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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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【閑話】小六の娘

おはようございます

少し短いお話です。

 梅雨が明けて夏を迎えた頃、野分(台風)が直撃した。

 里もそれなりの被害はあったものの、人的な被害はなく、平穏をとり戻しつつあった。


 そんなある日、龍神の社から使者がやって来た。


「申し訳ありません。先日の野分で甚大な被害が出まして、サクヤ殿をご招待する話は延期させていただきたい。」

「事情が事情ですからな、仕方なかろう。良いな、サクヤ。」

「はい、宮司や蒼衣様にはお見舞い申し上げるとお伝えください。」

「お見舞いの言葉痛み入ります。必ず伝えます。」

「あと、こちらは僅かですが、傷薬と回復薬です。この程度しかお力になれずすみません。」

「いえ!このような貴重な物を…。忝のうございます。」


 使者は見えなくなるまでお辞儀を繰り返し帰って行った。


「馬に乗れるのを楽しみにしていたが、致し方ないな。」

「そんなに乗りたかったのか?」

「馬があれば移動速度が上がる。火急の折に早く駆けつけれるではないか。」

「確かに。単純な興味かと思っていたが、実用性を考えていたのだな。」

「勿論好奇心もあるがな。できれば鬼防寮の者は全員乗れるようになってもらいたいと思っている。」

「えっ!?そんなことを…。伊都はどうするのだ?」

「伊都にも乗れるようになって欲しいが、どうだろうなぁ。」

「難しいと思うがな。とはいえ俺も乗ったことはないからな。なんとも言えん。」

「そうだな。」


 サクヤと小平太は使者を見送ると、鍛錬に戻ることにした。




 使者を見送る帰り、サクヤを呼びとめる声が聞こえた。


「サクヤ!尋常に勝負だ!」


「おい、誰だこの子?」

「あぁ、小六さんの娘の環だ。」

「小六さんの…。」


 小六はサクヤの父と噂される男だが、小六本人は勿論、サクヤもそうでないことを知っている。


 楓は来春に御力量りの儀を迎えるが、どこで聞いたのか、サクヤが腹違いの姉かも知れないことを知った。里の女子の憧れでもあるサクヤが姉かもしれないことを、最初は嬉しく思ったが、サクヤがあれ程強い山兵になれたのなら、同じ父を持つ自分も強くなれるのではと考えるようになってからは、妙な方向にサクヤを意識するようになった。


 ある日、里の的場で弓の稽古をしていた環に、偶々通りかかったサクヤが指導してやったことがあった。サクヤは教えるのが下手なので、環は「こんな出鱈目な指導をするような者になら勝てるのではないか?」と思って、勝負を挑んだ。

 当たり前だが、ケチョンケチョンに負けた環は、その日から猛稽古を始め、事あるごとにサクヤに勝負を挑むようになった。

 サクヤは子供に対してはかなり寛容なので、その都度相手をしてやり、ときにはアドバイスも与えた。



「わかった。だが少しは上手くなったのか?」

「五月蝿い!今日こそは勝つ!」

「やれやれ。サクヤ、先に戻ってるぞ。」

「ああ。調練の指揮を頼む。」

「分かった。」

「よし、じゃあ的場に行くぞ。」


 サクヤは環の後を歩いて的場に向かう。


「勝負の前にちょっといいか?」

「なによ。」

「今日はこの矢で勝負しよう。この鏃に手を触れてみろ。」


 楓は訝しげな目でサクヤを見ながら、恐る恐る鏃に手を触れる。

 サクヤはその上に手を乗せ、御力を環の手を通して鏃に流してみる。

 

「なっ!?身体の中に変な熱が!」

「その熱をそのまま鏃に流し込んでみろ。」

「へ?」


 環は言われるままに意識してみる。

 鏃がほんのり光るとサクヤは微笑んだ。


「うん。環はそれなりに力量があるようだ。ただ、今のでかなり使ってしまったはずだから、この薬を半分飲みなさい。」


 環はぼぉっとした頭で言われるままに薬を半分飲んだ。


「少し休憩しておけ。初めてのことで身体が驚いているはずだ。私も最初は気を失ったからな。」


 30分程で環は力量が回復し、意識もはっきりしてきた。


「いったい何をさせたんだ?」

「環には御力がある。以前にも言ったが、自分を信じて的の中心を射抜くことを疑うな。御力はできると信じることでその力を発揮できるんだ。環は鏃に御力を籠めることができた。だから的も射抜ける。私と自分を信じろ。」

「…分かった。」


 環は御力を籠めた矢を番える。


「的の中心に矢が刺さることをしっかり頭の中に描け!」


 環は目を閉じて頭の中に像を結ぶ。

 目を見開き的を見据えると矢を放つ。矢は吸い込まれるように的を射抜いた。


「よし!やったな環!」

「あ、当たった…。」

「今日は環の勝ちだ。だが次は分からないぞ。」

「つ、次だって勝つ!」

「その意気だ。では初勝利の祝いにこの石をやろう。」


 サクヤがそう言って取り出したのは、拳大の黒曜石だった。


「これは鏃の材料で、御力を籠めることができる。毎日身体の熱が空っぽになる寸前まで御力を籠めるんだ。そして、今日の遣り方を忘れないよう、できるだけ毎日鍛錬を続けなさい。」

「わ、分かった。それをやればもっと上手くなれるんだな?」

「ああ。兎に角自分の力を信じろ。信じれるまで鍛錬することだ。」


 サクヤは教えるのが下手である。これまで指導して上手くいった試しがなかったが、環はサクヤの指導で上手くなった初めての生徒だった。サクヤはそれが嬉しかった。


(私の指導は昔から変わっていない。でも、周りが私を信じるようになると、私の言うことも信じてくれるようになった。環も文句を言いながらも私の言うことを信じてくれたんだ。環みたいな子が増えてくれればいいな。)



 サクヤが社に戻ると、小平太が声をかけてきた。


「なんだか嬉しそうだな。何か良いことがあったのか?」

「ああ、勝負に負けたんだ。」

「はぁ?何で勝負に負けて嬉しいんだよ?

「環が初めて的の中心を射抜いたんだ。あの子は上手くなるぞ。」

「なるほど。お前の指導で上手くなるなんて、よっぽどの変わり者だな。ところで、勝負に負けたって、サクヤが的の中心を外したのか?」

「あ、そう言えば私は矢を放ってなかった…。」

「なんだそりゃ。まぁ、いいんじゃねぇか。あの子も喜んでいたんだろ?」

「そうだな。負けて嬉しいと思うことがあるなんて知らなかった。それに、環もきっと石が跳ね返ってくるぞ。」

「はぁ?ってお前、もしかして力量の増やし方を…?」

「私ひとりでなくなれば、目立たなくなるだろ?」

「いや、今更な気がするが…。」





「サクヤ!勝負だ!」

「分かった。」


 その後もサクヤと環の勝負は、環が巫女になるまで続いたが、サクヤが勝利を譲ることはなかった。


龍神の社行きは延期です


【設定裏話】

環は顔も御力も母親似です。

コノハと結ばれなかった小六ですが、あのコノハを射止めたと噂になり、あのあと注目の的になりました。今の奥さんは元巫女で、それなりに力量がありました。

環は母親のいいところを受け継げました。

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