鬼防寮発足
おはようございます
女子会の翌朝、目を覚ましたサクヤは驚いた。
千代がサクヤと同じ布団で寝ていて、しかもサクヤに抱きついている。安澄は布団に対し直角で寝ているし、伊都は布団から落ちている。
静と絢音は別の部屋で寝ているので様子は分からなかったが、似たようなものだろうと思った。
(千代が…離れない。どうしたものか…。)
「千代、寝ててもいいから離れなさい。」
離そうとすると余計に強く抱きついてくる。あげく、浴衣の合わせから胸に手を突っ込んできたので、これ以上は無理と判断したサクヤは、千代の頭を叩いた。
「…痛い…。」
「痛いじゃない!いい加減離れなさい。」
「嫌だ…。」
「何を言っている。寝ぼけるのも大概にしろ!」
サクヤが蹴り飛ばし、やっと千代は離れた。ただし、蹴り飛ばされた先が安澄のところだったので、次の犠牲者が出ただけであった。
千代に抱きつかれた安澄は、目を覚ました。
「ちょっと、千代ちゃん!離れてくれない?起きれないでしょ。」
千代は安澄の身体のあちこちを撫で回してから、薄っすらと目を開けた。
「サクヤ様じゃない…。」
「サクヤじゃないから離して!」
目を擦りながらムクりと起き上がった千代はサクヤを探す。
サクヤは見つかる前に部屋を出ていた。
井戸に行き、水を飲んでから顔を洗う。
手ぬぐいで顔を拭くと、その様子に見惚れていた男達と目が合ったので、逃げるように部屋に戻った。
(やれやれ、のんびりできる場所はないものか…。)
部屋に戻ると千代が土下座して待ち構えていた。
「申し訳ありません、サクヤ様!寝惚けていたとはいえ、大変な失礼を!」
「…いいよ。ただ、千代には飲ませ過ぎないよう、これからは注意する。」
「…反省しております。」
「あれ?安澄は?」
「気持ちが悪いと、厠へ行きました。」
「あぁ…。そうだろうな。」
そんな中でも、伊都はまだ寝ていたが、いつの間にか布団に戻っていた。
混沌とした朝を迎えたが、朝餉を済ませ里に帰る準備をする。
酷い二日酔いだった安澄は、サクヤに貰った薬で回復している。
「大変お世話になりました。」
「いえ、大したおもてなしもできず。引き続き『綾の泉』と『綾の露』をお引き立てください。」
そう言って絢音はお土産に『綾の露』を持たせてくれた。
「静さんは本当太兵衛さんとの結婚は考えてないのですか?」
「まだそんなことを…。結婚も何も、造り酒屋の従業員と酒問屋の間柄以上のことなどありません。」
「そうですか…。もしそうなったら遠慮なく言ってくださいね。心から祝福しますよ。」
「そんな日がくれば、ですね。」
「いやぁ、昨夜の途中からの記憶がないや…。どうやって部屋に戻ったのかなぁ。」
安澄が苦笑いしながら零す。
「宿の者に協力してもらって、部屋に運び込んだんだ。」
「えっ!?そうなの。早く言ってよ、お詫びもしてないじゃない。」
「よくあることだから気にするなって言っていた。」
「うぅ〜、恥ずかしい。」
「安澄でも恥じらいがあるんだな。」
「あるわよ!」
帰路は折角の機会だからと川船を利用してみた。おかげで丸一日かかるところが半日で里に帰れた。
帰還したサクヤ達は宮司の所に顔を出す。
「ただいま帰りました。」
「おぉ、サクヤか。随分早かったな。もっとゆっくりするのかと思ったが。」
「彼女等と夜を過ごすのは危険と判断し、早々に戻りました。」
「危険?どういうことだ?」
「ちょっと、サクヤ酷い!」
「事実だ。」
「危険かどうかは兎も角、大変でした。」
「伊都は一番平和そうだったぞ。」
「サクヤ様、申し訳ありません!」
「あぁ、もういい。真に受けないでくれ。」
「冗談には聞こえなかったが…。まぁ、楽しかったのならよい。」
女子がわきゃわきゃ雑談を始めたので、早々に収拾を図った宮司の判断は正しかった。
「楽しそうでよかったが、こっちは大変だったぞ。」
「何かありしましたか?」
「将軍がお忍びでやってきた。」
「右近様が?なぜまた。」
「そなたが例の件で使った薬の効力が高いことに疑問を持ったのだろう。無理もないことだがな。結構色々探ってきたぞ。本当に何とも掴みどころのない御方だな。」
「そうですか。何かコチラに問題は?」
「コノハ殿とも面会したが、コノハ殿にあしらわれていたのは面白かったな。」
「母様に?あぁ、薬を作ったのは母様だからですか。」
「そうだ。だが、御山で採取した貴重な薬草ということで乗り切った。納得はしておらんかもしれんが。」
「なるほど。ですが、乗り切ったも何もそが事実ですよ。」
宮司はサクヤをジト目で睨む。
「なんですか、その目は?」
「い、いや、まぁそういうことにしておこう。」
「なんだか煮え切りませんねぇ。」
「この話はもうよい。で、もう一件大事な話がある。安澄はもうよいぞ、お疲れ様だったな。」
「はぁ、では失礼します。」
サクヤは残された面子を見て不思議に思う。自分と千代は兎も角、伊都まで残っていたからだ。
「実は、山兵部に新たに寮を設置しようと思うのだ。その頭をサクヤに任せたい。」
「…話がまるで見えませんが…。」
「うむ、まぁ、早い話が其方は弓寮の隊長格でありながら、宮司の養女という立場もあって交渉から作戦指揮まで一手に担っている。さらに、治療から禊祓まで行い最早どの部所の者なのか判別がつかん状態だ。」
「…否定できませんね。」
「それらの行動の中心に鬼退治があることを鑑みて、鬼退治に関わるそれらの業務を一括して取り仕切る寮を設けようとなったわけだ。」
「宮司や藤十郎殿、頭達が匙を投げただけでは?」
千代がすかさず突っ込む。
「千代!その言い方では私が逃げたみたいではないか。」
「違うので?」
「違う!サクヤの行動が指揮命令系統を逸脱しているから、サクヤが自由動けるよう、鬼退治に関わる事案を一任しようとしただけだ。」
「弥九郎さん達の胃がもたなかっただけでは?」
「そ、それもある…。」
伊都の突っ込みに宮司は素直に白状した。
「はぁ~、分かりました。では自由にやらせて貰います。」
「待て、サクヤ!自由に動けるようにとは言ったが、相談役に藤十郎を付けるから、きちんと相談するのだ。好き勝手していいわけではない。」
「そんな事はわかっていますよ。人を何だと思っているのですか?」
「いや、まぁ、確かにここまで間違った選択はしていないのだが…。」
「まぁ、いいです。で、私と藤十郎さんだけですか?他のお役目はどうするので?」
「いざ戦闘となるときは山兵全体の指揮は其方に執ってもらうつもりだが、専任はサクヤと藤十郎の他、小平太、千代、左馬介、そして伊都を考えている。」
「私ですか!?」
伊都は何故この話に自分が混じっているのか不思議だったが、まさかの事態に驚愕の顔を浮かべた。
「うむ、私は危ないから反対したのだが、其方、最近力量がかなり増えておろう?疫病の治療に禊祓が有効なことが判ったゆえ、其方を専任としようと藤十郎が言うのだ。」
「なるほど。でも今回もそうでしたし、藤馬さんでも良いのでは?」
「藤馬には次期宮司として、私に代わって采配をふるってもらう。ただ、表向きはまだ公表しないがな。それはサクヤを面倒事から守るためでもある。」
「御自分が面倒事から逃れるためではないのですか?」
「仮に隠居したとしても、心労はなくならんから安心いたせ。」
「酷い言われようですね、サクヤ様。」
「千代もそう思うか。分かってくれる者がいて私も嬉しい。」
「サクヤさんと宮司は仲が良いのですね。」
「伊都、なぜそう見えた?」
「普通はお互い正面切って言い難いことを、言い合える仲なのかと思いました。」
「伊都は平和でいいな。まぁ、いいです。委細承知しました。そう言えば神楽はどうしましょう?」
「竜造は続けて欲しいようだが。社の収入に関わるから、藤五郎も同意見だ。」
「分かりました。新寮のお役目に障りがない程度になりますが。」
「ほぼ今まで通りだな。さてさて、新寮の名称はどうするかな?」
「鬼狩り寮ではややこしいですしね。」
「鬼寮では安直過ぎるしな。」
「サクヤさんは鬼を倒しもしますが、浄めで鬼が増えることも防ごうとしているのですから、鬼を防ぐで『鬼防寮』はどうでしょう?響きも『希望』と同じですし。」
「『鬼防寮』か。悪くないのではないか。のうサクヤ。」
「いいと思います。」
「では、サクヤ様の敬称は『鬼頭』でしょうか?」
「やめろ!何のことかわからなくなる。妙な敬称などいらん。鬼瓦みたいではないか…。」
「そうですね…。やめておきましょう。」
「では、小平太と左馬介、それから猿丸にも通達せねばな。」
「私が呼んで参ります。」
千代が部屋を出て行った。と思ったらすぐに帰ってきた。
「頭に指示されていたらしく、そこで待っていました。」
「そういうことか。では、小平太、左馬介と猿丸。其方等は本日付けで『鬼防寮』の所属とする。」
「宮司、何の事かわかりません。きちんと説明してください。サクヤがいるので、何となく察しはつきますけど…。」
宮司は3人に経緯を説明し、配属を決定事項として通達した。
「断るという選択肢はないのですね。まぁ、断る気もないんですけど。」
左馬介は観念したように受け入れる。
小平太も同様だった。
「サクヤのお目付役だと思って頑張ります。」
「お前は何様だ。藤十郎殿のお役目を奪うな。」
「酷え。だけど、前備えは俺だけでいいのか?」
「千代と私はどちらもできるから問題ない。」
「そうか。まぁ、役割がはっきりしてきたら次第に体制も整うだろうしな。」
「そういうことだ。今後も山兵達の鍛錬は継続してくれ。其方等には期待しておる。頼んだぞサクヤ、そして皆の者。」
「了解しました。乾のサクヤ、謹んで『鬼防寮』の頭を拝命します。」
「「了解しました。」」




