サクヤと静
おはようございます
サクヤは弓寮に顔を出し、弥九郎に挨拶した。
「これからは同格の頭同士だ。よろしく頼むぞ。」
「新米の頭です。引き続き御指導宜しくお願いします。」
「今更指導することなんかないさ。弓寮でも殆どお前が指揮を執っていたんだから。」
「随分スッキリした顔をしてますね。胃痛は治ったのですか?」
「そういえば、この話を聞いてから気にならなくなったな。」
「失礼な。今度奥様にも挨拶に行かねばなりませんね。」
「やめろ!何の挨拶だ。必要ない。頼むから大人しくしていくれ!」
「冗談です。平八郎さんと一緒にしないでください。」
「お前の方がたちが悪いわ…。」
弥九郎をからかった…もとい、挨拶した後、サクヤは帰宅した。
「ただいま。」
「お帰り。どうだった?」
「うん、私の苦手な会だった…。」
「何となく察しがつくわね。色恋の話が中心なんでしょ?」
「良くわかるね。」
「年頃の若い女ばかりで集まれば、そんな話くらいしかないわよ。」
「でも、静さんの話は参考になったかな。里を出る気になっても、周囲には漏らさない方がいいって。」
「それはそうね。貴方の場合、周りが放っておかないわ。特にあの将軍様は面倒ね。」
「あぁ、どうだった?あの将軍様は。」
「まるで威厳のない将軍で拍子抜けしたわ。でも、貴方の評価通りで掴みどころがない、難しい相手ね。腹の中で何を考えているのか、まるでわからないわ。」
「そうだね。まだ近くにいるんだろうから、気を付けないと。」
「明日からは?」
サクヤは新寮の頭になったことをコノハに伝える。
「はぁ?その歳で頭って。しかも鬼退治に関する全般って、無茶苦茶じゃない。」
「でも、面倒な手続きやお伺いを省けるし、ある意味今まで通りでもあるし…。私にとっては都合がいいと思ったんだけど。」
「あんた…どれだけ抱え込むつもりよ。」
コノハはブツブツ文句を言いながら夕餉の支度をしに台所へ行った。
翌日、サクヤ鬼防寮のメンバー全員を集めた。
「ということで、頭のサクヤです。今更自己紹介もないので、そこは割愛します。今から話すのは、今後の基本方針です。」
「基本方針?」
「そう。ただ鬼出没の知らせを待っているだけじゃ脳がないからな。まずは猿丸に情報収集を頼みたい。」
「どのような情報がご入用で?」
「何でもいいんだけど、まずは霊徳童子の出自が知りたい。」
「出自ですか?」
「そうだ。やつは何故怨霊になり、鬼になったか?まずはそこから知っておきたい。」
「なるほど…。まずは相手を知ることからですか。」
「そう、『己を知り相手を知れば百戦危うからず』っていうでしょ。」
「なんだ?兵法の話か?」
「その兵法の基本だ。戦い起こすなら、準備が最も大事だということだ。私は勝てる戦いしかしない。」
「霊徳童子との戦いは勝てる戦いだったのか?」
「負けることはないと思ったがな。」
(最悪、御力を使えばなんとかなると思ったんだけどな。そう言えば奴も呪術が使えるはずなんだけど、使う事はなかった気がする。手の内が判らないのに挑んだのはちょっと無謀だったかもしれない…。)
「ただ、相手の出方が判らないうちに戦ったのは無謀だったかもしれない。反省しなければな。」
「そうか…。自分で判っているならいいんだが。」
「あの時は騎重郎がヤラれていたから、助けに入る必要もあったしな。どちらにしても戦闘は避けれなかっただろうが。」
「そうだったな。ところで、俺達は何をすればいいんだ?」
「基本的にはこれまでと変わらない。鍛錬と遠征になるかな。伊都もこれまで通りだが、我等と行動を共にする以上、戦闘時の動きは理解しておいて欲しい。また、自分の身を守る程度の武術も身に付けてほしいかな。」
「そうですね…。あまり得意ではないですが、頑張ります。」
「ちょっといいか?」
話をしていると、竜造が顔を出した。
「来月の宿場町での祭のことなんだが、サクヤと伊都にも出演して欲しいのだ。問題ないか?」
「特に予定はありませんね。急な討伐でも入らない限りは大丈夫かと思います。」
「そうか。それなら稽古にも顔を出してくれ。」
「分かりました。」
用件が済むと竜造はさっさと部屋を出た。
「さて、話は終わりだ。各々自分のやるべき事を考えて動いてくれ。」
「サクヤ、いや、頭はどうするので?」
小平太がわざとらしく頭呼びした。
「呼び方は今まで通りでいい。今ひとつしっくりこないしな。私は巡回に出る。では解散だ。」
サクヤは薬草園の様子を見た後、そのままアカイヌヌシに会いに行く。
山の景色はすっかり秋になっている。
(町の祭の時期だから当然と言えば当然か。)
山頂近くまで来るとアカイヌヌシの気配を感じた。
「なんだ?気付いたのか。」
「今までは感じなかったのですが、不思議な感覚です。」
「まったく、神の気配を感じるなど、益々人間離れしていくな。」
「やめてください…。」
「で、今日は?」
サクヤは乃美の宿の夜に静と話したことを伝えた。
「なるほど。まぁ、そうなるだろうとは思ったがな。やはり血は争えんのだろう。」
「血ですか?確かに母様も同じ事を言っていましたが。」
「其方の母もだが、静という者の母のことでもある。その2人は従姉妹だ。」
「えっ!?初めて聞きました。何故ヌシ様がそのようなことまで御存知なのですか?」
「2人の祖父に当る者の母はこの里の生まれではなく、日輪大社の宮司の娘だったからな。珍しいことなので我もよく憶えている。」
「えっと…つまり、母様の曾祖母が日輪大社出身ということですね。」
「しかも、その者の子の父親は時の帝の弟だと言われておる。里に来たときには身籠っていたらしいからな。其方の母と静の母は里に残っているが、それ以外の者たちは殆ど里を出た。その祖父以外は何故か女系でな。皆静と似たような理由で出て行った。高貴な血とやらがあのような因習を受け付けぬのだろう。そう考えると其方はかなり帝一族の血が濃ゆいな。」
「この話、母様は御存知なのでしょうか?」
「そんなことは知らん。知ったところでどうなるものでもないしな。」
「それはそうですが…。しかし、何故そのような身分の方がここに流れてきたのでしょうか?」
「帝との後継者争いに敗れたらしい。人間は懲りることなく同じ様なことを繰り返すものだな。」
「なるほど…。私が特殊なのもそのせいでしょうか?」
「それもあるかもしれんが、そこは判らん。其方は其方ゆえに特殊なのだろう。でなければ、今の帝はもう少しましな者のはずだが、未だにあの都に住んでおるから、さほど優れた者ではあるまい。」
「確かに、都は御神域ではないでしょうから、御力が使えなくなりますね。」
「そういうことだ。」
「ですが、私が私ゆえに特殊というのは納得しかねます!」
「我の気配を感じる人間が特殊じゃないわけがないではないか。いい加減受け入れろ。素直さが大事と言ったであろう。」
「そんな意地悪を言うヌシ様は撫でてあげません!」
「なっ!?ま、待て、すまん!言い過ぎた、かな?いや、事実だから我は悪くないと思うのだが…。ほら、今其方の好きなモフモフとやらになるぞ!」
サクヤは呆れて失笑する。
「しかたありませんね。」
そう言って微笑んだサクヤは、アカイヌヌシを撫で回した。
山を下りたサクヤは一旦社に戻る。因みに途中で狸の妖魔を一匹退治した。秒殺だった。
(うん。この弓は凄いな。頭から尻まで貫通するとか、強力過ぎるかもしれん。)
社に一旦戻ったサクヤは調練を監督してから帰宅した。因みに妖魔を退治したことを弥九郎に報告したらドン引きされた。
「頭から尻まで貫通とか、ちょっとないわ〜。」
不貞腐れて帰宅したサクヤは、夕餉の時にコノハに気になっていることを質問した。
「ねぇ、母様と静さんの母様は従姉妹なの?」
「楓さんね、そうよ。」
「私初めて聞いた。」
「この里の人間なんて、大体が親戚みたいなものよ。下手すれば兄弟でも知らないことなんてザラだし。」
「確かにそうかも…。その楓さんは里を出なかったのね。」
「楓さんの旦那さんはこの里の人じゃないからね。そういう人も時々入ってくるし。この里で御力が使えない人は、大抵そういう人達の子孫ね。」
「やっぱり私達の血縁者は里の男に惹かれないのかな?」
「確かに言われてみればそんな人ばかりかも。なるほど、血は争えないわね。」
「因みに楓さんは御力が使えたの?」
「そうね、元巫女だから。でもどんな御力かは黙ってるんじゃないかな。皆知らないみたいだし。」
「母様はお爺さんのことを知ってるの?」
「ううん。私が産まれたときには亡くなっていたらしいわ。貴方のお婆さんも一旦里を出て他所の人と結婚したし。2人で里に帰ってきたあと、お婆さんは貴方が産まれる前に亡くなってるし、お爺さんは私が産まれてちょっとしたら里から出たらしいから、どこで何をしているかもわからないわ。そう考えると父親に無関心なのは貴方に言えた義理じゃないかも。」
「里から出て結婚して戻ってくるって珍しいんでしょ?」
「そうね。殆どいないはず。」
「因みにお爺さんはどんな人?」
「さて?知らないわね。物心ついたときにはいなかったし、聞こうとも思わなかったから。」
「やっぱり血は争えないのか…。」
「そうね…。」
(しかし、静さんと再従姉妹とは…。この里も広くはないから珍しくはないんだろうけど…。ただ、日輪大社から来たという人がどんな人だったのかは気になるな。私の御力と関係があるかもしれないし。)
【設定裏話】
自分で書いてて姻戚関係がややこしく、仕方なく系統図まで作ったりしてます。コノハの父は里の外の人。母親は里の人だけど、もう亡くなっている。で、コノハと静の母である楓が従姉妹だとわかれば十分です。




