表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/90

【挿話】霊徳記 後編

おはようございます

霊徳記 後編 です

「やはり御心は変わりませんでしたか。」


 彬彦の屋敷を訪れた右大臣は天を仰ぐ。


「すまぬ、私の力不足だ…。」

「いえ、宮様のせいではございません。しかし、これであの計画を実行に移さねばならなくなりましたな。」

「いや、待て!やはり流石にあのようなことはやるべきではない。思いとどまってくれぬか?」

「宮様はお優しいですな。幸いまだ具体的な下行の話は出ておらぬようです。もう暫く様子を見ましょう。」

「わかった。私ももう一度進言してみよう。」



 翌日、彬彦は大社を訪れ、春平の話を宮司に告げた。


「春平が…、あの愚か者め。最近顔を見ぬと思うたら、そのようなことを企てていたのか。」

「結界術の秘匿は可能なのでしょうか?」

「あれは口伝でのみ継承するもので、私が春平に伝えぬ以上継承はできぬ。」

「そうですか。宮司さえご無事なら遷宮はなしえません。宮司が最後の砦です。」

「そこは任せておきなさい。私が揺らぐことはない。」

「宜しくお願いします。」



 彬彦は屋敷に戻ると、家人か慌てた様子で声をかけた。


「帝がお呼びです!至急参内せよとのこと。」

「帝が?分かった。直に参ろう。」


 彬彦は慌てて準備をし、御所に向った。


「帝、彬彦御召により参内しました。」

「彬彦、其方今日は何処へ行っていた?」

「今日ですか?先程まで大社の宮司のもとにおりましたが。」

「何の為に?」

「…帝に翻意していただけぬかと、無い知恵を絞っておりましたが、妙案が浮かばず、只々帝にお願いするほかないと。帝、もう一度考え直して頂けませぬか?」

「クドいと言うたであろう!お主朕が翻意せぬ場合どうする気だ!」

「とにかく伏してお願いするほかありません。何卒帝の御自らの為にもお考え直しください。」


 彬彦は床に頭を付け帝に願った。


「白々しいわ!お主、右大臣と謀って朕を退位させ、自らが帝に取って代わらんと企てておったのであろう!鳳大納言が知らせてきたわ!」

「そのようなこと!…確かに持ちかけられましたが、何としても帝にご翻意していただくゆえ思いとどまるよう申し伝えました。」

「では、何故持ち掛けられた時に朕に知らせなんだ?奴が其方の屋敷を訪ねたのはもっと前だったであろう?疚しいところがなければできたはずではないか?」

「そ、それは…。右大臣も帝一族と朝廷を思ってのこと。忠臣を断罪するは惜しく思いました…。」

「愚か者め!奴の屋敷にはもう兵が向っておる。あのような大逆人に情けなぞかける必要などない!」

「帝…。私はどうなってもかまいません!どうか、どうか遷都だけはご翻意を!」

「クドい!もうよいこの者を捕らえ牢につないでおけ!」




「すまんな右大臣。我鳳家は帝を裏切るわけにはいかぬのよ。」


 鳳大納言は焼け落ちる霄右大臣の屋敷を見つめほくそ笑む。


「弟宮も馬鹿なことを。もう御力で人の従わせる時代は終わったのだ。政は金と武できまる。帝など所詮飾りよ。豪華な神輿として我等に担がれておればよいのだ。もっとも、英の時代も何時まで続くかはわからんがな…。」


「お館様。終わり次第参内せよとのことです。」

「わかった。ここからが我等の生き残りに向けた本当の勝負だ。気を抜くな。」

「はっ!」





「彬彦殿、いや、最早罪人なら彬彦でよいか。謀反人霄は一族もろとも滅んだ。其方もお終いよの。」


 英太政大臣は彬彦を睨めつけて笑う。


「我が身などどうでもよい。だが、宮司がご健在である以上遷都はできても遷宮はできん。御神域のない都なぞ都に非ず。其方の思惑通りになると思うな!」

「ふん、愚かな。御力なぞ金と武の前に無力で無用のものよ。其方のような時代の潮流も読めぬ者は消えてゆく定めなのだ。」

「愚か者はお前だ。この取り返しのつかない愚行は、いつか帝と共にお前の身…、いや一族に降りかかる。お前達の天下は長くは続かんぞ。」

「黙るがいい。帝の温情もあり死罪は免れたが、遠流が決定した。二度と都の地を踏むことも叶わぬ。そうだ…あとあの娘、なんと言ったか…、そうそう旭とか言ったな。あの娘は可哀想だから我が妾として可愛がってやることにするから安心せよ。」

「貴様!」

「ははは!もう其方には何もできぬ。己の愚かさを恨むがいい。」


 3日後、彬彦は都を離れ、某島へと向った。




「旭、其方の嫁ぎ先が決まったぞ。今や最高権力者と言っていい太政大臣の妾となれるのだ。喜ぶがいい。」

「私は彬彦様と婚約中です。そのような話は承服しかねます。そのような事を幸平兄上がお許しになるはずありません。」

「愚かな。あやつは罪人として遠流だ。どうやって嫁ぐというのだ?幸平兄上の承諾なぞ必要ない。あれも間もなく幽閉される。」

「なんですって!そのような蛮行が赦されるとお思いですか!」

「赦されるさ。兄上はそのまま新都の日輪神宮に幽閉されて、形だけの宮司に就任して、何もできないまま一生を終えてもらう。私は晴れてこの大社の宮司だ。それ故、其方を如何に処そうとも私の自由だ。結界術の継承なぞ、最早不要な世の中になるのだ。」

「愚かな…。春平兄上がここまでの愚か者とは思いもよりませんでした。この期に及んでは是非もありません…。」


 旭は懐から短刀を出すと鞘を払う。


「春平兄上にはここで死んでもらいます。」

「馬鹿なことを。巫女である其方に人を殺めるなぞできるのか?ましてや女子の細腕で、俺に敵うと思うてか?」

「彬彦様を陥れ、兄を幽閉するような者は最早人に非あらず。妖魔や鬼を退治するのは巫女の務めです。覚悟!」


 春平はニヤニヤ笑いながら悠然と構えた。しかし、幸平の顔色が一変する。身動きが取れなくなったのだ。


「ま、待て!」


 幸平の懸命の叫びは旭に届くことなく、短刀の刃は腹に吸い込まれた。


「な、何故?!」

「御力を甘く見た末路です。」

「ぐっ、其方、そのような御力を使えたのか…。」

「御力は無暗に人に教えるものではありません。故に油断してはならないのです。御力を蔑ろにした朝廷の末路、想像できましたか?」

「…、がはっ…。」


 旭は短刀を抜くと、もう一度胸を刺した。


「本当はもっと苦しんで欲しかった…。でも、私にも時間がございません。」


 旭は部屋を駆け出した。


(彬彦様!必ずお助けします。)




 同じ頃、彬彦を護送する一団は、都の北にある湊に向っていた。

予定では湊から船に乗り、沖にある絶海の孤島に向う手筈になっていた。


 手足を縛られ、竹の籠に入れられた彬彦は、それでも目の力を失っていなかった。


「彬彦殿、ここで都ともお別れです。惜別の歌でも詠まれますか?」

「不要だ。そんなことより、私が最後まで帝の翻意を願っていたと伝えてくれ。」

「愚かな…。もうよい。ここなら人気もない。やれ!」


 護送していた兵は槍を構えると、揃って彬彦に向けた。


「好きにしろ。だがその報い、必ず受けてもらうぞ!」

 

 槍は八方から彬彦の身体を貫く。


「私を殺しても無駄だ。この怨みは必ずお前達一族、いや朝廷に関わるもの全てに降りかからせてくれる。私は怨霊となり、いずれ鬼となって貴様らにこの報いを受けさせる!その日を楽しみに待っておけ!」


 槍を抜かれた彬彦は、身体中から血を噴き出し、指揮した武士を睨んだまま絶命した。



 旭は何とか彬彦を助け出すため、都から湊まで懸命に駆けたが間に合わなかった。旭が見たのは、槍に刺されながらも朝廷への呪いの言葉を叫んだ時だった。


(あぁ…彬彦様…。赦さない、絶対に赦さない。彬彦様が鬼になるなら、私は生きながらえ我が血を繋ぐものに復讐をさせてみせる。)


 旭はそのまま都から姿を消した。




 幸平は英原の地で絶望していた。

 自らは幽閉され、彬彦の死を知らされただけでなく、春平の死、そして旭が姿を消したことも知らされた。

 幸平は右大臣との接触がなかったため、連座は免れたが、その立場だけが利用されようとしていた。


 幸平が幽閉された小屋は、そのまま日輪神宮の一部として周辺の建物が建造されていく。幸平のいる小屋は、摂社のような位置に置かれることになる。




 翌年、帝は遷都の勅を発し、正式に遷都された。実際には半年前から移り住んでいたが。

 大社はそのままに、日輪大神を分祀したということにして日輪神宮は創建された。結果として遷宮とならなかったのは、宮司である幸平が認めなかったことと、春平の死によって末の弟である清平が大社の宮司になり、その清平も遷宮を認めなかったからである。


 遷都の年から、朝廷は不幸に見舞われる。英原を流れる川が大雨により増水し、新都は浸水の被害を受け、多くの人が亡くなった。

 その冬には疫病が流行し、またも多くの人が亡くなる。人々は彬彦と前右大臣の祟りと噂し合った。(実際には洪水による衛生環境の悪化が原因)

 この疫病には太政大臣も罹患したが、なんとか一命は取り留めた。

 春になると帝の后、若葉が男児を産んだが、死産となる。若葉は産後の肥立ちが悪く、床に伏したままとなった。

 夏には干ばつが続き、秋は不作となった。帝は遷都を推進した太政大臣を叱責して罷免。なんとか汚名返上をと考えた英前太政大臣は、大社の宮司清平に新都の浄めを依頼しようと大社に向かったときに、妖に襲われ食い殺された。この妖はこの後妖魔になるが、大社は積極的に退治せず、妖魔に禊祓をして妖に戻すという荒業をやってのけている。(因みに朝廷から苦情がきたが、清平は無視している。)


 続く不幸に、とうとう帝が音を上げた。



「幸平、この通りだ。何とかしてもらえぬか?」

  

 2人きりの幽閉部屋の中で、帝は幸平に頭を下げた。


「今からでも遅くありません。都を御神域にお戻しください。それ以外にこの災難を逃れる手はありません。」

「それは無理だ。それではこれまで新都の為に尽力し、命を落としたものが報われぬ。」

「しかしながら、このままでは、更に死人が出るやもしれませぬ。帝とて例外ではありませんぞ。」

「御所は朕が浄めておるゆえ、あの様な不幸は繰り返させぬ。だが、都全体となると、朕の力だけではどうにもならぬ。」

「何度言われても、御神域に戻す他ありませぬ。」

「旭がどうなってもよいのか?」

「旭が!?どういうことですか?」

「旭の所在が掴めた。あれは今、赤犬の里に身を寄せておるという。其方の出方いかんで旭の処遇が決まると思え。」

「帝…、いや瞬彦ときひこ。其方、ついぞそこまで落ちぶれたか。都がここまで不幸に見舞われるは、帝である其方が邪心に塗れているからに他ならぬ。御所とていくら浄めようと、其方の邪心は祓いきれておらぬ。何れ御所にも不幸が訪れるぞ。」

「貴様!帝に向かってその様な言葉をはくとは!無礼であるぞ!」

「無礼がなんだ!其方の神に対する不敬に比べれば同じ人である其方への言などなんでもないわ!元は同族であろうが。お前達の血筋が絶えたら、宮司一族が補完すること、忘れたとは言わせぬぞ!」


 幸平は温厚な人物である。幽閉されても尚、怒りを見せなかった幸平の激昂に帝は躊躇いだ。


「すまぬ、幸平。旭には絶対手は出さぬ。なんとか、なんとかしてくれぬか?」

 

 帝とは思えぬ情けない態度に、幸平は毒気を抜かれる。


「頭をあげなさい。貴方は帝です。帝である貴方にそこまでされた以上、応えぬわけいにもいきますまい。ただし、これは永年続くものではありません。貴方の次の代で必ず都を戻すことを約束してください。」

「わかった…。で、如何にするのだ?」

「都に結界を張ります。もう一度言っておきますが、これは長く続くものではありません。その事お忘れなきよう…。」

「ありがとう、幸平。恩に着る。」



 その夜、幸平は息子の孝平を呼出し、結界術を継承した。


「孝平、結界術を継承したこと、決して誰にも言うてはならぬ。帝にもだ。よいな?」

「帝にもですか?」

「そうだ。知れば其方に都の結界の張り直しを命じるはずだ。だが、それは其方の命に関わる。よいな?」

「承知しました。」




 翌日、清めを終えた幸平は、渾身の結界術を都に施した。幸平はそのまま絶命した。


 

 結果として、帝が代わっても遷都は実施されることはなかった。帝は子に結界のことを伝えないまま崩御したからだ。

 帝が大社に行幸しようと都を出たときのことだ。橋を渡る途中で帝の乗っていた輿が壊れ、帝ごと橋下に落下。泳げなかった帝は溺死した。遷都から11年後のことだぅた。


 新しい帝(若葉ではない側室の子で10歳)が即位した後、神宮の宮司となっていた孝平は、結界が効力を失う前に遷都するよう進言したが、結果として黙殺されたまま時は過ぎ、今上の帝の御代まで遷都は行われることはないままである。


次回よりまた本編に戻ります

評価、リアクション、感想をお待ちしております

GW中も毎日更新目指してがんばりますので、

是非ブックマークしてお楽しみ下さい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ