秘密の共有者
おはようございます
当然だが宿では男女で部屋が分かれる。
男部屋ではどうしてもサクヤの話になってしまっていた。
「ひとつ確認してよいだろうか?サクヤ殿の御力の使い方は以前からあのように奔放なのか?社の方針か?」
蒼士郎の疑問に小平太達は苦笑いする。
「いや、あいつが自由過ぎるだけで、他は皆常識の範囲内だと思っている。」
「だが其方をはじめ、ここにいる者は皆一般的な山兵より力量が多い気がするのだが。山兵でない伊都という者も明らかに多いだろう?」
「蒼士郎殿は見ただけで力量が判るので?」
「そこは宮司の家系故かもしれないが、ある程度は判る。だが、サクヤ殿のように気配で相手の正体が判ったり、邪心から相手の気質を感知したりはできない。」
「サクヤはそれで対応を変えたりしているが、確かに見誤ったことはないかも知れない。初めて鬼に遭遇したときは人と判別がついてなかったが、今はそのようなこともないだろう。」
「もう一つ、当たり前のように神から加護を受けていた。あれは初めてではないであろう?」
「実際にサクヤが加護を受けるのを見たのは我らも初めてだから、そのあたりはよく分からないとしか言いようがない。正直、サクヤのことは我等にも分からないことの方が多いのだ。」
一堂が沈黙する。
これ以上サクヤの御力について聞くのは難しいと判断した蒼士郎は話題を変えた。
「サクヤ殿は昔からあのように愛想のない女子なのか?」
「いや、山兵になってからだな。配属される前から弓の腕は抜きに出ていて、兵法の勉強もしていたから、一年もしたら隊長格として小隊の指揮をしていた。その頃から指示を短く伝えるためと言って男言葉になっていったが、厳しくなったのは後輩の弓兵が討伐中に死んでからだ。」
「あの辺りから、何を考えているのかも分かりにくくなったな。隠密寮で学んだことも影響しているのかもしれん。」
「その癖、不意に見せる微笑みで男女関係なく魅了してしまう。」
「あぁ、あの神楽のときのようにか…。」
「元々器量も良いしな。好くかどうかに関わらず、人を惹きつけてしまう。」
「小平太さんも気が気じゃないですもんね。」
「左馬介!」
(わからんことが多過ぎる。サクヤ殿とは何者なのだ?本当に人の子なのか?神たちの間で噂になる人間とはなんなのだ?)
サクヤは一人湯船に浸かりながら今日の出来事を振り返る。
(まさか、神様達の間で噂になっているとは思わなかったな。くれると言うから素直に授かったけど、人前で御力を授かるとは…。質問に答えるのも何だか面倒臭くなってしまったから適当に答えたけど、理の話さえしなければ問題ないよね?)
サクヤは顔を洗うと、考えを整理する。
(多分これからも神様との接触は増えるだろう。そろそろアカイヌヌシ様との関係も気付かれるかもしれない。実際藤十郎殿は疑っている。小平太達はハクリ様に会っているからいいけど…。
この際、藤十郎殿にも秘密の共有者になってもらうか…。
しかし、蒼衣様にまで変な目で見られるのはなぁ。ヌシ様の言う通り、私が人間離れしているのかも…。)
部屋に戻ると、蒼衣があらたまった態度でサクヤを待っていた。
「蒼衣様、どうしたのです?」
「私のことを様付けで呼ぶのはおやめください。これほどに神に愛された御方に様付けで呼ばれるなど、不敬の極みです。」
「ちょっ、ねぇ、どうなってるの?」
千代と伊都はただ苦笑いするだけで、止めるつもりはなさそうだ。
「神様達の間で噂に上るような御方とは知らず、これまでの非礼をお詫びせねばなりません。どうかお赦しください!」
「待って蒼衣様!何を言い出すの。あれは、そう!狸の妖に馬鹿されてただけですよ、きっと。神様なんて、ねぇ。」
サクヤは千代に同意を求めたが、ジト目で返された。
「妖が御力を授けたりしません。それとも元々結界術がお使いになれたのですか?」
「千代!貴方は誰の味方なの!」
「私は何時でもサクヤ様の味方ですが、サクヤ様の尊さを損なうような言動は是正すべきと考えておりますゆえ。」
「ちょっと伊都も何とか言ってよ!」
「いや、無理でしょう。神様が降臨して神力を授けてもらって。ただでさえ出鱈目な御力の使い方をしているのに、今更どんな言い訳が通じます?もう神の使いか、いっそ神の子でいいんじゃないかしら。」
「伊都!私は母様の子供で、至って普通の女子です。」
サクヤの『普通の女子』発言に、全員が「何言ってるの?」という顔でサクヤを見る。
「サクヤさんは父親がハッキリしてませんでしたよね?もう、父親が神様ということにしておけば良いのでは?だれも疑わないでしょ?」
「無茶苦茶言わないで!私の父親は一応人間よ!」
「えっ、やっぱり小六さんなの?」
「い、いや、小六さんではないけど…、人間に間違いないわ。母様に確認とったもの。」
「あっ、判っているんだ…。」
「その話は今関係ないでしょ。だから、変な話を流布しないで!」
「そんなつもりはないけど…。私も正直混乱しているの。今日は色々ありすぎたわ。」
サクヤと伊都が睨み合っているのを千代が制する。
「御二方とも、話があらぬ方向に向いております。
一番大切なことの確認ですが、サクヤ様はこの先何を目指しておいでなのですか?神になられるならそれはそれで良いのですが。」
「なるわけないでしょ!…私の成すべきこと…。
先ずは霊徳童子を倒す。そして…、穢れや邪念のない、いえ、生まれても社や宮がその都度浄化して、人々が安心して暮らせる世にしたい…、かな。」
「わかりました。目的が決まったのなら、その為に必要な戦略を考えます。その目的を達成するために、サクヤ様がどういう立場になるのか?どうあるべきか考えなければなりません。先ずは霊徳童子討伐への道筋をどうするのか、サクヤ様の考えを教えていただきたいです。」
「討伐への道筋か…。わかった、整理してみよう。時間をくれ。」
「分かりました。伊都さんもそれでよいですか?」
「そうですね。それが鬼防寮の者としてのお役目ですから。」
翌朝、朝餉の席でサクヤは皆の前で話を始めた。
「昨日、千代に言われて鬼防寮の目指すべきことが明確になった。頭として、今後の方針を示そうと思う。」
サクヤは全員を見渡すと、其々が目で返す。
「蒼衣さんと蒼士郎殿はあくまで留学生という立場ではあるが、鬼防寮の一員として行動してもらうことになるので一緒に聞いて欲しい。先ずは霊徳童子討伐が目標になる。その為に必要だと私が思っていることは、「弱体化」だ。鬼の力の根源は邪心や穢れだが、それを得る機会を減らしたい。最初は逆を考えていた。先ず霊徳童子を倒し、鬼の発生しにくい世を目指そうと思った。だが、今の私達の力で霊徳童子を倒すのは正直難しいと思っている。ならば霊徳童子を弱体化すればよいと思ったのだ。その為には社と宮の協力関係が必要になる。それは朝廷をも巻き込む話だ。その為に必要ならば、私の立場や存在すらも利用することになるかもしれない。まだ言えないことも多いが、いずれは開示していけるよう努める。私だけの考えでは足らぬこともあるはずだから、皆にも遠慮なく意見を出して欲しい。まだ具体的なことが言えず申し訳ないが、まずは目標、進むべき道を明確にしたかった。皆付いて来てくれるか?」
沈黙を破ったのは小平太だった。
「俺は最初からサクヤに付いて行くつもりだったんだ。今更ではあるが、目標が明確になったのは分かりやすくていい。」
「私はどのようなことになろうと、サクヤ様に付いて行くつもりですから。」
「頭が言うことに従うのが俺達のお役目ですから、なんなりと指示してください。」
「サクヤさんに付いて行くのが一番楽しそうですからね。それを聞いて降りるなんて選択肢はありませんよ。」
「昨夜言った通りです。お役目として鬼防寮に配属された以上、私のやれることに全力を尽くします。」
「サクヤ様のお側で多くを学ぶ覚悟を決めたのです。勿論付いて参ります。」
「…俺は白銀童子にも貸しがある。この借りを返せるなら付き合おう。」
「其方を見守ると決めたのだ。付いて行く他あるまい。」
サクヤは一人ずつに頷き返し、決意を新たにした。
「有難う。では皆に覚悟を決めてもらったので、知らない者にも共有しておくべき事を伝えておく。ただし、今から話すことは他言無用だ。下手に漏らすと神罰が下るから肝に命じてくれ。」
そう言って白狐の社での一連の出来事を説明した。
「…やはりそう言うことだったか。それなら昨日の出来事も合点がいくな。」
「他にも秘密がありそうだが…、分かった。気をつけるとしよう。」
こうして鬼防寮の全員と留学予定の2人の間での秘密の共有が行われた。
少し長めの朝餉を済ませたサクヤ達は、湖の国へ向け、そして鬼防寮として再出発した。




