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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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鬼防寮

おはようございます

「これでも急いでかけつけたんだけどなぁ。」


 征鬼大将軍である鐵右近は瑞の国の国府で頭をかく。

 童子を名乗る鬼が現れたとの一報を受けたのは、日輪大社で力量を満たしている最中だった。最初の一報は疫病の発生で、日輪大社に着いた直後に知らされた。「多くの死人が出る」そう予想されたが、終わってみれば死んだのは国守一人。あまりの軽微な被害に右近は伝令役に聞き返したほどだ。



「今回もサクヤ殿が関わったのか。」

「はい。熱で倒れた者の症状を見て、直ぐに疫病と判断して治療を行い、日輪宮の協力を得て感染者の治療と禊祓が行われたお陰で、最小限の被害に抑えることができました。」


 右近に報告するのは半兵衛であった。


「国守殿は何をしていたのだ?」

「国守様は早い段階で感染し、一時は回復されたかに見えましたが、身罷られました。」

「治療を受けなかったのかい?」

「国府の医術師の治療を受けていました。」

「サクヤ殿の治療との違いはなんだったんだろうか?」

「医術師は解熱薬と滋養の良いものを摂らせておられましたが、サクヤ殿は禊祓をしたうえで、赤犬の社から持ち込んだ薬を飲ませていたようです。」

「禊祓が必要だったのかな?」

「サクヤ殿曰く、鬼による呪詛を祓わなければ根治しないとのことで、体力が消耗した者のみに薬を飲ませていたようです。」

「なるほどな。サクヤ殿はなんでそんなことを知っていたんだろう?益々興味を引く娘だね。」

「身罷られた国守様には良い感情を持っておられなかったでしょうが、それを差し置いて治療にあたっていただきました。本当に慈悲の心をお持ちの方です。」

「なんだ、国守殿はサクヤ殿の機嫌を損ねたのかい?」

「いや、なんとも…。」

「さもありなんだね。あれらの性格を考えたら衝突は不可避だろうな。」


 右近は呆れて肩を竦めた。


「で、なんとか童子ってのは、霊徳童子とは別の鬼かね?」

「はい。『白銀しろがね童子』と名乗っておりました。龍神社の山兵が大怪我を負われたようですが、こちらもサクヤ殿の治療で事なきを得たと。」

「『白銀童子』ねぇ。しかし、サクヤ殿の治療ってのは?サクヤ殿は医術の心得まであるのかい?」

「これも赤犬の社の傷薬だとか。衣服は血塗れでしたが、すっかり傷が塞がっていて、私も医師も首を傾げてしまいました。」

「赤犬の社がそんなに調薬に長じているってのは聞いたことがないんだけどなぁ。しかし、傷薬で傷が塞がるとか妖術としか思えんなぁ。」


(または、帝の御力くらいか…。これは、赤犬の社を訪ねてみなきゃならんかな。)


 右近が考えていると、少将が駆け寄ってきた。


「将軍様自ら聞き取りなどなされなくても、命じて頂ければ我々が聞き取って報告致しますから。」

「これは趣味みたいなものだよ。それよりこれから赤犬の社に向かおうと思う。」

「赤犬の社ですか?余り堂々と入るわけにはいきませんが…。」

「そこが面倒なんだよなぁ。準備を頼むよ。」

「畏まりました。」

「半兵衛と言ったか?案内を頼めるかな? 」

「はっ!畏まりました。」





 サクヤ達が女子会に出かけた後、赤犬の社では緊急の頭会議が開かれていた。


「皆知っているとは思うが、サクヤの周辺が、一段と賑やかになってきた。」


 宮司が苦笑いで冒頭の言葉を発する。


「サクヤの立場が私の養女になったせいもあるが、かなり高位の人間との接触が増え、山兵の隊長格の本来の役割から逸脱しつつある。」

「弓寮の頭からもです。」


 弥九郎が思わず茶々を入れる。


「うむ。そこで、まだ本人にも伝えていないのだが、サクヤを頭とした新たな寮を作ろうと思う。」

「新たな寮ですか?では、サクヤは弓寮からも神楽寮からも離れると?」

「そこが微妙でな。サクヤの本来の役割というか、これまでなしてきたことを踏襲したまま立場を明確化したいということだ。」

「では、神楽は続けてもらえるので?」


 竜造は神楽寮の頭として、集客力の高いサクヤを手放したくないので必死である。


「そこは本人次第だな。」

「弓寮からは?」

「弓寮からは離れて、山兵部の新寮として立ち上げようと考えている。だから、弥九郎は弓寮頭のままだ。」

「…そうですか。」

「サクヤには鬼退治、特に霊徳童子の討伐に特化した寮の頭にしようかと思っておるのだ。将軍が関わってくることもあって、その辺りの交渉役も一手に担う、外交や破魔寮の一部機能も集約してしまおうかと考えておるが、どう思う?」

「元からある寮はそのままに、鬼退治に特化した部分だけを新寮に移すということでよいですか?」


 新七が手を挙げて質問した。


「そういうことだな。」

「人員は?」

「新寮専属としては数人、必要に応じて各寮から派遣しようと考えているが…。」

「なるほど…。専属になるのは誰でしょうか?」

「あくまで私と藤十郎の素案で、誰にも了承を得ていないことを前提に聞いて欲しいが、頭は当然サクヤ。相談役として藤十郎、あとは千代、左馬介、小平太、猿丸、伊都辺りを考えている。」

「伊都もですか!?」


 新七が目を丸くして声をあげた。


「今回の疫病騒ぎで、禊祓ができる者が重要なのが判ったのは知っておろう。サクヤ一人では負担が大きいゆえ、同期で気心も知れた伊都がよいのではと藤十郎が言うのだ。私は心配でしょうがないのに…。」


 宮司も伊都に関しては不服なようだったが、藤十郎に押し切られたのだろう。その顔を見た新七も諦めた。


「最早、我々のような古い世代の者が指揮する必要はないのだろう。私は藤馬に宮司の職を譲ろうと考えた。」

「なっ!?宮司、何を仰るのです!」


 皆が立ち上がり宮司の方へ身を乗り出す。


「待て待て。考えたのだがな、藤十郎に止められた。『今宮司が代わったら、何のためにサクヤを形だけとはいえ養女にしたのか分からなくなる。』とな。尤もなことだと私も納得し、自らの浅はかさを痛感したところだ。」


 宮司の言葉に落ち着きを取り戻すと、一堂は席に座り直した。


「だがな、世代後退は必要と感じた。これからは藤馬に宮司代行を務めさせ、実質の指揮を執らせる。今後の訓練を兼ねてな。だが、対外的には私が表に立つ。外には気取られぬようにせねばならんからな。」

「宮司、ご自分だけサクヤから逃れるおつもりですか?」


 弥九郎が恨めしげな顔で宮司を見た。


「其方とてサクヤが部下から外れたのだ。幾らか肩の荷は降りたであろう?」

「それは…そうなのですが。なんだか納得がいきません。」

「私とて全てから逃れられ…いや、まだ全てを藤馬に任せる訳にも行かぬのだ。それに、其方と私では歳が違う。ソロソロ引退を考えていい歳だと思わぬか?」

「本音が漏れておりましたが…。致し方ありません、分かりました。」


「弥九郎も納得してくれた。皆はよいであろうか?」


 宮司の言葉に頭達は頷きを返す。


「では、サクヤ達が戻り次第意向を伝える。そのつもりで動いてくれ。ただし、サクヤの了承を得るまでは、周囲に漏らさぬように。」

「「はい。」」



 

 自身の執務部屋に戻った藤三郎は藤馬を呼んだ。


「宮司、お呼びですか?」

「おぉ、藤馬か。少し話がある。」


 藤三郎は頭会議の顛末を伝えた。


「…これは、中々荷が重いですね。」

「其方から見て、サクヤはどう感じた?」

「何とも評価の難しい人です。持っている能力は申し分なく、御力だけなら私より宮司に適していると思います。やや危うさは感じますが、聞いた話では判断の誤りもないとか。多少当たりの強さはあるのでしょうが、礼節を弁え、正しき道を進もうとしていることがわかります。新寮の頭の任は充分務まるかと。」

「其方が優秀で良かった。そうでなければ本当にサクヤを宮司にせねばならなかったからな。」

「今からでも遅くないと思いますよ。」

「勘弁してくれ。母に叱られるぞ。」

「失礼しました。委細承知しました。覚悟はできています。」

「頼んだぞ。」


 少し肩の力が抜けた藤三郎は、用意された茶を啜った。



「宮司!失礼します。国府の使いの方が参られました。」

「国府?先日の疫病がらみの話か?見知った者か?」

「お一人は半兵衛殿ですが、あとの2人は見覚えのない者です。」

「そうか、応接室に通してくれ。藤馬、其方も参れ。但し、社の一員として控えておくように。」

「承知しました。」



 応接室には3人の男が待っていた。1人は確かに半兵衛だったが、真ん中に座る男は見覚えがない。だが、最も高位の者だろうと分かる。



「お待たせいたしました。宮司と乾藤三郎です。」

「いや、急な訪問申し訳ない。」


 男はヘラヘラ笑いながら頭を掻く。


「申し訳ないついでに人払いをお願いできますかな?宮司とそちらの方だけでお願いしたい。」


 そう言って男は藤馬に目を向けた。


「分かりました。下がるように。」


 宮司は控えていた者を下げ、宮司と藤馬だけが残された。


「すみませんね。私の素性を余り大っぴらにできないもんでね。申し遅れた、私は鐵右近と申しまして、柄にもなく征鬼大将軍など拝命しておるんですがね。」


 右近は苦笑いしながら自己紹介した。


「征鬼大将軍!う、右近衛大将殿でありましたか!」

「いやいや、そんな大層な官職は小っ恥ずかしいので右近で結構です。」

「それでは、右近様がどのようなご要件でしょうか?」

「いやね、以前こちらのサクヤ殿に大変お世話になりましてね、お礼も兼ねて挨拶に伺ったんですが、サクヤ殿はおられます?」

「いえ、生憎と留守にしておりまして。」

「留守?また妖魔か鬼の討伐にでも?」

「いえ、昵懇にしている酒蔵に招待されまして、休暇を兼ねて乃美の宿まで出かけております。」

「あら〜、時機が悪かったなぁ。まぁお互いに多忙だろうから仕方がないな。」


 右近は残念そうな振りをしているが、どうも本音が分かり難いと、藤馬は考えていた。


「ところで、そちらの若い方は、先日の疫病騒ぎの時にも国府におられたとか?」

「はい。禊祓要員として応援に向いました。」

「あぁ、やっぱりそうだったかね。しかし、この社は禊祓ができる者がそんなに多くいるのかね?」

「いえ、それ程は。宮司と私とサクヤくらいでしょうか。」


 藤馬は余計な情報は流すまいと、敢えて伊都の存在を隠した。


「優秀な人材が多くて、将来は安泰ですな、宮司。」

「私もソロソロ引退を考えてもいい歳なのですが、こう鬼が頻繁に出没しては、おちおち隠居もできません。」

「ははは、そりゃ残念だ。藤馬さんは宮司の息子でしょ?早く楽をさせて上げなさいよ。」

「その気持ちはありますが、まだまだ私では至らない点が多く、宮司候補の一人でしかありません。」

「おや?こんな立派な御子息がおありなのに、まだ決まってないのですか?」

「はい。サクヤも優秀な巫女ですので、まだ決めかねております。」

「そういえばサクヤ殿も養女でしたな。確かにあれでは迷うかもしれませんな。」


(わざとらしい。何とも掴みどころがない御仁だ。これは下手なことは言えんぞ。)


 藤馬は内心冷や汗をかく。宮司は少し青ざめている気がする。

 将軍との捉えどころのない会話は永遠のように感じた2人だった。


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