちにしろ人に向けて放っていいものじゃない。」


「どうした?このままでは大事なものを失うぞ。」


 矢を番えたサクヤは蒼右衛門を挑発する。


「くっ、小娘が…。」

「どうせ力量切れを起こしたのだろう。素直に負けを認めるなら、命だけは見逃してやろう。その代わり、鬼防寮全員分の馬でも貰おうか。」

「なっ!?ふざけおって!」


「ふざけてるのはおのれだ!」


 社の方から宮司がやってきたかと思ったら、迷う事なく蒼右衛門をぶん殴った。

 殴られた蒼右衛門はふっ飛ばされてのびている。


「重ね重ね申し訳ない。この馬鹿息子だけは…、強い相手と見れば見境なく勝負を挑むのだ。今回もなるべく顔を合わせずに済むよう手配したつもりだったのだが…。」

「宮司の責任とは思いませんが、育て方に失敗したのだろうとは思いますね。」

「サクヤ!なんと失礼なことを!」

「いや、事実故言われても仕方ない。私は今決断した。この馬鹿は宮司候補から外す。」

「いや、流石にそこまでは…。」

「前から考えていたことですので、お気になさらず。サクヤ殿、ご気分を害して申し訳ない。」

「いえ、ここに来る段階である程度予想していましたから。」

「サクヤ…、なんでとことん失礼に徹するんだよ…。」

「しかし、頭は悪いが蒼右衛門の強さは本物だ。此奴を相手に余裕で勝ちを納めるとは…。蒼右衛門でなくとも嫁に欲しくなるな。蒼士郎などいかがかな?」

「何の反省もしてませんね。似ているのは見た目だけではなかったようだ。」

「いや、此奴ほど馬鹿ではないと思うが。まぁ、よい。宴でゆっくり話をしよう。」


 宮司は蒼右衛門の襟を掴んで、引きずりながら社の方へ帰っていった。



「馬に釣られてきた私が馬鹿だったようだ。隼人の保証など糞の役にも立たなかったな。」

「やっぱり馬に釣られたのか…。」


「サクヤ様申し訳ありません!私は今、穴があったら入りたいです…。」

「いや、蒼衣殿のせいではないし、もう色々諦めたので大丈夫です。」

「慰めになってませんよ、サクヤさん。」


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