女子会
おはようございます
サクヤと同期2人に千代を加えた一行は、乃美の宿にある宿で開催される歓待の宴という名の女子会に参加するため、赤犬の里を出発した。
静は先発して、絢音にサクヤ達の来訪を伝えることになった。
女子4人で旅に出るので、護衛を付けるよう宮司に言われたが、サクヤと千代より強い護衛などいないと一蹴した。
「泊まりがけの旅なんて、神楽団以外では初めてだから、ワクワクするわ。」
安澄は興奮していたが、伊都は少し不安気である。
「伊都、そんな顔しなくても大丈夫よ。サクヤも千代ちゃんも旅慣れてるし、何より最強の護衛だからさ。」
「そこは心配してないけど…。面倒事に巻き込まれたとき、サクヤさんが怒ることになったらと思うと、そちらが不安で…。」
「伊都、しれっと失礼なことを言うじゃないか…。」
「あっ、ごめんなさい!でも、ほら前から怪しげな人達が…。」
伊都の言う通り、前から怪しげな男が5人、ニヤニヤ笑いながらやってくる。
其々が手に獲物を持っており、刀は既に抜身になっている。
「なんという典型的な悪者だ…。櫛の国にでも来た気分だな。千代、任せた。」
「任されました。」
「よう、ねぇちゃん達。女4人だけで旅とは随分不用心じゃないか。俺達が護衛してやろうか?」
男達は相変わらずニヤニヤしている。
「必要ありません。邪魔するようなら容赦しませんよ。」
「おいおい、瑞の国は幾分平穏とは言え、物騒な連中も少なくないぞ。遠慮はいらねぇから、護衛料も安くしとくぜ。」
「だから、不要だと言っています。そもそも本当に護衛になるとは思えませんし。」
「やれやれ、どうなっても知らねぇぞ。精々気をつけろや。」
そう言って男達はサクヤ達が来た方に去って行った。
「…本当に護衛するつもりだったんでしょうか?」
「どう見ても怪しかったけど…。」
「余り邪心がなかったようだから、本当に護衛してくれるつもりだったらしい。下心がないとは言い切れないが。」
「紛らわしいわね!なんで刀を抜身で持ち歩くのよ!」
「鞘を持っていなかったので、そうせざるをえなかっただけでしょうね。」
拍子抜けした4人だが、その後現れたガチの賊は、千代があっさり撃退した。
「千代ちゃんも恐ろしい程強いのねぇ。」
「いえ、まだサクヤ様の足元にも及びません。」
「あれで足元にもって、サクヤってどれだけヤバいのよ。」
「千代が持ち上げているだけだ。真に受けるな。千代は私と互角に渡り合える。」
「そのようなことは!」
「自信を持て、千代。お前はハクリ様からも一本とったんだ。」
「ハクリ様?」
「は、ハクリ様は、白狐の社の腕利きの剣術指南だ。恐ろしく強い。」
「へぇ~、そんな人がいるのねぇ。」
(『人』ではないがな…。)
サクヤが冷や汗をかきながら誤魔化すのを、千代は少し呆れた顔で見ていた。
そうこうしながらも夕方には乃美の宿に到着した。
「いらっしゃい。よく来てくれたわ。ささ、上がって上がって。」
静が宿の番頭さながらに案内する。
用意された部屋には、酒宴の準備が整っている。あとは主賓が座り、料理が運ばれて来るだけだ。
部屋に入ると絢音が出迎えの挨拶をする。
「ようこそいらっしゃいました。サクヤさんのお陰で、うちの蔵はなんとか持ち直し、父が亡くなる前の売り上げを超えるほどになりました。今日はその感謝を込めておもてなしさせていただきますので、存分にお楽しみください。」
「ご招待ありがとうございます。それ程の貢献をしたつもりはないのですが、折角の機会ですので、親睦を深めることができたらと思います。」
「さあさあ、堅い挨拶は程々にして楽しみましょう!」
静の音頭で料理が運ばれてきた。
「凄い…。こんなに食べ切れないわ。」
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「それぐらい、サクヤさんは売り上げに貢献してくれたもの。これでも足りないくらいだわ。」
安澄は夢中で食べている。伊都は少食なので、少しずつ取り分けて噛み締めている。
「うん、やはり『綾の泉』は美味いな。だが、これまで飲んだ甘口とは違い、少し辛口で料理の邪魔にならず、寧ろ引き立てている。これは同じ材料からできるのですか?」
「基本的な材料は同じだけど、酒母が違うし、米の磨き具合(精米歩合)も変えてるの。味わいがかなり違うから、銘柄も『綾の泉』ではなく、『綾の露』って変えることにしてるわ。」
「変えることにってことは、まだ販売されていないので?」
「うん、これから売り出していこうと思ってるの。卸問屋の太兵衛さんもその気になってるしね。」
「太兵衛さん?どんな人?」
安澄は酒の味より男に興味をもったようだ。
「太兵衛さんは静さんのいい人よ。」
「ちょっ!絢音さん!何を言っているの!」
「だって何時も楽しそうに話しているし、顔も好みで決断力や行動力もお眼鏡に叶ったんでしょ?」
「それは、そのまぁ、悪くはないと思ってるけど…。」
「え〜、そんな出会いもあるんだぁ。里の男から選ばなくてもいいなら、選択肢は広がるわよねぇ。」
安澄は興味津々で聞いている。伊都も興味がないわけではなさそうだ。
(う〜ん、やはり場違い感が拭えない。)
サクヤは他人の恋愛話など全く興味がないので話についていけず、ひとり盃を傾ける。
「そういえば、千代ちゃんはどうなの?左馬介君と同期で行動を共にすることも多いじゃない。」
安澄は酒の力もあってノリノリで千代に絡む。
「私は…、少なくとも左馬介には興味がありません。かといって他の殿方にも…。」
「も〜!サクヤの教えが悪いんじゃない?」
「そのようなこと、教えたことなどない。」
「だから、貴方の背中を見て育つからこんなことになるのよ。」
(まずい、矛先を変えなければ…。)
「私や千代より、絢音さんの方が跡取りの心配が必要なのではないか?」
サクヤの振りに乗せられ、皆の目線が絢音に向う。
「わ、私はねぇ。今は蔵のことが手一杯で、それどころではないかな。」
「でも、共にもり立ててくれる人がいたら助かりますよ。」
「それは静さんがいるから。」
「静さんが太兵衛さんとくっついて、嫁に行ったらどうするのです。また1人じゃないですか。」
「ちょっと、勝手にくっつけないで。私はまだまだここでやることがあるの。そう言う安澄さんは目星はつけてるの?」
お互いが攻撃に晒されないよう牽制し合う。サクヤはもう帰りたくなって来ていた。
(これなら阿呆な国守あたりとやり合う方が余程楽だ。嫌な予感がしたが、間違いではなかったか…。)
安澄が適当に躱しつつ、話を伊都に振った。
「えっ?!私ですか?特にはいませんし、いても宮司の目が厳しくて…。」
「あの姪馬鹿はそんなことにまで口を出すわけ?」
静の暴言が飛び出すほどに、皆酒が回り始めた。
「あたしはね、サクヤさんにあの因習を打ち破る突破口になって欲しいのよ!私が貴方より歳下なら、里を出なくても良かったかもしれないのに。」
「い、いや、そのようなことを言われても。私の一存で変えれるものではないでしょう?」
「いや、サクヤならできるかも。今後サクヤが成人して里を出るって言い出したら、絶対引き留めにかかるから、その時がいい機会じゃないかしら。」
「サクヤ様はどうなさるおつもりなのですか?」
珍しく千代が食い付いた。
「ぐっ、千代まで…。私は恐らく里を出ることになると思う。私の存在は、宮司達にとっても面倒事でしかないのではないだろうか?」
「そのような事はありませんが、サクヤ様が里を出るなら、私も付いて行きます!」
「いや、千代は千代の好きなようにすればいいと思うが。」
「ならば付いて行きます!」
「相変わらず女子にばかりモテるわねぇ。」
「でも、実際静さんの充実した顔を見ていると、このような生き方もいいかもしれないと思いました。何者にも縛られず生きてみたい気がします。」
「サクヤさんには難しいかもしれないわね。だって、穢れや邪心に溢れる状態を放っておけないでしょう?」
「それは…、そうかもしれません。」
「霊徳童子だったかしら?その鬼を倒してから考えてみてもいいんじゃない?サクヤさんはそんな運命なんじゃないかって気がするの。」
「そうですね…。それからでも遅くはありませんよね。」
「そう!それに、鬼を倒すために強い殿方と良い仲になったっていいわけだし。」
「あっ!それいいですね。サクヤ、あの鬼狩りの組長とかどう?この間、貴方が国府に行っているときに訪ねて来たわよ。」
「馳遊馬が?あぁ、そう言えば訪ねて来いと言った気がする。そうか留守の間にきたのか。」
「何々、いい話でもあるの?」
「いや、武器に御力を付与してやろうかと思っただけだ。鬼狩りが強くなるにこしたことはないからな。」
「もうっ!全く色気がないわね。」
安澄は自分のことのように怒っていたが、静が真面目な顔でサクヤに話す。
「サクヤさん。貴方、里を出るのはいいと思うのだけど、当面他所に漏らさない方がいいわ。」
「なぜですか?」
「自覚がないようだけど、サクヤさん程の器量で強くて御力もある女子を、周りが放っておくわけがないわ。サクヤさんが里を出ると知られたら、争奪戦は必至よ。」
「…とても面倒臭いことになるのは分かりました。当面黙っておきます。」
「まだ成人まで時間はあるもの。鬼退治以外にやりたいことが見つかると思うわよ。」
「別に鬼退治をしたいわけではないのですが…。のんびり母様と薬でも煎じて暮らせればそれでいいのですけどね。」
「サクヤに平穏な暮らしとか無理だと思うけどなぁ。」
「安澄さん、それは誰もが思って口にしなかったことよ。」
「安澄が酔うと絡み酒になることが判ったから、これからは遠慮しよう。」
「ちょっと〜!酷くない?伊都!寝てるんじゃないわよ!まだまだ夜は長いわよ!」
こうして安澄が暴走しつつも、女子会は大いに盛り上がった。
【設定裏話】
綾の露のモデルは島根県松江市で造られる「豊の秋」です。淡麗辛口で料理を引き立ててくれます。銘柄のでピンときたかもしれませんが、豊秋彦の名前もこのお酒からいただきました。私は参加したことがないので女子会の様子など完全に想像ですが、少し羽目を外した安澄を書いてみようと思い立ったエピソードでした。
皆さんの評価、感想、リアクションをお待ちしています。豊の秋のような辛口の評価でも構いません。
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