湖の国府
おはようございます
ちょっと短いお話ですが…
「おはようございます。では、国府へご案内します。」
鏑木の家人で三郎兵衛と名乗る男が挨拶する。
「宜しくお願いします。」
宿場前の川湊から船で下り、湖に注ぐ河口部で降りる。そこから歩いて少しすると国府である。
船を使うとあっという間に国府に着いたので、小平太は感心していた。
「なるほど。隼人殿の言っていたことは真だったな。これほど早いとは。」
「だから言ったであろう。時間は有効に使わねばな。」
「上りも早いので?」
「いや、上りはな…。に、荷物を運ぶのには有効だぞ。」
「確かに陸路よりは多くの荷物を少人数で運べるかもな。」
「そうだろう、そうだろう。」
国府館に着いたサクヤ達は、三郎兵衛の案内で客間に通された。
「お待ちしておりました、サクヤ殿。」
鏑木弾正が笑顔で迎えた。
茶が配られ、皆が一口飲んだところで弾正は話を切り出した。
「昨日お話した白銀童子に襲われた村ですが、村人の三分の一は逃げ出したものの、残りは全滅したようです。国府の兵と山兵も派遣されたのですが、着いたときにはもぬけの殻で、食い散らかされた骸だけが残っていました。」
「なぜ白銀童子とわかったのです?」
「本人が名乗るのを逃げた村人が聞いたからです。」
「白銀童子は単独ですか?」
「いえ、徒党を組んでいたようです。10匹前後はいたと。」
「…生き残った村人に会うことはできますか?」
「それは構いません。皆隣村に保護されています。」
「因みに白銀山というのはどこですか?」
「この舘の南東にあります。先の野分で道が塞がれてしまいましたが。」
「ここから見えますか?」
「ここからだと手前の山で見えません。国境の峠からなら見えていました。」
蒼衣が口を挟む。
「なるほど。分かりました。では、残った村人に会った後、その村に行ってみましょう。」
「待てサクヤ。何をするつもりだ?まだ何の依頼も協力要請も受けていないぞ。」
「我々は鬼防寮だ。鬼の討伐に決まっている。依頼など受けなくとも、鬼がいるなら倒すまでだ。」
「待て待てサクヤ殿。ここはうちらのしまだ。勝手をされちゃ困るぜ。」
今度は隼人が口を挟む。
「蒼士郎殿は鬼防寮に留学するんだ。その蒼士郎が白銀童子を退治したいと言っているのだから、何の問題もないだろう?」
「大体、その鬼防寮ってのがわかんねぇよ。なんだいそりゃ?」
「部外者に説明する謂れはない。」
「おいっ!蒼士郎さん!何とか言ってくれよ。」
「…面倒臭い。」
「蒼士郎さん!」
「お待ち下さい。輔殿、私は相談役で乾の藤十郎と申す。輔殿は何用あって我等を国府へ招いたのでしょうか?」
「某の話を聞いてくれる方がいて安心した。話が勝手に進んでしまい困惑していたのだ。国府としては、現地調査のうえで将軍様の到着を待ち、指示を受けたいと考えている。おそらく将軍様の兵に合力を依頼されるものと思われる。」
「そういうことですか。サクヤ、よいかな?」
「…面倒臭いですね。調査中に遭遇したらやっちゃっていいですか?」
「お前なぁ…。もう少し頭としての自覚というか、なんとかならないのか?」
「冗談だ。真に受けるな。」
「お前は!真顔でいうから本気が冗談かの区別がつきにくいんだよ。ほら、輔殿が困惑してるじゃないか!」
「調査は後でもいいが、村人への聞き取りは急ぎたい。今からでも大丈夫でしょうか?」
「それは構わないが、何か気になることが?」
「少しだけ。確信があるわけではありません。念のためです。」
「わかった、では参りましょう。」
昼餉だけ軽く済ませてから一行と国府兵10人が保護されている村に向け出発する。着く頃には夕方になるので、そのまま村で宿を借りる予定だ。
村に着くと村長の家に保護された村人が集められた。
サクヤは全員を見渡して一人に声をかけた。
「そこの貴方、気になることがあるので此方へ来てもらえますか?」
「俺か?何かあるんけ?」
サクヤに呼ばれた男が前に出てくる。サクヤは唐突に薬入れを取り出すと男にぶち撒けた。
「な、なにしやがる!ぐっ!」
男が苦痛に喘ぐのを見たサクヤは、小太刀を抜きざまに男の首を落とした。
「なっ!?サクヤ!何を…、」
首を落とされた男の頭に角が生えた。そして切り口から徐々に消滅を始める。
「お、鬼!?」
「やはり混ざっていたな。恐らく食った村の男に似せて化けたのだろう。疫病を流行らせるつもりだったのかもしれない。念のためにここにいる全員を浄化する。」
サクヤは祝詞を上げ、全員を一纏めに禊祓を行った。
「何度見ても凄いですね、サクヤ様の禊祓は。」
弾正と国府兵達は一連の出来事についていけず、呆然としている。
「この男と接点のあった村人も呼んでくれ。疫病をもらっているかもしれない。」
「わかりました!」
村長は慌てて出ていく。
「サクヤ殿は最初から判っておられたのか?」
「いえ、その恐れがあると思ったので、念のために来ただけです。来ておいて良かったですね。」
「いや、助かった。なるほど、将軍様も一目おくだけのことはあられる。」
接点のあった村人が集められると、今度は伊都が禊祓を行った。
禊祓が終わったところに、外から馬の蹄の音が聞こえた。
「あらら、終わっちゃってたかぁ。」
「将軍様!」
「あら、右近様。」
「サクヤ殿、ご無沙汰だね。サクヤ殿が村人に会いに行ったって聞いたから慌てて駆けつけたんだが、一足遅かったようだ。何かあったかい?」
サクヤは先程の出来事を聞かせた。
「流石サクヤ殿だ。素晴らしい洞察力だね。」
「いえ、瑞の国府であのようなことがあった後ですから。鬼が名乗ったうえで逃がしたと聞いて不自然さを感じましたので。」
「確かに。で、これからどうするんだい?」
「襲われた村の調査は右近様が来てからになりそうでしたし、私は特に。何か協力することがありますか?」
「いや、これ以上手を煩わすのも悪いからね。調査後に白銀童子の討伐計画を練ろうと思うから、そこに参加してもらえるかな?龍神の社の招待を受けているならその後に。」
「分かりました。場所は?」
「追って使いを出すよ。多分国府館になるだろうが。」
「では社で待つとします。」
「今日はここに泊まるのかい?」
「はい、そのつもりです。」
「そうかい。我等も今日はここに野営だ。折角だから、少し晩酌に付き合って貰えないか?綾の泉も用意している。」
「綾の泉を…。わかりました。」
(サクヤ!簡単に酒で釣られるんじゃない!)
小平太は一人やきもきしながら2人やり取りを見ていた。




